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「Noise messenger[5]」5-4





(5-4)


 マリアが到着した日の夜、包囲網の陣内において各隊の隊長クラスのみの間だけで噂が流れていた。


『本営にミネルバとマリアが揃って入り、二時(四時間)もの間出てくる気配がない』

『本営からは人が遠ざけられて、取り次ぎも離れた所にいる兵士を通さなければならない』

『外で待っていたレナが本営へ呼ばれて中に入っていった』

『途中から風の魔道士マリクがやって来て、彼もまた中に入ったままである』


 各隊で本営観察の人間を派遣するというのは、あまり聞こえのいいものではないのだが、いかんせん本業が「待ち」という堪えるものである。

 そして、いつの間にか各隊の長も集まり出していた。

 これに本営の面子が揃えば、そのまま軍議が始められる状態である。

 というよりも、本営でケリがつけばすぐさま召集に応じようという構えである。

「それにしても……これは相当な事を言ったのだろうな。正直、そこまで期待するのは難しいと思っていたが」 

 カインが発言したように、長が集まった当初、この事態はマリアが引き起こしたとするマチスの意見に、ほとんどの者が疑わしいと首を振っていたのである。

 マリアが来た事に対しては歓迎したものの、初陣を迎えるかそこらの年頃の少女に、戦の道筋をつける事まで求めるのは酷でしかない、と。

「だが、あそこまで長引いているとなれば、癖の強い話であるのも確かだろう。……もっとも、あの城を陥とすには正攻法で済むはずもないが」

 サガロの科白を口火にして、一同の関心はマリアが何を提案したのか、その中身に移っていく。

 思い当たるのは、どうしてもマリアがその身を呈するものになってしまうが、それだけだったら最初に聞いた時点でマルスが却下するはずなのだ。

 そして、途中から参加者が増えているのも一同には気になるところだった。進展していそうなだけに、何かしらの情報は欲しいところなのである。

 他方で、軍議でもないのに長いこと持ち場を離れているのは、後ろ髪をどことなく引かれる気持ちにさせる。

 一旦戻るべきかとそんな声が上がり始めた頃、本営の入口から天馬騎士――タリス王女シーダが現れた。

 一瞬だけ伝令の姿を捜したようだったが、その近辺に各隊の長達を見つけて口元に手を当てた。

「皆さん、どうしてこちらに?」

 代表してカインが前に出る。

「本営で動きがあったというので、その……どうしても気になりまして。

 シーダ様はずっと中に?」

「わたしはたまたま居合わせていただけだったの。色々とあったけど、お話はまとまったから皆さんを集めてきてほしいとお願いされて」

 念願の軍議が開かれると聞いて、諸将は歓声を上げた。

 すぐにでも始めようと意気込む彼らに対して、シーダが制止をかけた。

「でも、半時後に集まってほしいということだったの。……ちょっと、まとめるまでが大変だったから」

 二時以上の長丁場、余人には立ち入れない艱難辛苦の連続だったのだろう。

 一同はそれ以上の収穫は諦めて、半時後を待つことにした。



 軍議が始まると早々とマルスは今後の結論を述べた。

「先程ミネルバ王女とマリア王女と話し合って、城を攻める算段ができた。最初の攻撃については議論の余地がないから、ここではその後に関する詰めを行いたい」

 マルスの言った事は歯切れはいいのだが、内容に疑問点があった。

 将のひとりが発言を求めて許可される。

「その『最初の攻撃』については秘される段階なのですか?」

「いや、別に隠すつもりはない――そうだ、まず経緯から説明しよう。王女おふたりの覚悟は、知っておくべき事だからね」

 先程起こったミネルバとマリアの来訪は始めこそ穏やかなものだったが、マリアが自らを降伏の使者にして欲しいと願ったところから雰囲気は一変した。

 ミネルバはマリアの決意をそこで初めて聞き、マルスと一緒になって反対の立場を取った。ここまで来て人質に取られるような徒労は取りたくなかったのである。

 だが、マリアはそれくらいの事をしなければ、ミシェイルを信じる人々の態度は崩せないのではないかと譲らなかった。こうした包囲網を敷き続けるのは、マケドニアの国土にとっても良くない事であるはずだから、と。

 中に入って、身を削ってでも城の中の人々の説得に挑む覚悟すら見せたマリアに対し、マルスは根負けしかけたのだが、ミネルバが頑として譲らなかった。――と、そこまでは良かったのだが、マリアを出すくらいならミネルバが自ら使者に立つと言い出したのである。

 どちらも見過ごせないマルスは、全身全霊をもってふたりに思い留まるよう訴えかけ、せめて違う手段を、と求めた。

 ここで振り出しに戻ったかのように思われたが、ミネルバが思い切った事を言い出した。

 豊富なほどのこの人員を用いて城の側面に足場を作り、城壁を破壊してしまおうというのである。

 攻撃手の頭上を守り、あるいは陽動をかければ、二重に置かれておりかつ頑丈きわまりない城門の扉を攻めるよりは可能性がある。

 城を犠牲にしてもいいと言い切るミネルバの決意に、一度はそれで通しかけたが、マルスは友人の言葉を思い出し、もしやという思いでマリクを呼び寄せ、攻撃の初手を決めた。

 マケドニア王都の周辺は、大賢者ガトーがスターライトの生成の場に選んだように、魔道の力場として大変優れている。使い方さえ誤らなければ、魔道の陣を作って契約解除を経ないで精霊に直接干渉することもできる。天候によっては更なる威力を得ることもあるという。

「――というわけで、最初はマリクが城壁に攻撃を仕掛けることになった。成果ばかりはやってみないとわからないけど、至近距離で魔道を放つ程度の効果はあるはずだと言っていた。

 これで、城にいるマケドニア軍が動く事を前提にして、細部を詰めたい」

 計画の核と事のあらましを明かされ、解放軍の諸将はぐうの音も出ない有様であったが、ミネルバとマリアの覚悟を聞かされてはこの計画で動くしかない。

 王城側が徹底抗戦を敷くのであれば、戦力の問題からして城門を開かざるを得なくなる。

 最初に飛び出す戦力は、竜騎士団とグルニア騎士の生き残りだろうと予測されるが、先日ミシェイルが姿を消してからの展開を見ると、絶対的な将を失った今は地上の兵だけでも対抗するのは難しくない。分断させて引き離せれば、まともに数対数で戦わずに済む。

 肝心なのはこの後で、緒戦の間を縫って城門を突破し、城の制圧に至らせる事である。

 敵側の歩兵に関してもひたすら前進してくるのであれば、各個撃破に努めるしかないが、上手いこと城内に潜まれて奇襲されればこれも厄介になる。

 特に魔道部隊については、得物の届かない距離から高威力の魔道を放たれてしまうため、危険性が高い。

 以上の要素を踏まえるが、城内突入後の道案内役を兼ねる戦力等を除けば、各隊の動きは流動的となる。動ける段階になって戦力の計算をし、突入する隊が決まるというほどだった。

 懸念のひとつである魔道部隊は、控えめな立候補とミネルバの後押しがあってマチスが当たることになったが、これも確定ではなく予定となったのみである。





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