トップ同人活動記録FE聖戦 風パティ小説 INDEX>三 両者、接近せし 2



HOLPATTY 3-2




「あんのクソババァ、フリージに嫁いだくせに炎なんか使ってきやがって、ヒキョーにも程があんだっつーの!」

 フリージ城の一室で喚くのはアミッドだった。何食わぬ顔でリライブを施すのはホーク、耳を塞ぐのはパティ。

「そんなに喚かないでよ。周りが迷惑するんだから」

「こーでもしてないと痛くてたまんねーんだよ! あのババァ、人の親殺しても満足しねーで妹までイジメたくせに、今度は俺を個人的に殺そうとしてきやがった。何だってそこまで目の敵にされなきゃなんないんだか」

 アミッドはフリージ攻略の時に、エルウインドを手にゲルプリッターをたった一人で相手にしていたのだが、奥から来たヒルダにボルガノンをくらい、大火傷をしたのだ。それでもトローンに持ち替えてヒルダを撃破したのだからさすがである。本人としてはものすごく不満があるらしいが。

 リンダはアミッドに説得されて、戦いには参加していない。今はフリージにいるが、まだ見舞いに来る様子はない。

 嫌われたんだよ、とアミッドは言っていたがパティにはそう思えなかった。リンダにとって、解放軍の中で頼っていいのはアミッドだけなのだ。

「これ……治りそうかな」

 アミッドの問いかけに、ホークは頷いた。

「心配するほどではないですね。見た目はひどかったけど、外側だけだったから」

「けど、けっこー痛いんだけど」

 治療にケチをつけるアミッドにパティが突っ込んだ。

「そんなに痛い痛いって言うなら、よぉぉく効く薬でも塗ってもらったらぁ?」

「沁みるだろーが」

「あったり前じゃない。自業自得なんだから」

 手加減なしのパティをホークがたしなめる。

「そういうことを言うものじゃないよ、パティ。クロノスでのヒルダを見たけれど、あの魔力に生身で対抗できる人はそんなに多くない」

「でもぉ〜」

「ここまでの怪我の経験がないから、堪え性がないのは仕方がないよ。どうしてもおとなしくさせたいなら、わたしからスリープを使うし」

 スリープの名が出た途端、二人は瞬時に口をつぐんだ。現金なものである。

 パティは高位の杖のほとんどが苦手だが、アミッドの場合はスリープにだけこんな反応をする。あれだけは許し難い、とはアミッドの弁である。

 そこまでは知らないホークは静かになった二人を見て首をかしげたが、すぐにいつもの賢者様に戻った。

「とりあえずできることはしたから、あとは静養していれば日が沈む頃には治るはずです」

 窓の外はまだまだ明るい。太陽はようやく中天を過ぎようかというあたりだ。

「結構……かかるな」

「仕方がないでしょう。体の機能を狂わすわけにはいかないのだから」

 パティは内心で気の毒にと思いつつも、みんなの制止を振り切って独走したんだから悪いのよ、と思い直した。

「ホーク様、もう行く?」

「そうだね。特にこれといったこともないし。
 では、お大事に」

「お大事にぃ♪」

 パティはアミッドに背を向けた途端、顔の線が緩んだ。

 このところ、ホークとは離れていたものだから、二人きりになる喜びが表に出てきたのだ。

 が、周囲の勝手な思惑を裏切り、実は特別な関係などではない。

 ただ、今は近くにいさせてもらっているだけであって、手をつないだり抱きついたり(それがおふざけであっても)するのはパティの中で禁じている。それはすべきではないと定めている以上、絶対にしない。良く見られたいとかそういったことではなく、わかりやすく言えば敬意みたいなものである。言葉ではなく(様はつけているが)行動で示すからこそ、パティにとっての敬意は生きてくると自分では思っている。

 パティは廊下に出て、すぐにホークと並ぶ。

「そういえば、フェミナちゃん全然見かけないね。前にあったのなんて、ルテキアの時だったよ」

 ルテキア城でホークが妙な物を飲まされて頭痛にうなされているとの知らせを聞いてフェミナが駆けつけたのだが、ライブの杖片手に診ていくうちに大丈夫よ、とホークを放っておいて北の開拓村でナンパにあったのを返り討ちにした上、持ち物をむしり取ったという武勇伝を聞かせてくれたのだ。

