トップ>同人活動記録>FE聖戦 風パティ小説 INDEX>二 隠密攻撃戦 2
HOLPATTY 2-2 * 「「せーの」」 その声にパティは跳ね起きた。 横ではラナとマナがパティのくるまっていた毛布の端をつかんでいる。 「目は覚めた?」 「とてもいい寝顔でしたよ」 一人は不敵に、もう一人はつとめて穏やかに、パティの思いなんぞそっちのけでそれぞれの笑みを提供してきた。どうもこの二人、パティの毛布をはぎとって起こそうとしたらしい。つくづくありがたい従姉妹とその友達である。おまけにあの奇妙な杖使いでもあった。 杖といえば、パティは今回は更に恐ろしい事実を知ってしまった。今回マナが新たに持ってきたスリープの杖の先端のデザインはリアリティのある人間の顔で、頭はスキンヘッド。あろうことか杖を使うと鼻ちょうちんがでてくるのだ。嫌だというのにマナは嬉々としてそのことを就寝前に語り、おかげでパティはしばらく眠れなかった。 寝不足はそのせいでもあるが、辺りはまだ暗い。カンテラふたつでどうにか顔を判別していた。 「リンダは?」 天幕の中にいるはずの少女の気配はない。パティ以外の寝床は片付けられているようだった。 「外に行ってるわよ」 「もうすぐ出発ですから」 「……そぉ」 女同士ではあるが、着替えのために二人は気を使ってカンテラひとつを残し天幕から出ていった。 それにしても大げさなものだとパティは思う。少人数の進軍で完全に野宿だと頭から決めつけていたのに、少女達だけは天幕での休息を許されたのだ。 今だってラナとマナは出ていったが、元々パティはそのままで出ていける旅支度で眠っていた。せいぜい整えるものがあるとすれば髪型くらいだろうか。 今までやっていたことがやっていたことだから野宿もなれているし、危険を察知するのもお手のものである。 が、そんなことはあえて言わないし、女の子だからという理由だけで保護されるのも仕方がないとわかっている。このメンツであることもそれに拍車をかけていることだろう。それに、パティが一人で外のメンバーに加わったところでできることは少ない。気づくのが少し早くても、実戦になったら自分ひとりが生き残るために動くのがせいぜいである。 パティは手早く毛布を巻き、身支度を整えた。いざという時の護身用の剣を腰に差す。それを風の剣にしてもいいのではないかとホークに言われたが(彼が言うには、剣でも魔道に拠る物は適性があるらしい。パティの場合、それが何なのかを当てるのは簡単だった)、まだ心の整理がしきれないからと魔力のない剣を使っている。 新しい荷物の銀の剣をベルトで背にくくりつける。オイフェ達が言うには、自分の手柄は自分で死守しろということだった。 最後に、例の魔道書入りの小袋を手にした。 もうひとつの手柄、外套の止め金と指輪はウエストのベルトについている超小鞄に入れてある。オイフェとレヴィンが協議した結果、友好的なヴェルトマー関係者が出てくるまではパティの管理下に置かれる事になったのだ。もちろん、デルムッドとナンナには言わないままである。 「パティ! 入るわね」 慌しく入ってきたのはリンダだった。 「もう行くの?」 パティの問いにリンダは荷物をガチャガチャといじりながら答える。 「そうね。もうすぐユングヴィ軍がこの辺りを通るから」 「……」 そんな事を世間話みたいに言わないでよとパティは言いたくなったが、無駄口を叩くのは控えておいた。何しろ、緑の髪の兄貴よりもこの人を怒らせた方が恐い。 「この天幕も後から来る荷駄隊の人達が片づけてくれるそうよ。悪いけど、食事抜きで行くようになると思うわ」 リンダは数本の杖を選んで立ち上がった。 暗がりでよく見えないが、なんだかあの恐ろしい杖達のような気がして、パティはよくよく見せつけられる前に天幕から出た。 「まだ暗いなぁ……」 もう少しで暁暗から明けようかという頃である。 「ファイアーでも出してやろうか?」 アミッドが四冊の魔道書を持って近づいてきた。 「そういう問題?」 「明るくはなるんじゃないか?」 おどけるアミッドの顔には余裕がうかがえる。が。 「ここが終ったらフリージだね」 フリージという地名が出て、アミッドの表情に陰りが出た。 「アミッド?」 「あ、あぁ……いや、うん、そうだな……そうだよな」 「大丈夫?」 「あぁ、大丈夫……だよ、うん」 ちっとも大丈夫なんかじゃないでしょうが。パティはそう突っ込んでやりたかったが、やめておいた。今のはつついてしまった自分が悪い。 それにしてもフリージの一言でこんなに動揺するとは。 「大変ね、あんたも」 「そっちもな。