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「Noise messenger[4]」4-1:1





(4-1)


 マケドニアの王都を含む北部中央地域は、街道以外のほとんどが山地という徹底した山あいの地形をしている。王城そのものも四方を街道に囲まれてはいるが、勾配のきつい裸山の上に城を築いて城壁をめぐらし、北側のゆるやかな坂の他に突入口はない。

 故に、王都を巡る戦いが起こり、寄せ手が南から来るのであれば、移動距離の問題から主戦場は王城の東側になる。王城の山と他の山に挟まれた場所であるため、地上で敷ける陣形は非常に限られてしまい、逆に空を飛べる者達は翼がある限り、進むも引くも苦労しない場所だった。

 解放軍とマケドニア王国軍、両者一通りの勧告はしたもののどちらも手は引かず、互いの速度で軍勢を近づける。

 最初の接触はミネルバの竜騎士隊と竜騎士団の先鋒部隊だった。

 竜騎士団先鋒部隊の長は敵方の先頭にミネルバが来ていると聞き、勇んで挑発にかかったものだった。

「王女殿下が先鋒とは、よほど同盟軍は戦い方というものがなっていないと見える。覚悟召されよ!」

 同盟軍の弓兵の配備も追いついていなかろうと判断し、竜騎士団先鋒部隊はミネルバの部隊へ仕掛けてきた。

 受けるミネルバはというと、これに対してはまともに相手をせず、第一波をやり過ごした後は東へ移動した。場数はミネルバの方が上回っているため、子の場で優勢に運んで敵を退けさせる事もできたが、何しろ先は長い。場面に応じた動きができなければ、戦全体の勝利すら見えてこない。

 竜騎士団先鋒部隊はわずか一回の交戦で離れていったミネルバを追う。ミネルバの位置付けは同盟軍にとって特殊であるため、撃破が困難でも自由に動かさせない布石の必要性を認識していたからだ。

 地上に留意する偵察の報告に逐一耳を傾ける中、南方から天馬騎士部隊が接近するのが見えた。

 軍装からするとミネルバ直属の白騎士団であるらしかったが、接近してきたのが次姉カチュアと末妹エストの二部隊と聞いて、竜騎士団先鋒部隊は敢えて構わない姿勢を採った。三姉妹が揃えば竜騎士とて楽には戦えないが、下の若年ふたりの部隊が相手では、竜騎士である彼らが追い込まれることはない。彼女達がミネルバの盾になろうと、簡単に突破する自信があった。

 東の山の上空にミネルバの部隊を見つけ、接近をかける先鋒部隊へカチュアとエストが攻撃を仕掛けてくる。とはいっても、正確にはほとんどの天馬騎士が彼らの飛行軌道すれすれを通り抜けていくだけで、申し訳程度の投擲と雷魔道の剣・サンダーソードによる攻撃があるばかりだった。

 振り向く価値すらないので、予定通り追跡を続ける――と、そこへ天馬のものとは思えない速度で急降下の突撃を図る部隊の存在があった。白と緑で彩られたその特徴は、紛れもなくペガサス三姉妹長姉パオラのものだった。

 銀の槍の穂先が陽光に煌いたかと思うと、先鋒部隊の中核を躊躇なく攻め立て、彼らが反撃を仕掛けきらないうちにパオラの部隊は驚くほど素早く再攻勢の態勢を整えた。

 突撃の掛け声がパオラから発せられると、部下の復唱と共に再び怒涛の攻撃が竜騎士団先鋒部隊に襲い掛かり、二度の攻撃で大半の竜騎士が騎竜から落ちたり騎竜もろとも機能不全になって、墜落していった。

