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四 初対面の言葉



 じきに十の月になろうという夜、パティはフェミナのファルコンに載せられてヴェルトマーへと向かっていた。

 セリスから告白(?)されて二日後の夜に、バーハラで大規模な戦闘が行われている事と、それとは別にユリアであるらしい人物が単独でフリージに向かっているという報がフェミナからもたらされ、解放軍は到着したばかりのハンニバルの隊を残して総員出撃した。

 ただし、ワープの杖で送られてきたシアルフィの留守役の使者から別の報を受けたアルテナは、リンダのワープの杖でシアルフィへ飛ばされている。

 解放軍はバーハラへの道の途中でユリアに遭遇したものの、暗黒魔法で操られていてどうにもできないため、応急処置としてホークのサイレスの杖でリザイアを使われるのを避け、レヴィンの助言によりセリスら騎馬部隊がヴェルトマーのマンフロイを討ちに行き、徒歩の人間はユリアの監視とバーハラ軍の警戒に当たった。

 その三日目にフェミナがパティを迎えに来たのだ。

 フェミナが報せてきた事によると、マンフロイは斃れ、セリスがユリアを迎えに行き、フェミナはレヴィンにパティを連れて来いと言われたのだという。

「わけを聞きたかったけど、突然レヴィン様の具合いが悪くなっちゃったの。すごく苦しそうだった」

「じゃ、死んじゃうのかな」

 フェミナが不機嫌そうに咎める。

「あたし、具合いが悪いって言っただけよ。どうしてそう簡単に死ぬって思うの?
 死ねって思うくらい憎んでるってこと?」

 わからない。パティはぼんやりと答えた。

 父親と思うのは無理だと思っている。どうせ向こうもこの戦いが終わっても父親になるつもりはないらしいというのもわかっている。嫌いというのではないが、干渉をしたくない。それが一番近いのかもしれなかった。

 パティはちらと下を見て、慌てて上を向いた。

「あのさ……」

「何?」

「こんなに暗い中飛んでて大丈夫なの?」

「平気よ。月明かり程度で飛べなきゃシレジアの天空騎士は務まらないもの。この子も訓練してるし。
 ……ねぇ、ホーク兄さんの事、頼んでもいい?」

 フェミナの穏やかな声に、パティは即答できなかった。

 突然すぎたというわけではない。順序が違うというのもなかった。

 フェミナは何かを感じ取った様子で、言葉を砕いた。

「お兄ちゃんさ、人の面倒見はいいくせに自分の事となるとからきしなのよ。そのうちにオジさんになるよって言ってんだけど、それもいいねとか言っちゃってるから」

「あたし、まだホーク様の気持ち聞いてないよ。ただ、一緒にいさせてもらってるだけなんだから」

「パティなら大丈夫だよ。お兄ちゃんがあんなにも楽しそうにしてるの久しぶりに見たもの」

「……そう。なら嬉しいな」

 パティは微笑んだが、悩んでもいたのだ。

 ホークについていたいという気持ちと、戦いが終ったらコノートへ帰らねばという気持ち。この二つが天秤の上で揺らぎ始めている。

 孤児院にいる子供達の面倒を見るのを放棄するつもりはない。その前に、してはいけないとも思っている。

 揺らいでいる気持ちのまま、もう少し待ってとかそんな言葉をホークに言うのは、自分を誤魔化しているような気がしてならなかった(やはり、特別であろうと意識していたのだ)。

 ……この先どこへ行くのが一番いいのか。

 ずっと先の話であったはずの問題は、すぐ目の前に迫ろうとしていた。





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