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HOLPATTY 3-6




 釈然としないまま宿舎に戻ると、パティとアミッドはそれまでの気分を吹き飛ばすべく、テーブルをはさんでにらみ合いを始めた。

 宿舎といってもある男爵の屋敷で、ホークを含めた三人が今いるのは中庭を臨むテラスである。

 目下の議論の中心は、テーブルに置かれたバラバラのトールハンマーだった。

「あんたがフリージの人なんだから、引き取りなさいよ」

「なんて、俺がそこまで面倒みてやんなきゃいけないんだよ。しかも、並べ方もわかんねぇって」

「だからって、あたしに押しつけなくてもいいでしょ」

「他に誰がいるんだよ」

「リンダにでも頼めばいいじゃない」

「ふざけんな! 人の妹をなんだと思ってやがる」

「別に、魔道書を預かってもらうくらい、どうってことないでしょーが」

「んなとこにリンダを持ち出すなよ。気苦労をかけるだろ」

「うわ、過っ保護ぉ。リンダってあたしより年上なのよ?
 わかってる?」

「年は関係ないだろ、年は」

「じゃあ、何が肝心なのよ」

「さーな、何だろーなーあ?」

 二人の言い争いがあさっての奉公に向かいそうになった時、銀盆に紅茶を載せてセリスがやってきた。

「賑やかなのはいいけど、ちょっと休んだらどうだい?」

 解放軍の御大登場に、二人は口を止めた。

 紅茶はきっちり四人分ある。

 どうやらセリスもこの場に混ざるつもりらしい。

 パティとアミッドはそそくさと魔道書をテーブルからのけて、セリスを迎える。

「済まないね」

「えぇ……、それはいいんですけど、どうしてセリス様が?」

 アミッドが訊くと、セリスはいつものスマイルを振りまきながらキッツイことを言い始めた。

「こっちの方で騒ぎがあったって聞いたから。最初はオイフェが行こうとしていたみたいだけど、いる人がいる人だから下手に刺激したら怪我だけじゃ済まないからって僕が行くことになったんだ。アレスは出掛けていて留守だったし」

 よく見れば、皇子様の腰には聖剣ティルフィングが差してある。いざという時にはパティの暴風フォルセティとアミッドの超強力(前科百犯)エルウインドに対抗するつもりだったのが見て取れる。

 さすがに皇子様に給仕をやらせるのは気が引けたが、本人が譲らなかった。

 曰く、僕はお客をもてなすのが好きだから、とのことだが。

「好きな事といえばね、パティ」

 セリスは器を置き終えてから、どこからか一輪の薔薇を差し出した。ちなみに、スマイルのままである。

「この戦いが終ったら僕の所へ来てくれないか」

 アミッドは口に含み始めた紅茶を噴き出しそうになり、ホークは悠然とこの言葉を聞き届ける。

 渦中のパティは他を見やる余裕などない。

「あたしにはホーク様がいるの。勝手なこと言わないで」

 しかし、これくらいで引き下がるセリスではなかった。

「彼だってずっとパティのそばにいるわけじゃないよ。父上を捜しているんだから。今は僕から無理を言って解放軍にいてもらっているけど、戦いが終わればまた旅に出るだろうし、君だって落ち着かなきゃいけない」

「ホーク様がどう言うかはともかく、セリス様に世話を焼かれる覚えはないの。
 聞かなかったことにさせてくれない?」

 パティの目はとことん冷たい。

 対するセリスはまだまだスマイルだった。

「まだちゃんと決まってないなら、僕のところにおいでよ。君がいると周りが明るくなるんだ」

「それなら、適当なセイジにライトニングを使ってもらってれば? そのうち自分がおかしいことに気付くでしょ」

 平行線の応酬を横目に、ホークは早くも中身を飲み干したカップを受け皿に置いた。その表情には余裕がある。

 アミッドが居心地の悪そうな顔で問いかける。

「……前から訊きたかったんだけど、パティとはどういう関係なんだ?」

「とても仲良くさせてもらってますよ。妹や他の人達以上に」

「でも……その、恋人じゃないだろ」

「ちょうどひとまわり年が離れていますからね。あと六年くらいすれば気にならないでしょうけど、今は難しいですね」

「そんな事言ってるとセリス皇子に取られるぜ?」

「わたしがこんなですからね。パティ次第ですよ」

 まんざらでもない様子の賢者様だった。



(三 両者、接近せし・了)





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