 ホークにとっては苦い思い出のはずなのだが、顔色ひとつ変えずにいる。

「フェミナはこの先の偵察に行っているよ」

「一人で? 危険じゃないの?」

「これも天空騎士の仕事のひとつだよ。フェミナも一人前になったから」

「ふぅん」

 それから、パティはホークにユングヴィ戦でのことを話し始めた。

 レスターとラドネイのラヴラヴ発覚や、あまりにも情けない対スコピオのことなど、メインの材料はあるのだが、パティにとって一番印象に残ったのは女性陣だった。

「あたし、ティルナノグの人達にだけはケンカを売らないようにするって決めたの。特にラナとマナには」

 ティルナノグの杖使いとなると、パティの中では最強クラスに入る。

「何かトラブルでもあったのかい?」

「そうじゃないんだけど……よくわかんない意味で一生勝てないような気がする」

「変な事を言うね」

「まぁ、ね……」

 あの強烈なスリープの杖の事を嬉しそうに語った時のことを知らないのは幸せ者だとしか言いようがない。

「疲れているなら宿舎に戻ろうか?」

 パティは緩やかに首を振った。

「でも、どっか食べに行きたいな」

「いいよ」

 そうして二人はフリージ城から出、城下の飲食屋に入ろうと外から物色し始めた。

 街は解放軍を歓迎して、自軍の祝勝をするかのような盛り上がりを見せている。多くの店が解放軍の兵士と城下の人でにぎわっていた。

 何かを食べたいだけなら宿舎に戻ればいいのだが(城は怪我人と病人に対して開放されているだけである)、いつも顔を合わせているメンツとの食事もそろそろ話題のネタが尽きてくる頃で、パティ個人としては、自滅して気分が悪くなったのと、せっかくホークと歩いているのだからわざわざその機会をつぶすのはもったいないと思ったのだ。

 通りは人が多い。歩くのに苦はないが、スリ程度なら簡単にできてしまう。ホークが持っているのは杖とライトニングの魔道書といくらかの金があるだけなのだが、パティにはなくしたらエラいことになる物が多すぎる。外套の止め金と指輪は胸に巻くさらしのところに一緒に入れてあるが、その他に今まで失敬してきたものがどうにも隠しきれず、背負った麻袋にフォルセティの魔道書と共に入っている。さすがに銀の剣は置いてきたが。

「ホーク様、気をつけてね。スリ多そうだから」

「大丈夫だよ、わたしも伊達ではないから」

 行っている先からスリ、ではなく酔っ払いが二人に向かってきた。武装の風体からして解放軍の兵士である。

「……ホーク様、マズいよ」

「そうだね。叩きのめすわけにもいかないし」

 どうやらリライブの杖で成敗するつもりだったらしい。この人もなかなかワイルドである。

 兵士はホークをマンスターでの勇者と知って、路傍に唾を吐き捨てた。

「お前、そんなに若ぇのに勇者だとか言われているらしいな」

 いきなり凄まれても、ホークは泰然としていた。

「名乗ったつもりはありませんが、人はそう呼びますね」

「それなら、俺がお前に勝てば俺が勇者なわけだ。違うか」

 こともあろうか兵士は帯剣していた。それで勝負をしようというのがミエミエである。

 次いで、ホークは涼しげに返した。

「いいですよ。望むならお相手しましょう」

 周りがどよめき、すぐに騒ぎは大きくなった。

 賭けを始める者、報せに飛んでいく者、飲み物の売り子を捕まえる者……さまざまに大通りが変わっていく。

 パティが不安そうにホークの顔を見上げる。

「そんな安請け合いしていいの? 厄介なことになるよ」

「心配しなくていいよ。最初からやるつもりはないから」

「え?」

 兵士の剣が抜かれる前に、ホークの言う事は実現された。

 騒ぎを聞きつけた兵士の同僚が駆けつけてきて、強引に兵士を連れ戻したのだ。

 いきなりお開きになるや、賭けや見物に乗り出そうとしていた人々は冷めたようで、喧騒が普通に戻ってきた。それどころか、人通りがかえって減ったような印象を受けるから不思議である。

