トップ>同人活動記録>FE聖戦 風パティ小説 INDEX>五 悪夢はひっぱたいて退散させよう 4
HOLPATTY 5-4 * 日も暮れて、遠く本陣中央にある篝り火がわずかに辺りを見回すことができる唯一の材料になった。 早く言えば、そんなろくに物の見えないところで何やら怪しげに動く人の姿がある。 「いいの? こんな事して」 そう訊いたのはナンナだった。準備体操をしながらの事である。 「いいとは思えないけど、仕方がないんじゃなぁい?」 パティの心の中はヤケクソでいっぱいだった。 メイベルが語ってくれたのは、彼女自身がセリスと謁見して断りを入れた直後にホークから接触してきて、その時に単独での助力を申し出てきたという事だった。主を救おうとするのは何故かと訊くと、イシュタルの行動の真意を確かめたいからと答えたという。 だからって、自分に内緒にするのはズルいとパティは思った。 その後、ホークを追うのとイシュタルを止めるためのバーハラ突入作戦を簡単に立てて今に至る。 「こんな大がかりな事をしたら、セリス様に気づかれるんじゃないかしら」 「そん時はそん時よ。後を追わないように保護者の人が動いてくれるように期待するしかないわね」 パティの思い描く結末は二つ。ホーク(できれば、イシュタル以下ヴァイスリッター全員も)を連れ戻すか、どさくさに紛れてユリウスを倒してしまう。 はっきりいって、逃げるのも倒すのも、目算はほとんど立っていない。ホークが剣を使う以上に無謀な事とはわかっているが、手を出さなければバーハラにいる全員が玉砕してしまう危険性が高い。 パティの中で、どうしてホークがこんな無謀な事を実行に移したのかが不思議でしょうがないと思うところがあるのだが、今はそれを封じておかなければならない。 本陣の方向から、いくつかの鈴音が近づいてきた。 「こんばんは、パティ」 「呼んでくれてありがとね」 レイリアとリーンが手を振るその後ろでは、コープルとシャルローがちょこちょことついてきている。 ナンナが目を丸くする。 「ずいぶん豪華じゃない」 「ちょっと送る人数が多いから、保たなかったらすぐに代われるようにって思ったの」 「何人飛ばすの?」 「七、八人ってとこかな」 正確にはパティ・アミッド・リンダ・ユリア・ラナ・マナ・メイベルの七人がナンナのリターンでバーハラに送られる。 「どうやって決まったの、その人選」 「アミッドとリンダには、十二魔将と会っちゃった時に戦ってもらって、ユリアはユリウス皇子とタイマン張るでしょ。ラナとマナにはリザーブとかレスキューとかを使ってもらって、メイベルさんはナンナ達がリターンを使ってバーハラに送ってもらう時のイメージ補佐だから、最後に送ってもらわないとならないかな、って」 「剣とかを使う人はいいの?」 「これ以上多くするにも時間がないから、頼める人も多くないし、お兄ちゃん達は巻き込みたくないもん」 「それまではまぁ(よくないけど)いいとして、どうしてパティが行くの?」 「……」 「……」 「……」 「ひょっとして、何も考えてないとか」 言うんじゃないでしょうね、と続きそうなナンナをパティは慌てて制した。 「ま、まさかぁ。あぁそうだ、ほら、あたしホーク様を迎えに行かなきゃいけないし」 本当はそんな目的の前に、こういうことに首を突っ込むのが習慣になってしまっているなどとは口が裂けても言ってはならなかった。 その辺の事はナンナもよくわかっているようで、 「なーんか、取ってつけたような言い回しね」 そのものをズバリを言い当ててしまう始末である。 ピョンピョン飛んで、大きく腕を振りながら膝の曲げ伸ばしをすると、ナンナは深呼吸を始めた。 パティはその行動について追及する。 「どうして深呼吸なの?」 「体操の締めは深呼吸って決まってるでしょ」 「そうかなぁ……」 世界にはまだまだわからない習慣があるものだと実感するパティである。 「それじゃ、わたしはいつでもいいわよ」 ナンナがリターンの杖を持って笑みを見せる。が、肝心の人があまりそろっていない。 協力は取り付けてあるが、いっぺんにいなくなってしまうのも不自然だからと徐々に来るようになっている。 コープルが首をかしげながらナンナに問う。 「リターンというのは、使用者の意識にある帰還場所に行くようにできているんですよね、確か」 「理論上はそうなっているわ」 「じゃあ、造りをねじ曲げるんですか」 「成せばなる、よ。どうせ普通に行ったら間に合わないんだから、やるだけの事はやらないと」 「そんな問題じゃない気がするんですけど……」 不安なやりとりをする二人に、パティは今更ながらにまずったかなと思い起こす。 と、ユリアとリンダが後ろを気にしながら走ってきた。 パティは困ったなと思いつつ、呼びかける。 「走ってきたりなんかして、目立たなかった?」 「それどころじゃないわ!」 珍しくリンダが口調を荒げる。 「セリス様がパティの事を気にかけ始めているのよ。さっきから話をしたくてしょうがないみたいで、誰彼構わずにパティを見かけなかったかって訊いているの」 「じゃあ、先に送る?」 ナンナが見せるように杖を掲げた途端、ファルコンと一頭の馬がこちらに向かってきた。 アミッドが馬の方を見据えて確認する。 「あれは、レスターの馬だな。誰か乗せてる」 「ラナじゃないかしら、だとしたら」 「と、したらフェミナの方はマナが一緒に乗ってそうだな……向こうで何かあったな」 アミッドが断定すると同時に軍内で一番立派な白馬がレスターの馬との距離差50メートルでスタートした。 あの白馬は間違いなくセリスを乗せているはずだった。 パティは緊張の面持ちで、周りによく響く声を発する。 「ナンナ、メイベルさん、お願い!」 その声に反応してナンナが杖を剣のように正面に構えると、メイベルが杖の珠に触れる。 ナンナの右隣に立ったリーンがナンナと向かってくるフェミナ達に向けて、レイリアが彼らの力を早く呼び起こすために舞い始める。 「今だ!」 メイベルが小さく叫ぶや手を放すと、珠がオレンジの光を淡く放ち始めた。 ナンナは何かを打つ時のような構えを取る。 「行くわよ、パティ!」 「何とでもやってちょうだい!」 パティは言ったあとで、ふとリターンとはどんな物かと考えた。こんな風に普段はやっていなかった覚えがあるだけに、この土壇場でそんな風に思ったのだ。 考えが不意に嫌な予感に変わって、ナンナの方を振り向くとまさしく杖が向かってくるところだった。 それは、どう見ても杖本体でパティをぶっ飛ばそうとしているとしか思えない映像。 「あ、やっぱやめ」て。 「問答無用! 地獄ツアーにいってらっしゃいっ!」 半分意味不明の言葉を聞き届けたのを最後に、パティの視覚は一瞬暗転した。 |