トップ>同人活動記録>FE聖戦 風パティ小説 INDEX>三 両者、接近せし 3
HOLPATTY 1-3 * フリージ城では退屈のあまりベッドから抜け出したアミッドが歩き回っていた。当たり前だが、アミッドがこの城に入るのは初めてである。どうやらこの戦いが終ったら自分はこの城に行くような話になっているが、いまいち実感が湧かない。リンダと再会し、ブルームやヒルダと戦ったが、未だにトードの一族である気がしないのだ。育ててくれた伯母が亡くなってからは、風使いの家に居候してその成り行きで風使いになったというのに、今ではトローンをぶっ放す雷小僧である。 「世の中わかんないもんだよなぁ……」 しみじみと呟いた時には、周りが肖像画だらけの部屋にいた。 頭脳派揃いの歴代当主が並べられている所もあれば、全く違う性質の人物が飾られているのもある。そんな中、アミッドは知っている顔を見つけた。 その絵は他とは少し違って、二人で並んでいた。 二人は少女で、一人は彼がよく知っている伯母だった。魔法戦士の服を着ている。 もう一人は栗色の髪をしていて、貴族のお嬢さんが着るような袖のふくらみがある服を着ていた。 アミッドは首をかしげる。どうして伯母がこんな所でバッチリ決めているのだろう、と。 物は試しと古い記憶を探ってみる。 「伯母さんは俺の母さんの姉さんで、リンダの母さんが……あ、待てよ。リンダの母さんなら俺の母さんでもあるわけで、確かブルームの妹で、公女だって話を聞いたんだよな……」 妙に面倒な順序でひとつひとつを指折っていくと、ある答えに行き着いた。 「もっかして、伯母さんってここの公女様だった……?」 アミッドの脳裏に伯母といた頃のことが一気にフラッシュバックする。 物心もつかない頃に現れた伯母は、四歳の時に母と妹がいなくなってから母代わりになってくれた。とはいえ、伯母は年の割に子供っぽくて遊び相手でもあった。母がいた頃にも、雪が溶ける頃になるとアミッドを連れて色んな所に遊びに行っていた。母と妹がいなくなったのもそんな日で、シレジアに残れたのは伯母のおかげだったのだ。その時は何も語らなかったが、伯母は全てを知っていたようで、アミッドが大きくなったら二人を迎えに行こうとだけ言っていた。 「昔っからこうだったのかな……」 伯母は根っからの明るい人で、姉のような気もした。 だが、どのような人か詳しくは知らない。銀髪はシレジアでは珍しかったが、特に気にしなかった憶えがある。自分の母が貴族なのだから、母方の伯母も貴族なのは当たり前なのだが、あの伯母が貴族……公女と言われてもピンと来ない。そんな印象だったのだ。 昔の事を思い返していると、城の女官らしき中年女が入ってきた。 「アミッド様、このような所でどうなされましたか」 「……俺の事知ってるの?」 「リンダ様から聞き及んでおります。長く離れておられた兄君だと」 様付けされるのに何やらこそばゆい思いをしつつ、アミッドは言った。 「確かにそうだけど、俺とリンダはその……あまり似てないんじゃないかな」 女官は心得ているとばかりに頷いた。 「それでも そう言って憧憬の眼差しで公女二人の絵を見た。 「あの頃はようございました。人は平和でたるんでいたと申しますが、私にとってはお二方が並んでお育ちになられたのが一番の幸せでしたから。 「あまり……」 それどころか、伯母の記憶が強すぎるために母の記憶はほとんどない。母の名前もろくに覚えていないと白状したいくらいである。リンダと話をする時も向こうが母様と連呼していたから、聞きそびれたというのもある。 「でも、伯母さん……ティルテュさんの事はよく覚えてます。絵のこっちの人は」 え、と女官は一瞬口を半開きにした。 「今、何と」 「俺、ティルテュさんに育てられたんですよ。リンダと母さんがいなくなってから」 「それは……本当の事でございますか」 アミッドが頷くと、女官は小刻みに震え出した。 「あぁ……ティルテュ様……。 アミッドは首を横に振った。 「七年前に病気で亡くなってしまって……」 「そうでしたか。いえ、それが聞けただけでも充分です」 女官は感慨を込めて公女二人の絵を見上げる。 「ようやく、この絵もこんな場所に押し込められる必要がなくなりました」 「……捨てちゃうんですか、この絵」 「いいえ。リンダ様にお許しを頂けたら私共の一室に置かせてもらいます。ティルテュ様とエスニャ様は古参の者だけでなく皆の憧れでしたから」 だから、この部屋にあったのだと女官は言った。 それでいい。アミッドはそう思った。やはり伯母達は慕われていたという事だけでもわかったのだから、これで充分だった。 