 二人は他の人の邪魔にならないように、大通りの端に寄った。

「あそこまで考えてたの?」

「軍というのはそういう所だよ。問題が起これば全体に関わるし、威厳を守る意味でも嫌うね」

「冷静なんだね……あたしだったら、どうにか撒いて逃げようって思うけど」

 何気なく横道に目をやると、パティは紫の交じった黒い目とぶつかった。路地に座り、目だけを出したフードとマント姿の女性である。これだけで充分に怪しい。

 視線を外すに外せず、パティは問いかけた。

「……どしたの」

「見逃してください。解放軍の方ですよね?」

「一応、そうだけど……見逃してくださいっていきなり言われたら誰だって怪しむよ」

「……そうですね。
 わたしはこの髪で解放軍の兵士に追われているのです。フリージの残党ではないのですが」

 女性が少しだけ見せた髪は紛れもなく銀色だった。

「残党じゃなかったら何なの?」

「わたしは認められなかった庶子です。ブルーム王はヒルダ妃を恐れていましたから、あまり知られていませんが」

 それでも、解放軍に捕まってしまえば問答無用で残党の扱いを受け、相手が悪ければ暴行を受けてしまう。

「あたし達がここを出ていくまでそうしてるの?」

「はい。できれば、やりたいこともあったのですが」

 そう言われて聞かずにいるパティではない。聞いているだけだったホークも本格的に加わって、その望みを聞くことにする。

 女性はこれを受けてよどみなく話し始めた。

 この城下のある教会で、女性は子供狩りから逃れた孤児達の世話をしていた。追手を警戒して地下の教会を選び、しばらくは隠れるように生活していたのだが、フリージ郊外で戦闘が起こった時女性は外出しており、城下が厳戒体勢に入ってしまったため、その時いた店から動けなくなったのだ。戦闘が終わりはしたものの、解放軍によるフリージ一族の捜索が始まって、女性は逃げなくてはならなかった。この事態のために、孤児達に子供狩りの心配をしなくてもいいと伝えられずにいたのだ。

 一通り聞いて、パティは少し考えてから言った。

「あたし達と一緒に歩いていれば、見つかっても大丈夫だよ。解放軍の中でも顔が知られているから、そういう疑いをかけられている人を連れてるなんて思わないし」

 しかし、女性は首を縦には振らない。

「ご迷惑をかけるわけにはいきません。先ほどの騒ぎを聞いておりましたが、こちらの方はマンスターの勇者様だとか。大事な身だというのに……」

「平気だって。気を使っている場合じゃないでしょ? そんなに見つかりそうだと思うならそのフードしたままでもいいし。子供達のところに帰んなきゃなんないんだから」

 ね? とホークに同意を求めると、彼は頷いた。

「わたし達を信頼してくれませんか。フリージには敵対しましたが、子供を護る人を虐げることはしません」

 ホークが同意してくれたのを機にパティは調子づいて続けた。

「それに、頭がカタイのに見つかったら、ただじゃすまないでしょ?」

 お互い大変ねというパティの口調に、ホークが苦笑し、女性の目は笑う。

「本当に、お願いしてよろしいのですか」

「いいって言ってるじゃない。ほら、行こ」

 パティは女性を立たせて埃を払うと、彼女を先頭にして細い路地を入っていった。

 二人が歩いていた大通りは城に近い所ほど豊かな人々が住む屋敷が並び、酔っ払い兵士にからまれた辺りは街門に近く、ほとんどが平民の家や店、屋台が通りに沿ってひしめきあっている。だが、通りに近い所はまだいい方で、少し外れただけで貧民窟の家らしきものが規則性もなく並び、道のわからぬ者では歩くのに苦労してしまう。が、女性は慣れているようでスイスイと進んでいく。

