トップ>同人活動記録>FE聖戦 風パティ小説 INDEX>四 初対面の言葉 2
HOLPATTY 4-2 * ヴェルトマー城の一室には釈然としない顔つきのオイフェと、ベッドに腰掛けて腹を抱えるレヴィンがいた。 「なぁー、本っ当にお前オイフェなの? こんなオヤジそのもののヒゲなんか生やしちゃって」 膝を叩いて大ウケのレヴィンである。 オイフェは笑われている事への苛立ちと、急に昔に戻ったレヴィンへの困惑に頭をかきむしりたくなった。 レヴィンはパティを呼ぶようにと言った直後に、発作が起こったように倒れて一日中苦しそうにしていたのだ。が、プツリと呻く声が途切れると汗だくで起き上がってきた。 そして、第一声は「俺、死んだんじゃなかったのか」である。 何を根拠にそんなことを言うのかと思いきや、レヴィンは頼みもしないのに喋ってくれた。 その話は遠い時にさかのぼる。 十八年前のバーハラで奇襲を受け、ともかく逃がせる者は逃がそうということで、レヴィン自身はメティオが降り注ぐ中に残った。ひたすらフォルセティを放ち、しばらくして生きている味方がいなくなった時、レヴィンは何者かに突き動かされる感覚を覚えながら、バーハラ城へと向かった。 妨げるものは全てフォルセティでなぎ払い、気づくと城内の一室にいた。闇色の衣をまとった老司祭を前にすると、そこから先は体の自由がきかなかった気がする、とレヴィンはその時のことを振り返る。頭の中に響く声が絶えず「お前だな」と言っていて、手は勝手に老司祭に向けてフォルセティを放ったが、結局は相手の暗黒魔道の前に倒れたのだ。 オイフェが初めてバーハラの惨劇の生の話を聞いて愕然とする横で、レヴィンは全く別の事に関心があるようだった。 「十八年もたてば美少年もオヤジになるってわけか……。あ、セリスやシャナンはどうした?」 オイフェは忍耐を強いられながらも答えた。 「御健在であらせられます。それに、レヴィン様の子もこの軍に」 「ファバルも? 巡り合わせってのは不思議なもんだな。確か、聖弓の印があったと思ったけど」 オイフェは自分の事から話題が離れて胸をなで下ろす。 「えぇ、イチイバルを持っていました」 ふとオイフェはこの先を言おうか言うまいか迷った。レヴィン自身にはバーハラから先の十八年間の記憶がないという。つまり、パティの事は知らないのだ。 呼び出しておいて、パティにお前の事なんか知らないと言おうものなら、きっと事情もへったくれもなく冷凍親子になるだろう。 だが、意外な所から救いの手は現れた。 「あと一人いないかな、俺の……っていうよりセティの印が出てる子供が」 渡りに船とばかりにオイフェはその話に飛びついた。知っている理由はこの際無視する。 「います。パティという娘が」 そうか、とレヴィンは頷いて言葉を繋ぐ。 「すごく自己主張が強くて」 「はい」 「何だか知らないうちに誰かのリーダーになってて」 「はい」 「そのくせムードメーカーになってるだろ」 「えぇ……」 記憶のない割にはよく知っていることだとオイフェが呟くと、レヴィンが立て上がって大きく伸びをした。 「フォルセティが言うんだよ。 その時、部屋のドアがノックされた。 「パティを連れてきました」 フェミナの声である。 オイフェは困った顔でレヴィンを振り返った。 「レヴィン様……」 「大丈夫だよ。ちゃんと話はするから」 泰然としたもので、レヴィンは椅子に腰掛けた。 「入っておいで」 そう言うと、ドアが開いてフェミナに先を譲られたパティが入ってきた。 「何か、用なの?」 「そのまま君も残ってくれないか」 レヴィンが手を挙げて引き留めたのは、下がろうとしていたフェミナだった。 「証人は多いほうがいい」 ドアは開けられたままレヴィンが話し始めた。 「オイフェから聞いた。君が、俺の娘か」 「何言ってんの、レヴィンさん」 「なかなか可愛いな。安心したよ」 「……」 無愛想なパティの反応に、レヴィンは少し笑った。 が、すぐに真顔に戻る。 「フォルセティをシレジアに戻してくれないか? いつでもいいんだ」 「今、レヴィンさんに返してもいいんだけど」 「いや、俺は駄目なんだ。ケチがつくようで悪いけど」 レヴィンは立ち上がってパティの頭に触れた。 「ごめんな、ずっといてやれなくて」 そう言うとレヴィンの色素の全てが薄くなり始めた。その場の空気そのものに溶け込むように見える。 オイフェは何かの間違いかと目を瞬かせたが、他の二人も驚いた顔をしている。 「レヴィン様……?」 「セリスやシャナンにも会いたかったけど、もう時間切れみたいだ。ファバルにはどうにかして会ってみる。 別れを告げてレヴィンの姿は消えた。 パティがレヴィンのいた所を凝視する。 「レヴィン、さん……?」 「あの方は十八年前までのレヴィン様だ」 パティが振り返ってオイフェを見詰める。 「……どういうこと」 「バーハラの時を境に、生き残った者は皆変わった。レヴィン様の変容もそのせいだとばかり思っていた。だが、あまりにも違いすぎる。子を見捨てる事ができるような方ではなかったのに、わたしはユグドラル全体を救わんとするあまりに変わってしまったのだと思い込んでしまった。 言い放ったオイフェは二人を残して部屋を出た。 足取りはしっかりとしていたが、あのレヴィンに会ったことで頭の中は古い記憶が呼び起こされていた。決して取り戻すことはできず、懐かしむこともできない。そうしようとすればするほど、悲しみが強く蘇る。 だが、レヴィン王子という人は癒しのある人だった。それだけが救いである。 『死ぬばかりが騎士じゃないからな。勘違いするなよ』 リューベックであの人はそう言っていた。自分とシャナンがシグルド軍から離れ、イザークへ逃れる時に。 剣が、別の物に変わる時まで戦おう。 遺される者のために。 十七歳の少年はそう誓ったのだった。 |