レスターなんか意気込んでたし……つついてみるか?」早くも立ち直っている。 「よくないんじゃない? そーいうの」 言いつつも二人はレスターとディムナのいる馬の所へと向かっていた。レスターの生真面目ぶりは少しくらいやわらげてやらないと危険である。 レスターはよくパティの行動を咎めているが、決して仲が悪いわけではない。母ブリギッドのことを訊いてきたりするからなごやかな話のできるうちの一人ではある。 解放軍の若者のまとめ役であることから、皆とほどほどに親しく、色々と不満があればオイフェにかけあってもくれる。誰からでも信頼を寄せられている数少ない人間だった。彼が近づく必要がないのはリーフやアレス、アルテナといった王家の人達くらいである。 その彼は母エーディンを故郷ユングヴィに帰す事を望んでいる。従って、現在の当主スコピオを討つことに関しては別段の意識はない。聖弓の継承者のファバルに止めを任せて、自分は遊撃に回るつもりでいたらしい。 おはよ、とパティがレスターに言うといきなり本題を切り出された。 「ファバルに、イチイバルを使ってくれるように言ってくれないか」 頼む、とまで付け加えられてパティはたじろぐ。 「お兄ちゃんが渋ってるの?」 知ってはいたが、こう言うしかなかった。 レスターが考えるように顎を手でくるむ。 「ファバルが聖弓を持って一度射るだけでもユングヴィの古参兵は怯むはずなんだ……。なのに、使いにくいとかなんとか言って逃れようとする」 ファバルの言い分は、本当の本当に使いにくいからなのだが、レスターはそう思っていない。ユングヴィのこととなると融通がきかなくなるのだろうか……パティが想像できるのはこれくらいである。 「お兄ちゃんはレスターみたいに考えてないかもよ?」 「どういうことだ?」 「これがユングヴィの解放劇だったら、そういう手は使えるかもしれない。イチイバルを使えるのがここにいるぞって言えば、前の公爵家……だっけ、そっちを支持する人が集まってそっちの戦いになるだろうけど、今は来る軍隊を抑えて、当主を倒せばそれでいいわけでしょ」 「俺、そこまで考えてなかったけどな」 ぼんやりしているのか、はっきりしているのか判断のつけがたい表情で輪の中に入ってきたファバルは、いつも通りにキラーボウを持っていた。厳重に包まれたイチイバルは一緒に来たアサエロが持っている。 ファバルがレスターに鳶色の目を向ける。 「気ぃつかってくれるのはいいけどよ。お前の方が色々言われてただろうが。髪の色が違うだの、全然母親に似てないだの吹き込んでくる奴が。 「別に気にしていない。僕には僕の役割がある」 「イチイバルをちゃんと使えるのを無難に玉座に収めることか? 俺は嫌だぜ。やり残した事があるんだ。 「……」 ファバルに押されてレスターが黙ったのは、パティにとって意外だった。言い返すことがないわけではないはずなのに、と思う。 と、ディムナがパティに小声でささやいた。 「ファバルさんの言ったことが相当効いてる。ああ言っても、レスターは悩んでいたから」 「そうなの?」 パティがささやき返すと、ディムナは渋い顔で頷いた。 別にユングヴィのあるじになりたいわけではなかったのだろうが、ファバルに一線を引くことでどうにか自分を納得させようとしたのだろう。そうディムナは付け加えた。 いつしか輪に加わってきたラナは、マナと二人で造りの変わった弓を持っていた。 背の高い兄を精一杯見上げる。 「兄様。ファバルさんやディムナと色々話しました。 「ラナ、何を」 「黙っててください、兄様。 ラナとマナがレスターに差し出した弓には、弦が二本張ってあった。 ただし、一本は邪魔にならないようなところにある。装飾と見てまちがいない。 「これは、弓神ウルの従者が扱っていたものを復元したものだそうです。母様は、二十年以上前からこの弓をイチイバルと共にふさわしい方に渡すために持っていました。イチイバルはブリギッド伯母様に渡されたものの、この弓だけは使い手を見い出すことができなくて、そのままわたしが預かりました。でも、今の兄様なら弓の眼鏡にかなうはずです。 ラナのこれ以上ない真剣な面持ちと、レスターの中に残るわずかな抵抗の意思が無言のうちに戦う……といった中、アミッドがパティにぼそりと呟いた。 「こんなに大声出して大丈夫なのかよ……」 「なんで?」 「ユングヴィ軍が近くに来るんだろ」 「シリアスの場面だから大丈夫でしょ。こういう時は敵も気を使ってくれるのよ」 「そういうもんか?」 「そういうもんよ」 冗談にしか聞こえないやりとりをする横で、レスターは緊張した面持ちでこの弓を手にするかどうかといった自問と戦っていた。