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「Noise messenger[5]」5-2





(5-2)


 ――二刻前。

「退けっ、このままでは潰されるぞ!」

 星と光の魔道を目の当たりにしたマケドニア軍の或る将が叫ぶと、鉦が打ち鳴らされ、潮が引くように彼らは撤退してきた。

 光魔道オーラの段階で彼らには十二分に驚異だっただろうが、これは知識として得られなくはないものだった。

 しかし、ここに来て発動した魔道は完全に未知のものである。

 城内で自らの伝令からこの魔道の顛末を聞いていた魔道部隊長のバセック伯爵は、膨大な知識の中から答えを導き出した。

 ガーネフの暗黒魔道マフーを破れる唯一の魔道スターライト・エクスプロージョン。

 その存在は伝説でしかないと思われていたが、とうとう同盟軍の手に渡ったのだ。

 これで、暗黒魔道によって完璧な守りを持っていたガーネフに、綻びができた。暗黒竜メディウスの弱点である神剣ファルシオンが奪われる可能性が出てきたのだ。

 伯爵は急遽開かれた主なき軍議において、諸将の前でスターライトに関する話を余さずに披露した。

 帝国と組む絶対的優位が崩れて動揺が走る中、伯爵は尚も続けた。

「陛下ご不在の今、正義はミネルバ殿下にあると喧伝されても何ら反論できますまい」

 すぐさま何人かの将が立ち上がったが、伯爵は彼らの先手を打って素早く言葉を紡ぐ。

「ですが、同盟軍はアカネイアに他なりません。陛下の御意志を継続するにあたって、この城を守る事は意味のあることでしょう」

 上座の人物が――急遽この軍を取りまとめることになった公爵で、数代前の王弟の血統に当たる――問いかける。

「では、司祭の考えは籠城ということなのだな?」

「命じられれば応じる所存ですが、私に見える策はそれくらいしかありません」

 帝国の宗主たるドルーアから増援の軍勢は来ない。よって、籠城は愚策中の愚策だが、この城の多数はミシェイルの生存と帰還を心から信じている。これまでアカネイアがほしいままにしていた豊かさをマケドニアにもたらし、尚も発展の余地を残す器がこの程度で失われるはずがないと思っているのだ。

 こうして城門は完全に閉ざされ、城内もまた戦時下のそれにもう一枚加えた重苦しい空気が支配するようになった。

 ただし、彼らは誰ひとりとしてこの城を出られないわけではない。

 ごくわずかな熟練の者に限られるが、少数隊であれば城壁を越えられるし、出現点を同盟軍の網にかからない場所にすれば転移の杖を用いることもできる。実際、ミシェイル捜索のため、積極的に人数を投入する流れになっていたのである。



 籠城初日の夜、バセック伯爵はある主戦派武将の元を訪れていた。

 とはいっても、その武将には既に同志数名がついており、伯爵自身は広い部屋の隅でひとり文机に向かっているだけで誰とも話していない。

 伯爵は主戦派ほど熱心でないにしても、和睦派でない事だけは明らかにしたいがために、この部屋に来ているのだった。

 部屋を訪れた武将の知人には訝しまれたが、その都度部屋の主が説明してくれた。

 僧侶出身の司祭、一般的な軍属ほどにはミシェイルに傾倒していない事、息子がミネルバの臣下として同盟軍に帯同している事――それらの要素から、伯爵は和睦派に格好の人材として目をつけられてしまっている。

 暴走の節すらあった外の軍勢を撤退に至らせた機運に乗り、伯爵をも味方につけてミネルバを国主につけようというのだろう。しかし、伯爵はまだ彼らの側につくことはできなかった。

 君主としての器を問われれば、輝きはミシェイル、持続は先王に軍配が上がると見ている。ミネルバに関しては完全に未知数だが、女性王族としては非常に稀な事に戦の天与の才を持つ――逆に言えば、それ以上のものがあったとしたらミシェイルを上回る逸材であり、現実的にはまず有り得ないと考えるしかなかった。

 しかし、伯爵にとってこれらの事は重要ではなかった。

 祖先が「理想」を描いた末に現れ、自らを「現実」と受け入れるその存在。

 伯爵の興味は実のところ、そこだけに向けられていたのである。





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