 これはパオラだけの成果ではなく、カチュアとエストによる連携があって成立する高度戦法で、トライアングルアタックと呼称されている。

 彼女達の戦いの様子は、地上で北を目指す各国騎馬部隊からも見ることができた。既にパオラ達三姉妹の名声は広まっているので、大方の感想は「さすが」の一言に集約される。

 そうした賞賛の届かない上空ではミネルバと三姉妹が四者四様の行動を取るようで初戦勝利の余韻を味わうこともなく、すぐに散会していった。

 そのうちの一部隊、カチュアが各国騎馬部隊に最も近く、また敵前線にも近い位置についた。その眼差しの先には幾つかの竜騎士団と天馬騎士団の部隊がいる。

 手合いの多さにカチュアは旋回指示を出し、地上の味方に対地上第一波の伝令を飛ばす。自身はやむなく彼らの上空を通過して、後方に退いた。

 この戦線に並ぶ騎馬戦力はおよそ三千。戦線の維持を表に見せつつも、最大の役割は広範に及ぶ弓兵配置の目くらましになる事だった。

「思ったよりも多いな……」

 そんな思いが吐き出されるように彼らの前方上空は翼が群れを成し、個々の色も判別できるようになるのはすぐの事だった。

「先鋒、竜騎士ナイトキラー三百! 次鋒、天馬・竜騎士手槍各三百!」

 決死の様相で告げながら彼らの上空を飛んでいくのは、戦況把握に特化したシーダの部隊に所属する天馬騎士だった。白騎士団の中から選ばれた、適性に優れる天馬騎士によってこの隊は構成されている。騎乗能力だけならパオラに引けを取らない者が多く、観察眼も信頼の置けるものだった。

つまり、この報告は悪い意味でも正確なのである。

 ナイトキラーで脅かされているところへ、地上の槍が届かない上空から投擲されてしまえばその一角はひとたまりもない。

 騎馬に脅威を与える独特な槍が向かう先は、解放軍のマケドニア騎馬騎士部隊である。

「見極めが正確すぎるってもんだぜ」

 巡り合わせや立場といったあらゆる不運に対して毒づくマチスの部隊の横で、アリティアの騎馬部隊が動く。それは横撃の狙いを示しているようだった。

 カインの思惑に応えるには、第一撃を持ち堪えなければならない。

 こうした場合、最初に攻撃を受ける中隊への被害をその一度だけに収め、他の中隊で後続から守りきる方策を取るしかない。

 敵の竜騎士が敵対行為への非難を撒き散らしながら降下し、騎馬騎士部隊の一角に穴を開ける。全体からすればわずかな数だが、少数を率いる事が多かったマチスにとって、自らの隊に百騎以上に被害が及ぶ姿は初めて見るものだった。

 握っている槍の柄に込める力が大きくなる。

 一方で、これは始まりに過ぎないと警告が鳴る。

 騎馬騎士部隊は守りの陣形で耐え切り、カインのアリティア騎兵隊が果敢に攻撃を仕掛けて、敵竜騎士隊はそこそこの被害で各国騎馬部隊の陣から離れていく。

 それと入れ替わるように接近する手槍の部隊に対し、前線のオレルアン騎兵隊を率いるビラクから山裾の林を目指す提案が出る。そこは近辺の山地に軽装の弓兵が配置されることになっており、うまくいけば敵方の壊滅を狙えそうだった。

 マケドニア騎馬騎士部隊は敵からすれば自らの主君を裏切った存在であるためか、非常に狙われやすい。新たな敵部隊も判を押したように、マケドニア騎馬騎士部隊を目指してきた。

 最後尾や損害のために攻撃を受ける前に林までたどり着かなさそうな中隊は、アリティアやオレルアンの部隊へ一時的に合流して退き、残りで林へ向かう。

 相手は投擲であるし全体数はこちらよりも少ないので、この状況なら攻撃を受けても壊滅はない。だが、こう追われる立場は気分のいいものでもなかった。

 前方に点在する樹木の割合が増え、平坦な地面がなくなる。少なくとも低空飛行に障害が出て、敵の攻撃は遅れるだろう。

 後は逃げ込む段階以降で、マチスが明確な攻撃目標にされないように動かなければならない。味方の弓隊と飛行部隊、あるいは他の騎馬部隊の働きかけがあるのは確実なので、そう長い時間にはならないはずだった。

