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七 帰郷の旅人



 グラン歴七七九年一の月。

 コノート郊外の孤児院の前に三人は立っていた。

「よく帰ってこられたよね、あたし達……」

 しんみりとしたように聞こえなくもないパティの言葉に、全くだとファバルとアサエロは頷く。

 パティがホークやフェミナ、デルムッド、ナンナの助けでヴェルトマーから南下したのが十の月の半ばで、セリスの猛追を振り切ったと確信できたのは年明けの目前。その後で追ってきてくれていたファバルとアサエロが合流し……気づけば馬車で一月の道程を倍以上かけて帰ってきたのだ。

 恐るべし、皇子様の執念といったところである。

「ま、いっか。帰れたんだし」

 ようやく帰ってきたのだからと、さぞかし子供達に体当たりの質問にあうだろうと思い、心構えをした上でパティは扉を開けたのだが、中には怖いくらいに広い礼拝堂にデイジーが一人でいただけだった。

 デイジーは手にしていた縫い物から目を離して振り返ると、

「おかえり。遅かったね」

そう言って作業を再開した。

 あまりにもそっけなくて三人は気まずくなった。

「こういう時って感動の対面とかってやつじゃないの?」

「留守が長くて怒らせたかな……」

「他に誰もいないのはおかしくないか」

 アサエロの疑問にパティは頷いた。

「そうだよね……」

 彼らの記憶の中では孤児院は子供達が暴れ回っていていつも誰かが怒鳴っていた。だが、今はデイジーが一人でいるだけである。

 パティはあることに思い当たり、口を手で覆った。

「まさか、子供狩りに遭ったんじゃあ……」

「そんな事はないだろ。ここは解放軍が来たし、暗黒教団は一掃されたんだから」

 安心させるように言うファバルは、その実自らの動揺を押さえ込もうとしている。

「でも、完全じゃなかったら? デイジーのいない時にやられちゃったかもしれないじゃない!」

 そこへ別の声が割り込んできた。

「だったら意地でも取り返しに行くに決まってるでしょ」

 三人が唖然とする中、デイジーは立ち上がって歩み寄るやパティの顔をのぞき込んだ。

「パティ、ただいまは?」

「ただいま……」

 次いで、男二人に照準を合わせる。

「アサエロ、ファバル、手柄は上げてきたでしょうね。あんた達の取り柄ってそれしかないんだから」

「ひっでー……」

 ファバルはどうにか口答えしたが、アサエロは何も言い返せなかった。孤児院の苦しい内政事情を乗り切ってきた十七歳の女傑にはかなわない。

「ま、いいや。入りなよ。休みたいでしょ」

 居間と兼用する寝室に荷物を置き、パティはすぐにデイジーが作業する向かいにとって返した。

「みんなは?」

「仕事行ったり、字を習いに行ったよ」

「へ……?」

 子供達はパティよりも五つくらい年下の子が中心である。まだまだ面倒を見なければと、パティばかりでなく兄二人も思っていたのだ。

 デイジーが難しい顔でため息をつく。

「あんた達さ、もういらないってほどお金とかを送ってきてくれてんのよ。食べ物もほとんど困らないし、服もきれいにして、あとは何を買おうかって思ったら……ガキんちょどもが世話になりっ放しでいるのはイヤだって言い出したの。生意気な事言っちゃって、って流そうと思ったんだけどね」

「本当に?」

「嘘みたいでしょ。いつかは『お父さん』や『お母さん』に返すから今は貸して、って先生探したり、仕事を始めるための道具を買ったんだけどね」

 パティは感心して頷いていたが、少し引っかかりを覚えてデイジーに訊いた。

「お父さん?」

「アサエロとファバル」

「お母さんって?」

「あんた」

 指までさされたパティはあまりいい気がしなかった。

 母親代わりを自覚していたから当然といえば当然なのだが、真っ向から言われるとやはり気になる。

「じゃあ、デイジーは何なのよ」

「決まってるじゃない、お姉さんよ」

 これはパティにとって大問題発言だった。

「あんた、あたしより年上でしょーが!」

「美人の称号は『お姉さん』って決まってるのよ」

「よくもいけしゃあしゃあと言えたもんだね」

「強いオンナは自己主張が大事なの、覚えときなさい」

「……あんたロクなオバサンにならないよ、きっと」

「それこそ大きなお世話。あんたこそ変なオトコに丸め込まれないよーにせいぜい用心することね」

 騒がしいオンナ二人を放っておいて、アサエロとファバルは床に置いた荷物に背を預けていた。

「子供がいなくても騒がしいな」

 ため息をつくアサエロに、ファバルは笑って言った。

「いいよ、これで。もうあんなのは沢山だ」

「何が」

「御家騒動ってやつ? 俺、貴族に向いてないんだよ」

「結構楽しんでたくせに」

 ファバルは真顔になった。

「そうか?」

「どうやってレスターをユングヴィの主に押し上げるとか、そういう作戦を練っていた時は生き生きしてた」

「それは別だろ。あれは貴族じゃないようにするために……」

 アサエロはファバルの言葉を遮る。

「どうしてユングヴィに行かなかった。ここが気掛かりだったか」

「それもあるけど……ほら、アサエロの嫁さん見るまで、安心してここを離れられないから」

 突拍子もないことを言われ、顔を赤くしつつ反論しようとするアサエロをファバルは笑って抑える。

「俺とパティは母さんが死んでからはここで育ったんだよ。家もここで、もうあんたとデイジーがいて。俺らは四人みんなが兄弟で親なんだよ。だから、帰るのはここなんだ。俺は、みんなが何かの道を得た時に、初めてどこかに行ってもいいって気になると思う。
 それじゃいけないかな」





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