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「Noise messenger[4]」4-1:3







 戦が動き、マケドニア王国軍の飛行部隊をある程度撤退させた頃、ミネルバは三姉妹に諸方面の補佐を命じ、自身は敵の竜騎士団本営に接近した。

「刺し違えてでも、ミシェイルを倒します」

 簡潔明瞭なミネルバの決意は、当然ながら解放軍首脳陣の了承を得ていない。

 ミシェイルら竜騎士団の精鋭に対しては総力戦で行くというのが軍議での決定だった。

 だがミネルバは、単独の部隊で来ればミシェイルも直属の竜騎士だけを引き連れてくるだろうと読んでいた。元よりこれは兄妹の間で国の主導を争う戦でもある。こうして挑戦すれば受けないはずがなかった。

 その読みは当たり、ミシェイルは四百弱ほどの竜騎士を従えてきた。

「同盟軍に国を売ろうとするばかりか、脆弱な戦力を振りかざして俺に相対しようとはな。赤い竜騎士の名が泣くというものだ」

「ドルーアの手先に落としてマケドニアの名を汚した罪は重い。父上の死から始まったこの騒乱、私が血族殺しの最後のひとりになって終わらせます」

 ミネルバは自らの中隊三十を核として、残りの三百五十には数の不利を覆すべく通常の突撃よりも範囲を狭めて密度を高める攻撃を指示する。

 対するミシェイルは、相手の特化攻撃陣を数で押し包み、密度を削っていく。

 互いに被害を出して一度目の交戦が終わると、果たしてミネルバの方が被害が大きかった。ミシェイル側に打撃を与えはするものの、元からの不利を完全に戻すには至らない。

 異変に気づいた天馬騎士の伝令がミネルバへ制止と撤退を求めるが、彼女はこれを撥ねつけた。

 重大な軍律違反になろうとも、打倒ミシェイルは全うしなければならない。幸い、反ドルーアの側にはマリアが残っている。幼い身に責務を託すのは心苦しい思いだったが、マケドニアの負の円環を絶つ手段がある限り、それを厭うものではなかった。

 ミネルバは東へ移動し、陣形を整える。

 眼下は山の裾野に近く、樹木が埋め尽くしている。平地から離れているため、ここはあまり弓兵が配置されていないはずだった。

 追ってきたミシェイルに対し、ミネルバは再度突撃を仕掛けていった。

 激突の寸前、ミネルバを中心にして治癒法力の光が広がる。遠く離れたマリアが周癒リザーブの法力を発動したのである。

 これに力を得たミネルバの部隊は乱戦に持ち込み、攻撃を重ねていく。

 ミネルバの飛竜は直属の三十騎と共にミシェイルを目指す。

「覚悟!」

 吠えるように襲いかかり、三十騎の助力も効を奏してミネルバはミシェイルと直接槍を交える。

 壮絶の気迫に憑かれたようにミネルバは槍を繰り出し、弾かれても休むことなく次の一撃を放つ。

 膂力の差は依然として存在していたが、ミネルバの全身全霊をかけた攻撃は予想以上にミシェイルへ重圧を与えている。

 しかし、ミシェイルもまた優れた竜騎士だった。凄みのあるミネルバの一撃をかわすや、反撃の一閃で鞍上のミネルバの均衡を崩す。

 すぐにミネルバ直属の竜騎士が一騎駆けつけて、その場を離れるミネルバの盾として備えながら後退する。

 この時、ミシェイルの周囲は少し開けた状態になった。



 その姿は折り良く雲の色に紛れていた。

 軍隊のはるか頭上で愛騎を駆り、銀の槍を手に時機が来るのを待ち続けていた。

 ――そして、その時は来た。



 異音とも呼べるほどの大量の羽の音を伴って、白と緑に彩られた天馬騎士が猛烈な速度で急降下した先には、マケドニア国王ミシェイルがいた。

 咄嗟にアイオテの盾をかざしはしたが突撃の回避は間に合わず、落ちてきた物の重みと勢いと衝撃の全てを受けて、天馬と飛竜は絡み合うように眼下の山林へ落下していった。

 天馬騎士の槍の穂先は命中しなかったものの、衝撃と落下で受けた打撃はただ落ちるがままの行為しか許さなかった。



 わずか一瞬の出来事を前にして、最初に反応したのはミネルバだった。

「パオラ!!」

 悲鳴の如く叫ぶが、パオラとミシェイルの落下は止まらない。

 名を呼びはしたものの、ミネルバには起こった事の意味が理解しきれなかった。

 ミシェイルに自分の部隊だけで戦いを挑む事は誰にも告げていない。それはパオラ達三姉妹も例外ではなかった。

 なのに、こんな事が起きている。

 敵味方の別なく混乱の生じかねない状況で、双方の竜騎士が落下する二騎を追い始めた。

 とその時、ミネルバの持つ周癒リザーブの珠が光り、法力の効力が広がっていった。

 落ちていったパオラにもそれが及んだのか、木々の間から柔らかい光が見えた。ということは、そこがパオラの落下地点である。

 ミネルバは自ら追いたい衝動を抑えて救出を部下に委ね、他の部下を伝令にしてミシェイルが墜落した事を戦場の全てに触れて回るよう命じた。

 あまりにも望まない結末ではあったが、これで戦いは終わる――そのはずだった。





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