 狙っていたように、近くに潜んでいた弓兵が追手に攻撃を仕掛け、その間隙を縫ってエストやミネルバの部隊が代わる代わる現れて、敵部隊を撤退へ追い込んでいった。

 マチス達もまた休む間もなく林を抜けて、カインやビラクと共に新たな地点で戦線を結ぶ。

 後方からロシェが追いついたかと思うと、前方からの敵の騎馬混成部隊と竜騎士団接近の報告が届く。

 この段になると弓兵の配置も終わり、後は状況によって位置を変えていくのみだった。今も各国騎馬部隊の前で彼らは構え、一斉射撃の後に後退する予定になっている。

 と、弓隊から離れた場所にぽつんと佇む数人の小集団があった。上空と地上、両方の位置を測っている。

 弓隊が指揮官の号令でマケドニア王国軍の騎馬混成部隊に斉射を開始し、終了の号令をかけようかという頃、離れていた数人の集団から鋭い光が放たれ、空気を震わせる轟音と共に強力な電撃の魔道が、敵の騎馬混成部隊に追い討ちをかけた。弓隊が与えた打撃と加えて、先頭の部隊は行動不能になっている。

 動けなくなった部隊が進軍経路を塞いでいるため、後続の進行速度は落ちている。攻撃陣形の建て直しも含めて時間は稼げそうだった。

 御役御免とあって、電撃の魔道を放ったリンダはすぐにその場を離れている。高位魔道を操ることができる魔道士の力は絶大だが、攻撃を受ければ非戦闘員の次に脆い。最前線に居続けられない最大の理由である。

 各地に点在して潜む弓兵の気配を認めながら、各国騎馬部隊は北へ戦線を押し上げていく。

「そういえば、近づいてきてた竜騎士団の部隊ってどうなったんだ?」

「確認して参ります」

 マチスの問いかけに伝令が走ろうとしたところで、カインの部隊から同じ事を訊かれた。皆、気づいているようだ。

 そうした気配の中シーダ隊の伝令が舞い降りて、その部隊はミシェイルが率いる竜騎士団の本隊に合流したとの事だった。

 これは、いよいよ来るのか――そう思った矢先に、遅れていた敵の騎馬混成部隊が現れた。

 例によって弓隊の一斉射撃から始まったのだが、これが今までに見たものよりも弓勢が違い、聖騎士の経歴すら持つ元黒騎士団の部隊にきちんと痛手を負わせていた。

 よく見れば、今の弓隊は下馬したウルフとザガロの隊である。更に視線を巡らすと彼らを守るシーザの傭兵隊の姿もあった。

 今回の戦いにおいて、弓の使い手はトーマスが不慣れな者も含めて全体の統率に当たり、ウルフとザガロは専門家ではあったがその下についている。ただ、腕前は認められているので、地上の最前線に現れたのだろう。

 心強い配置を得て、各国騎馬部隊は敵の騎馬混成部隊に躍りかかる。

 攻撃技術に優れたカインとロシェが先鋒を務め、マチスとビラクは援護と戦況を睨んだ指示、守備方面に回る。

 とはいえ、これらはあくまでも基本線であり、攻守逆転の機会も無いでは無い。マチスの隊が元黒騎士団の部隊に突撃した結果、撤退に追い込んだこともあったのだ。

 騎馬同士のぶつかり合いは、一陣営の決定的な勝利までに至らず、解放軍の戦線は同じ地点で止まっている。

 ここで、後方からマルスの部隊が来るという報せが飛び込んできた。総大将がこんな戦いの最前線に出ていいはずがないのだが、ガトーからスターライトの魔道書を授かるため距離を詰める必要があるのだという。北には行き過ぎていないから戦火は及んでいないように見えるが、懸念するのも無理からぬ話ではあった。

 しかし、上空の存在も気になって仕方がない。

 各人が睨むような目つきで上空を見上げていると、部将格以上の人間の胸元や腕――周癒リザーブの効力を発揮する珠から光が放たれた。ある程度の怪我の治療はもちろんのこと、戦闘の連続による疲労すら取り除かれる。

 解放軍の人々はここにいない術者たるマリアの存在を思い返し、彼女もまたこの戦に加わっているのだという思いを強くした。





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