「Noise messenger[5]」5-6 |
(5-6) 「風」の時宜を得たとして、解放軍は城壁への攻撃をこの日と決定した。城外での戦から六日後の事である。 マリクの陣や、各隊の配置が慌ただしく用意される中、本営近くでは この魔法防御の法力を受けるのは、魔道部隊との戦闘が特に予想される面々で、マチスと城内を先導するマケドニア人が対象だった。行使者は今回もレナである。 円陣を整える成り行きを見守っているマチスの元に、ミネルバが訪れたのはそんな時だった。 「卿……結局は、最後に大変な頼み事をしてしまいましたね」 「一応自分から名乗り出たんで、気にしてませんよ」 「……そうですか」 円陣へ目を向けたまま、ミネルバが続ける。 「マリアが、卿に贈り物をしたと聞きました。……あの子は、卿の事を話す時だけは年相応の、本当に活き活きとした表情でした。何かをしてあげたいとはずっと前から言っていたのですよ。 おかげで、随分と先を越されてしまいました」 マチスはこの科白に反応しミネルバを見ようとしかけたが、手前で踏み留まった。 「わ――おれは、騎士としちゃあ不出来な方です。他の国の有望な連中を見れば、それに値しないのはわかりきっているでしょう」 「今となっては、聖騎士という器にこだわりすぎたのがいけなかったのでしょうね。ですが、私も感謝している事には変わりありません。 血の宿縁に耐え、新しい扉が開かれる事を祈っています」 それだけを言うと、ミネルバはふいとその場を離れていった。 国を裏切り、対立した行為を行った者、残る血縁との戦いを強いられた者が多い。 先の軍議でミネルバがマチスを後押ししたのは、その対決を全面的に望んだからではなく「奇」の決着に望みをかけたからだろう。 そんな確約など誰に対してもできるものではない。当のマチスには終着点を目指すしかないのだ。 そして、この複雑な事情に絡む人間がもうひとりいる。 円陣の準備を終えて、レナは多くの人間を中へと誘った。 かつて父親との戦いに関する意見の相違で、互いに避けていた頃もあった。 今も割り切ってはいまい。 それでも、妹は戦いに赴く兄を護る力を施す。 仄かに青白い光が周囲を満たし、やがて普通の空気と同化すると、それで儀式は終わりとなった。 解散する一同の中、マチスはレナを振り返った。 「じゃあ、行ってくる」 「――ええ、気をつけて。 わたしの分までお願いね」 「レナの分……?」 「マリア様が使者に立つ話が通ったら、わたしがお供してお城に入る予定だったの。剣を持てなくても戦いましょうね、って言い合ってたのよ」 最後の最後にとんでもない話が飛び出したものだった。 「そりゃ、さすがに無茶だろ……」 「それだけの事をしないと終わりそうにないんじゃないかって思っていたのは本当の事よ。そうしたら、お父様にお会いできていたかもしれないから。 でも、もう兄さんにお願いします。――もう、そうするしかなくなってしまったから」 「だから、レナの分までなんだな……。 やれるところまでやってみるよ」 |