トップ同人活動記録FE暗黒竜小説INDEX>8 SPIRITS 1





FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(8) 「SPIRITS」
(2005年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
8
SIDESTORY
604.12-605.01
{AKANEIA]



 以前グラと国境を接していたメニディを、元の主であるアカネイアが取り戻したのがアカネイア歴六〇四年の十二月。後に暗黒戦争と呼ばれるこの戦争の記録において、同年を締めくくる出来事として記されることになる。

 同盟軍の大きな目標だったパレス奪還から一月余りでこれを達成したわけだが、今まで信じられないほど少ない勢力や時間で勝つような戦いを続けていたせいか、彼らの戦いにしては割と普通というか、そうした派手さがなかったために、後世の歴史家はおろか、当時の人々でさえもこの戦いはあまり重く見ていなかった。

 傍観者からはそういう風に扱われてしまった戦いだったが、パレス奪還という大きな戦を終えた後で北の国境線を取り戻すために、秋もたけなわの頃に動こうというのは、先の戦いの時とは違った賭けの要素を孕んでいた。十月の下旬にパレスを取り戻しはしたものの、元々はアカネイアの王都であっただけに戦後処理の量は膨大なものになったばかりか、今度は海からの敵を警戒しなければならない。そうこうしているうちに一カ月も過ぎれば、冬の到来は目前という状況だ。本格的な冬になれば燃料や物資の補給が膨大な量になり、不利な戦になるのが目に見えている。

 ここは無理をせずに万全の状態で次の戦いに備えるべきという意見が声高に上がる中、聖騎士ミディアを始めとするアカネイアの騎士達は、メニディ奪回を熱望した。

 パレス奪回の際に、アリティアやオレルアンの武力に大きく頼ったことを彼らは腑甲斐なく思い、また、元々のアカネイア領の中でメニディだけが奪われたままである事を挙げ、このままではとても新年を迎えられないのだと強く訴えかけたのだ。

 軍議の場にアカネイア人が増えていたことも手伝って、それから瞬く間にメニディ奪回に賛成の流れになり、かの地が雪に覆われる前にと条件をつけた上で決行されることになった。

 この時も総大将としてパレスに残ることを良しとしなかったアリティア王子マルスが軍を率いたものの、実際にはミディアやジョルジュらアカネイア勢が軍勢の先頭に立ち、メニディを守っていた『グルニアの木馬隊』と呼ばれる戦車部隊の撃破に当たった。

 そして、メニディもアカネイアの手に戻ることになったのだが、この時特に目立って活躍したのはマリクやリンダといった特別な魔道の使い手と、この地に潜伏していたディールの戦車兵ベックだった。

 グルニアの戦車は木馬隊と呼ばれているが鉄で覆われており、機動力を犠牲にして大掛かりな兵器をつけたことによって絶大な攻撃力と防御力を誇る兵器である。そんなものが石垣で挟まれた狭い通路を塞ぐように配置されていたのを、魔道の使い手は正面から、そして対戦車の兵器を石垣の上に置いたベックは頭上から攻撃して殲滅せんめつさせたのである。鉄壁の兵器であっても機動力がなかったために、魔道の前にはその名前も形無しであったらしい。

「そりゃ、目に痛そうな戦いだったこと……」

 メニディの戦いの様子を聞いていたマチスは、疲れたように肩を落とした。

 その時期彼の部隊は、前線の補給路確保のためにメニディより二日ほど南下した地点を中心にして、北へ南へと行き来していた。最前線に行かないのはもはや恒例となっている感もあるが、ワーレンの件を筆頭として本隊のすぐ後ろに置いておくことで前線に出るよりも実績を作ってしまっている。だから、そういう意味で信頼されるのも無理のない事だった。そして何よりも、下手に前線に出て、捨て駒にされたくないという気持ちが彼らの中にあるのだから、ある意味ではうまくいっている。捕虜から救い出された身としては図々しいことこの上ないが、あまりへりくだりたくないのも正直な気持ちだった。

 メニディのあらましを語った伝令は、ふと思い出したような様子でこんな事を言い出した。

「これはメニディで噂になっていた事ですが、じきにハーディン公の聖騎士叙勲が執り行われるみたいですよ。ニーナ王女の希望だとか」

 オレルアン王弟ハーディンは〈草原の狼〉と呼ばれているが、数々の武勲を挙げているにもかかわらず聖騎士の称号は持っていない。彼についた異名そのものがオレルアンでは聖騎士とほぼ同義、時にはそれ以上の力を持っていたために必要なかったのではないかと言われている。だが、なければないでどこか物足りなく思えるのも事実だ。

「でも、どうしてマルス王子ではなくハーディン公なんでしょうね。同盟軍の総指揮官はマルス王子なのに」

「まぁ、マルス王子にはあの紋章があるからな。差ができたままなのを嫌がったんじゃねぇ?」

 と返しつつも、マチスはこの話にあまり関心がなかった。

 紋章も勲章も、彼自身の行動に関わる力ではない。最優先されるのはその力がどのように行使されるかであり、過去の功績ではない。自分が祖先の『過去の功績』に甘えている身だから全くもって説得力がないため、偉そうに言えた義理ではないのだが。

 しかし、この話が本当で、よほどの事がなければ、叙勲式に出席する羽目になりそうだった。そうでなくても、メニディの戦いが終わったらパレスに戻る指示を受けているだけに、余計に気乗りがしない。

 王族だの上流貴族――特にアカネイアの――だのといった連中を見ると想像するだけでも疲れる思いがするのに、厄介な事を増やしてくれたと思ったものだった。





第七巻の最後へ                     NEXT




サイトTOP        INDEX