トップ同人活動記録FE聖戦 風パティ小説 INDEX>五 悪夢はひっぱたいて退散させよう 5



HOLPATTY 5-5




 パティの目には、黒蜥蜴のように見えた。

 バーハラの城内であるらしき所に飛ばされてから、初めて生きているものに会ったのが、その小さいものだったのだ。

 しかし、それは宙に浮いている。

 どこかへ行こうとしているらしく、足をバタつかせているのだが、一向に前に進まない。

 パティはこの珍妙な生き物を一旦無視する形で辺りを見回したが、人の気配はない。ホークどころか、イシュタルらヴァイスリッターの発見も危ぶまれる様子である。

「本当にここ、バーハラなのかな……」

 城であることは、絵画やら繊細な細工を施された燭台でわかるし、今いる廊下は足下に絨毯が敷かれているから、通る人間が限られている領域なのだろう。

「パティ!」

 名を呼ばれて振り向くと、ユリアがひどく慌てた様子で駆け寄ってきた。

 が、足音はない。

「そんな所にいたら危ないわ! 早く逃げないと!」

 パティの肩がつかまれる、かと思ったその時ユリアの手がパティの体をすり抜けた。

「え……?」

 来るはずのないものが来ないのにパティは呆然とする。

「ユリア、あんた……」

 パティが指さすと、ユリアは何らかのリアクションを起こすでもなく、そのまま空間に溶け込むように姿を消した。

 レヴィンの時を思い起こさせる、そんな消え方だった。

 パティの左頬がぴくっと動く。

「……また? またそんな事が起こるの?
 そんなバカな事が」

「それは違う。“緑”よ」

 黒蜥蜴がパティに向かって、人語を繰り出す。

「あれは“金”でありながら、別の所へ行こうとしている。だから、触れることさえもままならぬ」

 恐ろしいまでに流暢な言葉の流れは、何故かパティには自然なように感じられた。

 黒蜥蜴の顔(頭?)が形容しがたい笑みのようなものを見せる。

「……人の年月とは短いと思っていたが、案外長いものだな。もういいとさえ思うようになってしまうくらいだから。
 だが、その長い年月をもってしても、この躰はなかなか変わらん。ここでその姿を維持するお前が眩しくさえ見える」

 パティは眉根を寄せながら、帽子の下でガリガリと頭をかく。

「どゆこと? それ。……あたし、よくわかんないんだけど:」

「“緑”よ、お前は若いがその時々で選ぶ者はほとんど間違っていない。だからこそ、ここにいられる」

「ひょっとして、あたしを無視して喋ってない?」

「時を迎えても、聞き分ける力を持たなかったのはその者の意志だ。そこが、お前の上手いところでもある」

 黒蜥蜴が宙を踏みしめて、パティから一歩分離れた所に着地する。

 そして、水蒸気のようなものを躰から大量に噴き出してパティの視界を奪うや、それが晴れるまでの短い時間で黒蜥蜴は赤毛の少年に姿を変じていた。

 パティは顔を覚えるほどに見ていたわけではないが、その大仰な見かけから少年がユリウスだとわかった。

 しかし、十六、七歳であるはずの少年の顔つきは、その年齢とは大きくかけ離れたようにパティには思えた。

 ついでに言えば、これはユリウスそのものではないのだろう、とも、

「あんた、誰?」

 問いに、ユリウスの姿をした少年は黒蜥蜴のままの低い声で答える。

「お前を“緑”と言った事から察してくれればわかると思うが、儂は“黒”だ。……だが、他には“金”がいるだけだ。あとの者は諦めたが故に色を失った」

 少年が、パティをまっすぐに見る。

「今は、一度終わるだけだ。それでも、お前は行くか」

「それは、あたしに言ってくれてるの?」

「そうだ」

 頷く少年の顔は、素でありながらどこか笑っている風があった。

「無駄だと思うなら、ここにいればいい。ただ、退屈はしないが…………とてつもなく、ここは長い」

「あたしは戻る。何もないのは退屈だもん」

「結構。
 お前がこのときにある幸運と“緑”がお前を選んだ事に感謝しよう」

 そう言って、少年は黒蜥蜴になり、パティが来た方向へと地を這って歩いていった。

 パティは黒蜥蜴に背を向けて歩き出す。

 角を曲がると、ナンナの姿をした騎士が杖を持って立っていた。

「え? 最初に飛ばしたはずよね?」

「ちょっと手違いがあったみたい。も一回お願いできるかな」

 言いながらもパティは笑いそうになっていた。

 どうせ、これもナンナではないのだろう。

 騎士は嫌そうに顔を歪める。

「成功する保証なんかないわよ? もうあの人飛ばしたんだから」

「そん時はそん時よ。ダメもとでさ、ね?」

「……仕方がないわねぇ」

 パティの記憶と違わず、ナンナのそっくりさんは何かを迎え打つような構えを取る。

 それからまもなく、杖の珠がオレンジに光り……。

「じゃ、行くわよ」

「何とでもどーぞ」

 ナンナのそっくりさんがニッと笑う。

「今度こそ、地獄ツアーにいってらっしゃい!」





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