別の言い方をするなら、泣き顔寸前である。 と、一同に大きな影が落ちた。 朝焼けに照らされたアルテナの飛竜である。 「……なんで?」 代表発言のパティの言葉は、それこそもっともだったから、誰も咎めなかった。 飛竜がそのまま彼らのすぐ近くに着地する。 騎乗していたのは地槍ゲイボルグを持ったアルテナだけではなく、戦装束に身を包んだラドネイもいた。 レスターが小さく息を飲む。 「ラドネイ……」 呟きにかまわず、ラドネイは止め具を外し、飛竜から降りるやレスターとラナの横に立った。 やっ、とラナに笑いかける。 「面倒見る男が多くて大変だね」 「お互い様でしょう?」 「まぁね。あたし、ロドルバンも心配だったんだけど、やっぱりこっちの方が大事っていうか……うん、ついていたかったんだよね」 とりようによっては『こっちの方が頼りないから』と言っているようにも聞こえる。 レスターとラドネイ、ラナマナシスターズを中心として、残りは皆外野と化した。 「いつのまにくっついてたの、あの二人」と、パティ。 「幼なじみだったからねぇ」と、ディムナ。 「ラドネイは男嫌いじゃなかったか?」と、ファバル。 「例外は、シャナン王子とロドルバンって聞いたことがある」と、アミッド。 「……相談相手だったんじゃないか?」 アサエロが言ったことに一同はおぉ〜と手を打った。 一人で塞ぎこむ(レスター)→一応幼なじみだから様子がおかしいのを見に行く(ラドネイ)→自然に会話発生(多分、ラドネイがレスターをどつく)→現在。 拍手が起こる外野大会議に、ラドネイは呆れていた。 「……なんなの、あれ」 レスターはわずかに普段通りの自分を取り戻し、苦笑いした。 「もう慣れたよ。ああいう人達だってわかったから」 全くもってフォローになっていない。 「あぁ……そぉ」 ひとつ息をついて、ラドネイは腕を組む。 「いい加減に決めなさいよ。あんたはこんなんでも期待されてるんだから。 「……いいのか? これで」 「いいってみんな言ってるでしょ。あんたは堅物で愛嬌がないけど、頼られているんだから間違いじゃないわよ」 「ひどい言い方だな」 「だから、早いところそう言われるだけじゃないようにするんじゃない」 ラドネイは二人から弓を受け取ってレスターに突きつけた。 「これからが大変なの。ユングヴィの役職目当てに、あんたに接触してきた奴を全部遠ざけなきゃいけないんだから。それができないんだったら」 レスターがラドネイの言葉を引き継いだ。 「いっそ消えちまいな、だろう? いいよ、やってやろうじゃないか」 半ば自棄のような発言だったが、ラドネイは嬉しそうに笑い、弓を渡した。 ラナとマナが弓の継承に祝福の言葉を短くかけた。 決意も新たにレスターが仲間を振り返ると、外野の話はまだ続いていた。ディムナが主に語り、内容はティルナノグの人々が幼い頃のものだった。 どうやら、レスターとラドネイがどのような過程をもってラヴラヴ(?)になったのかを、細かく検証するつもりらしい。 「……放っておこうか」 「いいの?」 「いいよ、オイフェ様の所へ行こう。この先が心配だし」 レスターはラドネイとラナを連れてその場を去った。 一人残ったマナに、飛竜から降りたアルテナが声をかける。 「なかなかににぎやかな軍ですね。皆、仲が良くて」 平和的なコメントにマナは真っ赤になった。こんなのが軍とは恥ずかしいもいいところである。アルテナは素直は感想を言っただけなのだが、普通とは違うと言われてマナはあまりいい気がしないのだ。 一方、盛り上がる輪の中にいたパティはようやくあることに気づいた。 「ちょっと待って」 いきなり出された待ったにディムナ、アミッド、ファバルが何? と首をかしげる。ただ一人、アサエロはパティの言わんとすることに気づいたが。 パティがマナに問いかける。 「レスター達は?」 「オイフェ様の所に行きました……」 「弓は?」 「もうレスターさんに……」 「うそ」 「本当です……」 「じゃあ、あたしは『レスター開き直りinユングヴィから北東大会』を見逃したってことなのね!」 「えぇ……まぁ」 そんな名付け方をするパティって一体……と、マナが思ったのは言うまでもない。 よし、とパティは両手を握りしめた。 「みんな、レスターとラドネイをからかいに行くわよ!」 おおっ、とディムナとアミッドとファバルがパティの後について歩き出した。 残ったアサエロは思わず肩を落とす。 「そんなことしてる場合じゃないんじゃないか……?」 実にもっともな意見である。 |