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「SPIRITS」 2






 帰途は山脈に沿っていただけに雪で身動きが取れなくなる懸念があったものの、マチスら後続の部隊だけでなくメニディ攻めに関わった騎士達も年が変わる前にパレスに戻ることができた。

 そして、年明けの段階でちょうど面子が揃ったこともあり、マチスや彼の部下達は、年が明けた最初の宴を日頃親しくしている他の部隊と一緒にひたすら呑み騒いだ。

 この同席した顔ぶれというのがドーガとロジャーの部隊や、タリス勢といった豪快を絵に描いたような連中だったため、早速飲み比べが始まり、あまり強くないと公言しているマチスさえも巻き込まれて早々に出来上がってしまう始末だった。いつのまにか腕較べなども行われて、それはそれは色んな意味で盛り上がりを見せた。

 だが、オレルアンの時とは違って、隔離されることや重大な事件はなく、やたらと騒がしくなった事以外は平和的にお開きにすることができた。

 ところが、後日マチスに降りかかった問題があった。酔った時にちょっとした不満をぶちまけたために文句を言われてしまったのだが、本人はすっかり忘れてしまっているのでその辺りでややこしい事になった。

 当人が覚えていないというのに対し、相手はたとえ酒の席でもとんでもないと言い続けるので、しまいには、この件で直接関係ない人物が仲裁に乗り出してきた。

「そんなに、その力はない方がいいと思っているのですか」

「そりゃ確かに、ないよりはあった方がいいだろうけど、アテにできないってのも結構きついんだよ」

「ノルダの時は無意識ながらも感知したと聞きましたが、それなら十分に当てにできるのではありませんか?」

「オーラとかエクスカリバーみたいな魔道がゴロゴロ転がってるならそうだろうけど、戦場に出てくる魔道士がみんなそういうもんじゃないだろ?」

「そう言われてしまうとそうですね……一人前の魔道士全てがあの魔道を使えても困ります」

 マチスの向かいに座って、音を立てずにしかしのんびりと薬草茶をすすっているのはカダインの高司祭ウェンデルだった。このふたり、年はだいぶ離れているが茶飲み友達でもある。今回はたまたま弟子の嘆きを聞きつけて、この話に及んでいる。

「けれど、マリクの苦情も汲んでくれませぬか。彼は才気によって超魔道を得ましたが、研究者としては入口に立ったばかりです。それなのに、必中の魔道を避ける手立てを持つあなたが『この力は要らない』と言ってしまわれては立つ瀬がありませんから」

 仮にマチスからこの力が消えれば、エクスカリバーの魔道にとって脅威は消えるのだからそれで良さそうなものだが、面倒な講義が始まっても始末に負えないのでその代わりにぼやいてみせた。

「だからって、酔っ払った時に言った事で目くじら立てられても困るんだけどなぁ……」

「わたしとしては、あなたが簡単に酔ってしまった事の方が意外でしたよ。お酒に弱いというのも、実は見せかけだけだと思っていましたから」

 おや、とばかりにマチスは首を傾げる。

「そんなに強く見えないと思うけど……?」

「だから、それを利用したのだと思いました」

 マチスはうっかり卓に突っ伏しそうになった。

 間違いとわかった上での発言とはいえ、そこまで真っ正面から言わなくてもいいじゃないかと思う。

「そんな、はっきり言わなくても……」

「おや、そうなのですか?」

「そういうわけじゃなくて……あれ、もしかしておれって嘘つきだと思われてる……?」

 ウェンデルは、この問いに対して静かに微笑んでみせた。

「一応、オレルアンで論功行賞に出なかった前科がありますから、原因があやふやな事が起これば疑われやすい立場にあるでしょう。けれどオレルアンからここまで、そういった事に巻き込まれなかったのであれば、おそらくは大丈夫かと思います」

 いいんだか悪いんだかわかりづらい太鼓判を押されることで、その日の地味な茶会はお開きになった。

 ウェンデルのとりなしが効いたのか、それからはマリクから苦情を言われることもなく、一月の中旬に予定されていたハーディンの聖騎士叙勲の日はすぐにやって来た。





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