『何か突っかかってんじゃない? ここ』 不意に聞こえた声にギョッとしてアミッドは耳をそばだてた。 『よーし、行くわよぉ』 どこかで聞いたことのある口調である。 女官がアミッドの奇妙な様子に気づいた。 「どうかなされましたか」 「どこかから声がしているんですよ」 その時、ブルームの肖像画が壁と木屑と板と共に吹き飛んだ。 肖像画があった所に現れたのは、華麗とはいえない蹴りのポーズをかましているパティである。おまけに土で汚れている。 パティがアミッドに気づかず、ガッツポーズをした。 「あたしもなかなかよねっ☆」 子供の歓声と拍手がブチ開けられた穴の奥でこだまする。 アミッドはパティがこちらを向いた時に目を合わせた。 「何やってんだよ」 「そっちこそ、城にいなくていいの? ホーク様に叱られても知らないよ?」 「ここ、フリージ城だけど」 アミッドは呆れ顔で腕を組む。 一方のパティは目を丸くするばかりである。 「なんでぇ? あたし城下の教会から来たのよ。それがどうしてお城なのよ」 パティの横から子供が彼女を見上げる。 「ちんちくねーちゃん、下りていーのか?」 懲りない呼びように、軽くチョップをかましてから頷いた。 「多分、大丈夫だと思う。危ないから下ろしてあげるよ」 パティは軽やかに飛び降りると、胸の高さほどにいる子供達を下ろし始めた。 三人を下ろしたところでアミッドを振り返った。 「ヒマだったら手伝ってくれない? 十人くらいはいると思うから」 「どうしたんだよ、この子達」 言いつつ、アミッドはパティと並んだ。 子供を下ろしながら話す。 「貧民窟の地下の教会に匿われていたの。でも、匿ってた人がこっちから逃げなきゃいけない人だったみたいで」 「子供狩りから守ってたのに逃げるのか?」 「ブルームの私生児だって言ってた。髪の色のせいで嫡子と思われちゃうからって」 「気の毒だな。それだけで追われるなんて」 「リンダみたいに助けてあげたかったんだけどね……」 今の解放軍の盛り上がりようではそれは難しい。反感につながってしまう可能性があるのだ。 そこへ、女官が近づいてきた。 「アミッド様、この方は解放軍の方で?」 「あんた、様付けされるほど偉いの?」 速攻で突っ込みを入れたパティをアミッドが小突く。 「黙ってろ。こっちも照れてんだ。 こいつはこれでも前線に立っているんですよ。こんな子供だけど」 「では、この子供達は」 これにはパティが手を休めて答えた。 「子供狩りから隠している人がいて、この子達に外に出てもいいよって言おうとしたんだけど……先に来たあたしがこの子達に引っ張られちゃったの。面白そうな道があるって。でも、匿ってた人が来ないんだよね……」 「その方は、アシュター様です」 女官は断言した。しかし、パティは首をかしげる。 「女の人だったよ」 「それでいいのです。あの方は私共にそう呼ぶように強いられました」 「私生児で認められてないのに命令できるの?」 「私共の中では世間体は無関係ですから」 彼女達の中では俗世とは隔絶された掟があるようだった。 パティは穴を窺う。 「どしたんだろ、ホーク様とアシュターさん。 アミッドに断っておいて難なく壁をよじ上り、穴へ入ると女官に呼びかけた。 「この子達、お願いします。解放軍の人に言えば悪い事にはならないから」 そう言って今までたどった道を戻り始めた。 道は緩やかな坂になっていて、下りである。 歩いていると、アミッドが走って追いついてきた。 「あんた、ついて来んの?」 言いながらも、邪険にするつもりはない。 「別にいいだろ」 アミッドが小さめのファイアーを出して、足下を明るくする。 こんな時まで魔道書を持っているのかと思いきや、手ぶらである。 「魔道書ないのに魔法使えるの?」 「体に悪いけどね。非常事態だし」 「何が?」 「考えてみろよ。女にアシュターなんて名前は余程のことがなきゃつけないぜ。大体は力が約束されている奴の二つ名なんだ。で、フリージの嫡子と間違われるってのは間違いなく銀髪だ」 パティが苦々しく問い返す。 「……で?」 「イシュタル王女だろ、子供を助けたってのは」 二人の歩調が示し合わせたように、同時に早くなる。 パティが前を睨み付けたまま言う。 「あんた、どうしようっていうのよ」 「そっちこそ、どうするつもりなんだよ。このまま行ったって見てることしかできないだろ。どっちかって言えば城に戻って報せたほうがいい」 「捕まえるの?」 「それができれば苦労しないけどな」 「……あんたが何か言うのは勝手だけど、あたしは迎えに行くわよ」 「ご勝手に」 「……どうしてそうなっちゃうのかな……」 最後に一人ごつパティの声は、アミッドの所まで届かなかった。 |