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「00Muse」 4-2






 マチスが本隊に復帰したのは翌月のことだった。

 何しろ派手に怪我をしたものだから、知った顔に会う度に色々と言われてしまう。それでも、結局は怪我の回復を祝ってくれた。

 彼がいない間の第五騎馬大隊は激戦をどうにか乗り越え、死者は三十人程度で済んだという。戦死者が出たことは無論辛いものがあったが、戦いの規模を思えば生き残った人達に感謝したい思いでいっぱいだった。彼の代理を押し付けられた副官のボルポートは、代理として託されたのだからどうにかなったのであって、マチスが何もしなくてもいいというのではないと釘を刺してきた。これからは彼に任せておけば楽ができると、うっかり言ってしまったのがいけなかったらしい。

 奪回戦そのものも割合うまくいったらしく、人質救出の時に体を張った司祭の話やら、城内に居たマムクートをマルスが竜殺しの剣で見事に倒した――ちゃんと立ち直っているじゃないかと思ったものだが――話やら、宝物庫に潜んでいた将軍の話やら、ボルガノンの魔道を使ってきた敵将との対決の話やらと、ともかく逸話に事欠かない。

 そして、アンナの恋人であるジェイクと会う機会があった。シーダが嬉々として彼を説得に成功したことを語って、頼みもしないのに引き合わせてくれたのである。戦車兵というジェイクの印象は特にこれというものはなく、そこらに居そうな町の兄ちゃんといった感じだった。アンナと会った時のことをおノロケが過ぎて困ると言っておいたら、彼は実に喜んでいた。本当にあったことを語りすぎてあらぬ誤解を受けたくないし、これはこれで間違いを言ったわけではない。

 もうひとり、新たに会った人物がいた。改めて、ということになる。

 垂らしていた髪を結い上げて女性魔道士の出で立ちをしたリンダは、先月の時とは全く別人のように見えた。

「ノルダの時はご迷惑をかけて、申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げて謝罪するリンダに、マチスは何も言わなかった。オーラで怪我を負わされた事はさほど気にしていない。どちらかといえば、あの町を不安に陥れてしまった罪の方が大きいのだ。

 事の全てをリンダから聞いたウェンデルによれば、捕まっていた奴隷市場から救い出されたものの、保護者を突然失ってまだ解放されていなかったノルダの町にひとり残されてしまったのだという。保護者の仲間の騎士を捜そうにも手がかりひとつなく、まもなく来るという同盟軍を信じてずっと町の中に潜んでいたが、こうした生活に不慣れな身では食べる物がうまく手に入らず、やがて生きるために契約していた精霊の力をじかに頼るようになって、今度の事件に繋がっていったとのことだった。ちなみに、マチスと対峙した時は再契約の最中で、強力な光の精霊の制御に集中力のほとんどを取られていたという。

「……本当は、一から修行し直そうと思いました。ですが、人間の存亡をかけた戦いに、この力が必要だと様々な方から説得されて……」

「まあ、力がありゃ欲しいって言うだろな。……それが戦争だし」

「でも、わたしはまだ精神が未熟です。もし、再び使い方を間違えるような事があったら、オーラの魔道書をニーナ様にお渡ししようと思っています」

「……それはいいけど、別におれにそれを言わなくてもいいんじゃないか?」

「わたしが間違いを起こさないように見届けて欲しいんです。その時をじかに見た人に」

「気の持ちようってやつか」

「はい」

 真剣な眼差しのリンダに、マチスは小さく頷いた。

「この軍に居る間だけでいいなら、見届けるよ。それなら、おれでもきちんとできそうだからな」



(00Muse:end)





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