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「Noise messenger[4]」4-0-i:3







 敵に空の大軍がいるという事実は、地上の軍勢にとって脅威の対象となる。

 そのため、解放軍は大々的な軍の再編成で弓勢の増強を図っているのだが、何しろその質は手練(てだれ)に及ばないため、数で補うしかなかった。

 平地の少ないマケドニア王都の周辺は、騎馬の長所を活かしづらいということもあって、ホースメンを抱えるオレルアンや最近解放軍に降ったマケドニア騎馬騎士団も弓歩兵供出の対象になっている。

 だが、危機感の募る本営はまだ弓兵が足りないと言って、マチス隊にも通達が及んだ。二百のホースメンが分離して隊自体は元騎馬騎士団と併合する形になるが、彼らの肩書きを省みれば合流とも言えた。

 この話をマチスはすんなりと受け入れたわけではない。だが、オレルアンからついてきてくれたホースメン隊は、急造の弓兵ではできない山地での行動に長けた者達で構成されているから今回の話の適役なのも確かであり、彼らが抜けた後の決して精強とは言えない三十騎だけではどうにもならないのもまた事実だった。

 この決定によって、ホースメン隊に居候のような形で所属していたカシムもマチス隊を離れ、山岳地形に配置される弓兵隊に再編成された。ここでも元ホースメン隊の下につくことになるが、この形態になるとカシムの本領発揮とあって、彼が隊を引っ張りかねない勢いだという。もっとも、カシム自身は周囲に遠慮しているのか長を引き受けようとしないので、指示役という立場を作って収めるのが丁度良さそうだ、という所に落ち着いている。

 騎馬騎士の側はというと、これまでのいきさつから、マケドニア勢騎馬騎士隊千八百の長にはマチスがつくことになってしまった。絶対に大多数から反発されるから無理だと名指しされた当人が主張したのに、意外にも元騎馬騎士団の面々から不服の声は少ない。

「おれなんかじゃ絶対納得しないと思ったんだけどなぁ……」

 このなりゆきに納得がいかないマチスに、副官ボルポートは軽く首を振った。その表情には、やや苦いものが混ざっている。

「団長から、何か口添えがあったのかもしれません。ただ、こうも目上の方々が多い中だとやりづらくて仕方がない」

 マチスが長についたように、ボルポートの副官という位置付けもそのまま据え置かれている。

「思う所は一緒ってことか……」

 普段であれば落ち着いて反論してくれそうなものだが、今回ばかりは強烈な違和感が勝っているようだった。

「強いて言えば、ミネルバ様に以前から仕えていたのがあの方々との違いですが……あまりそちらの理由で押したくないでしょう」

「そ〜いう事で持ち上げられても困るしな」

 こうした困惑から抜け出せない状況の一方で、最初からマチス隊にいた騎馬騎士達には別の変化もあった。

 竜騎士団と戦うにあたって今度こそ生還が危ぶまれるというのに、彼らの中には恐れよりも戦での使命感が根付いてきているのだという。

 その話をシューグから聞いたマチスの反応は、奇声めいたものになった。

「なんだそりゃあ?」

「ここまで来たんだから、死ぬ事も厭わず戦うんだとよ。お前に対してどうこうっていうよりも、高揚とか重圧がないまぜになってああなったんだろうよ」

 マチス隊の三十騎は規模があまりにも小さいため、運次第というところもあるが、それでも全員が生き延びるのは現実的ではないと踏んでいる。

 解放軍に属するようになってからのマチスの願いは、できる限り自分の隊の人間を死なせない事だった。こんな、望んだものでもない戦争なんかで命を落としてほしくないのだ。

 なのに、その対象である隊員は逆の指針を持ちつつある。

「何つーか、みんなしてどうかしちまうってのもなぁ。怖いっていうならまだわかるんだが」

「怖ぇから、どいつもこいつも変わってんだろ。俺もその辺は影響がないわけじゃない。騎馬騎士の身で竜騎士に挑んで勝つ、ってのは切り込み役にとって夢みたいなもんだからな。一騎打ちで達成すればオーダイン将軍以来の快挙なのさ――まあ、そこまでの無茶はやらねぇが、底力は見せねぇと、って思うわけだ」

 今回は特に他国の騎馬部隊を含め、最前線から外れることはほとんどない。

 置かれた環境が変わった以上、そうした戦い方をするしかなさそうだった。





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