サイト入口同人活動記録FE暗黒竜




「Noise messenger[4]」4-0-iii:2







 儀式が終わり、一同が散会するとマケドニア出身者は別室でミネルバに呼び集められていた。

 ミネルバが皆を労い、明日からの大戦に向けてパオラ達や諸侯の長らが決意を新たに述べ、あるいは別離を惜しんでいる。

 別の一角では、マリアとレナが小声で謝り合っていた。

「本当に急な話でごめんなさい、機転きかせてくれて助かったわ」

「わたしの方こそ、もっと良い言葉にできれば良かったのですが、あまり工夫できなくて申し訳ありませんでした」

「だから、謝るのは事前に何も言わなかったわたしの方なんだから、そんな気にしないでちょうだい、本当に」

 その様子を見ていたマチスは、ひどい舞台裏を垣間見て何とも言えない気分になっていた。

 レナが行った儀式は周癒リザーブの儀式を行った直後というのもあって、諸国の騎士達からえらく評判が良かった。決戦への気持ちが新たになったという感想もあったが、一番多かったのは『なんだかわからないけどやる気が強く湧いた』というものである。

 このなんだかよくわからないもの、というやつの正体はレナの見た目に他ならない。美形・美人・美少女の本気が醸し出すお得感は、そうでない人間の三倍を軽く超える事をマチスはよく知っていた。身内が総じて顔の作りがいいので恩恵を受けることもあったが、思い知らされた経験の方が多い。

「ま、被害に遭うのがおれだけなら安いもんだろうけどな……」

 そんなひとり言を呟くマチスに、パオラがこっちに来るようにと手招きする。

 何となくいい予感はしなかったが、その予想に反し彼女はマチスにとって意外と親切な事を言ってきた。

「早くミネルバ様に挨拶してきた方がいいわよ。最後の方に残されるとやりづらいでしょう?」

 色んな人間がいるうちに、さらっとやってきてしまえというのである。

「まあ確かに長居はしたくないけど……なんでまた」

「ミネルバ様に負担をかけてほしくないのもあるけど、何となく近くにいてほしくないのよ」

「凄ぇ自己都合を何の抵抗もなく言うよなぁ……」

「いいから、行ってきなさいな」

 ほら、と軽く背を押されて仕方なくミネルバに近づくと、かの王女は少し疲れたような、しかしそれを気持ちで押し戻すような表情を見せた。

「卿も、これまでご苦労でした。最後に厳しい戦いになってしまいましたが、この戦いさえ勝利できれば悲願が叶います」

「……できる限りですが、力は尽くします」

 マチスのやや歯切れの悪い答えにもミネルバはさして嫌な顔はせず、却って笑みを誘ったようだった。

「卿らしいですね。――では、武運を」

「ミネルバ様も」

 比較的波風のないやりとりだったが、互いにこれで十分だという雰囲気はあった。竜騎士団を退けて城を攻める段にでもなればまた変わってくるのだろうが、その前段階で生き延びなければそんな話すらできない。

 ミネルバの前を辞して、頃合が良くなったところで隊に戻るかとマチスは思ったが、ふと用事を思い出して、レナの姿を捜した。

 そろそろマリアから解放されているだろうかと見回すと、妹はまだかの王女と一緒にいた。

 というよりも、ふたりしてこちらを待ち受けている風にすら見える。

 仕方なくマチスの方から声をかけた。

「揃ってこっち見て、どうしたんだよ」

「マチスさんだって。シスターを捜してたでしょ?」

 マリアはそう言って、肩をすくめる。相変わらずおしゃま感全開だった。

「捜すっていうか……まぁ預かってもらいたい物があるんだよ」

 横にマリアが立っているが、聞かれても支障はないのでマチスはレナに向かって続けた。

「じーさんから餞別に貰ってた物があったんだけど、戦場には持って行けないから、レナが持ってくれないか」

「それは構いませんけど、お祖父じいさまからいただいたのですか?」

 レナの声音に意外そうな響きが混ざるのも仕方のないところで、マチスは僧侶の修行すら受けていない。

「貰ったって言っても大層な物じゃないよ。殴る用の杖なんだから。ほら、あの黒っぽい、やたら堅いやつ」

 実際に何かの役に立つというよりは、祖父なりにマチスの気持ちを買ってくれた証である。ここまでの段階で決意だの勇気だのといったものはだいぶ使っているというのがマチスの実感だが、気概が本物かどうか試されるのはむしろこれからだった。

 マチスと祖父が元々疎遠であった事を知るレナには、感慨を呼び起こすものがあったらしく、しみじみと感想をもらしたものだった。

「あの杖はお祖父さまが大切にされていた物だから、本当に兄さんを見込んでくれたのね。

 けれど、そういう理由だったら兄さんが持っていた方がいいと思うわ。それこそ、お祖父さまの気持ちが込められているのだし」

「壊れたり無くしたりしたら、厄介なんじゃないかと思ったんだけどな」

「そうしたら、全て終わった後で謝りに行きましょう。わたしも行きますから」

「まぁ、そう言うんだったら仕方ないか」

 元より絶対の頼みだったわけではない。頼んだ相手にそこまで言われてしまったら折れるしかなかった。

 ふとマリアが素朴な疑問を口にする。

「でも、どうして叩くための杖なのかしら?」

「王女はさっきやたらと持ち上げてたけど、少なくとも先代の武器修理ハマーンの杖の継承者は僧侶って枠を飛び越えてるただの武闘派だから」

 マチスが容赦なくこきおろすものの、その事実は却ってマリアを深く頷かせたようだった。

「だったら、わたしからもお願いするわ。その杖、マチスさんが持ってくれないかしら」

 部外者のはずなのに、妙に力強いお願いである。

「持つのはいいけど……どうして王女がそんなに言うんだ?」

 困惑から出たマチスの問いに対し、マリアは少し長くなっちゃうんだけどね、と断りを入れて話し始めた。

「さっきシスターにお祈りをお願いしたのは、建国の戦に倣った事だったの。

 新しいマケドニアを開くための戦いだから、それになぞっていって。

 その様子を描いた絵に武器修理ハマーンの杖を腰に差したお坊様が――って言っても髪は伸びていたんだけど――いて、戦っている姿で描かれていたの。マチスさん、そのお坊様にものすごく似ていたわ」

 容姿の似ている祖先の話というのにマチスは違和感があったものの、マリアの求めるものは見えなくもなかった。

「じゃあ、おれが杖を持つのはその話になぞらせるため?」

「――どうしても嫌だったら、無理には言えないわ。

 でも、できればお願いしたいの」

「まぁ気の持ちようっていうしな。レナにも言われたし、持っていくよ。こんなに妙な事情になるとは思わなかったけどさ」



 わたしも、血族と戦う責任を負わないといけないから。

 マリアは声なくマチスの疑問に答えた。

 周癒リザーブの術者に名乗り出たのも、今度の戦いを建国の戦に重ねたのも、兄たるミシェイルとの戦いを、姉ミネルバだけに負わせたくない一心からだったのである。





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