「ここ通るんだったらひとりでも帰れたんじゃない?」

「万が一のことを考えると、ここでも一人で歩くのは恐かったのです。兵士がいないとも限らないから……」

 兵士の姿はなかったが、このような所なら密告されてもおかしくない。女性の心配はもっともではあった。

 パティの中で元の大通りに戻る道をたどる記憶があやふやになるくらい歩いた頃、女性は小さい家の前で足を止めた。

「ここです。……ありがとうございました」

 女性が頭を下げるのに、パティは慌てて手を振った。

「そんなことないよ、それより早く行ってあげないと」

「そうですね……すみません、何もお礼ができなくて」

「いいよ、そんなの」

 と、その家から薄汚れた子供が飛び出してきた。

「おばちゃん、遅い! 皆、腹すかせてるんだぜ!」

 そう言う割には元気そうなその子供は、七、八才くらいか。

「ごめんなさい……あ、食べ物……」

「何? 忘れてきたの? ひょっとして」

 女性が身をすくませる。

「……ごめんなさい……」

 子供に泣かされそうになっている大人、という図は奇妙きわまりない。

「おいー、守りきってやるとか言ったの誰だよ、ったく……」

 そこへ、パティの平手が子供の頭にぱこんとヒットした。

「偉そうにするんじゃないの」

 女性とホークがあっけにとられたが、今のパティは二人のことは眼中になかった。

「このひとはあんた達のために大変な目にあってんのよ。本当は子供狩りからかばってる余裕なんかないのに、危険を顧みずに助けてくれたんだから」

「んなのわかってるよ、でもチビ共がわあわあ泣くのをおばさんが安請け合いで守ってやるとか言うから……おれだって、こんなこと言いたかねぇよ」

「わかった」

 パティはニッと笑った。

「そこまで言えるなら上等。あんたに、ガミガミ言ったのあやまるよ」

「い、いいよ、そんなの……照れるじゃんか」

短い頭髪をガリガリとかく。

 再びパティが頭をはたいた。

「そんなので照れてどうすんの。それよか、他の子は?」

「下だよ」

 そう言って子供が家の中に入るのについていくと、一室にテーブルがあり、その下にまくりあげられた敷布と更にその下にあったであろう穴が黒くのぞいていた。

 穴といっても斜めに降りるようになっているらしく、怪我をしそうな作りではない。

 どうやら汚れていたのはここを登ってきたせいのようだ。

「隠れ家みたいでかっこいいだろ」

「そりゃそうだけど……よくこんなのがあったね」

「入ったところは違うんだけど、おばさんが教えてくれたんだ。何かあるといけないからって」

「へぇ……」

 パティは荷物を降ろして、穴を覗き込む。

「あたしでも入れそうだね」

「おばさんが入れるなら大丈夫じゃないかな。入ってみたら?」

 二人のやりとりを、後から入ってきた女性とホークが何ともいえない顔つきで見守る。

「すっかりなついてしまったみたいですね……」

「パティは孤児院で子供の面倒を見ていたようですから、慣れているのかもしれませんね」

 それにしてもこれでは恩人の面目丸潰れである。

 パティはそんな思惑なんかそっちのけで子供に勧められるまま、試しにと穴に足から入っている。と、

「わぁっ!」

叫び声だけを残して穴に吸い込まれていった。

 止める隙もなく、子供がそのあとを追うべく穴に滑り込む。

「ちんちくりんのねぇちゃ〜ん!」

 耳をそばだてるとパティの返答がこだましてきた。

「ちんちくりんとは何よ!」

 ……身の危険を全く意識していないセリフである。

 それはともかく、放っておくわけにもいかないとホークは穴のそばにしゃがみこんだ。

「行きましょうか」

 呼びかけたが、女性は難しい事を考えるような面持ちをして動こうとしない。

「どうかしましたか」

「行ってくれませんか。
 わたしは、もう子供達には会えません」

 女性は、自らフードを取って、銀の髪と白磁を基にした顔をあらわにした。

「あなたが見逃してくれたとしても、わたしはわたしを許せません。二度死んで、あまつさえ子供達を逃がしたのですから」

 雷神イシュタルはゆっくりとした手つきで床の上に雷の聖遺魔道の書・トールハンマーを置いた。

「もう、疲れました」





BACK                     NEXT





サイトTOP        INDEX