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「Noise messenger[3]」3-2:1





(3-2)


 城に戻ったマチスはカインと共にマルス・ミネルバ・ハーディン立ち合いの元、父親からの書簡を披露することになった。

 当初はマルスとミネルバのみに明かす予定だったのだが、オレルアン王弟が加わっているのはミネルバの提案によるものだった。身の潔白を示すのであれば、ハーディンにこそその書簡を明らかにするべきであり、そうする事でオレルアンの心証を逆に良くできるから、という理由だ。

 マチスとしては、解放軍首脳の三人と一堂に会するというだけでもあまりに堅苦しいし、そこまで大袈裟にされる事も含めて遠慮願いたかったのだが、要望は通らなかった。要は日頃の行いが宜しくないからだという。

 やがて首脳三人が集い書簡披見となったわけだが、独特の言い回しについては名前が絡んでいるせいだとマチスが補足すると、各々がほどなく理解の色を示した――おそらくは陣営の鞍替えという意味だろう。

 その前提を経て際立った反応を見せたのは、ハーディンではなくミネルバだった。

 息を呑んでマチスへ問いかけたのである。

「これは、本当にバセック伯爵が――?」

「はい、わざわざ私の知る者を遣って送られてきましたので、間違いではないと思います」

 マチスの答えに、ミネルバは納得がいかないという風情だった。

「伯爵が、このような秋波を送るでしょうか……。少なくとも、不自然なように感じます」

 元々が嫌がらせめいた伝言だから、ミネルバのように父伯爵の人柄を知っている人間がまともに解釈してしまうと、違和感に繋がるのは無理もない。親子の情に本気で訴えて出戻りに期待してくる筋書き、というよりも、揺さぶりをかけてきたと思う方がまだ説得力を感じるだろう。

 そこへ、マルスが口を挟んできた。

「一応断っておくけど、帰順の意思はないんだね?」

 わざわざ書簡を見せているのだから当然ではあるが、ハーディンへの配慮も必要なのだろう。マチスは頷いてみせた。

「あっちについても、あんまし良い事にはならないだろうし」

 近くに立つカインから咎めるような、あるいは突っ込みのような気配がしたが敢えて無視する。多分ハーディンがいなかったら口に出したのだろうが。

「そういえば、先日の戦闘でマチスは面白い事を言ってたね。さすがというか、つくづく難しいと思ったけど」

「難しい?」

 不意の言葉を問い返すと、マルスは若干可笑おかしいのを堪えるように肩をすくめてみせた。

「挑発で司令を倒すまで行ったのは良かったけど、守りを固められたし、ミシェイル王子に味方する人達にとって刺激的すぎるようだから、今回は戻ってきてもらったんだ」

 明らかになった帰還の理由に、マチスは声こそ出さなかったものの、思わず、あ、と口を開いた。

 戦事が不得手とはいえ、失敗と見なして戦線を外されたのだと知れば、気分のいいものではない。それなりに縁のある人々を前にしていたから、尚更だった。

 胸中で苦いものがこみ上げてくる中、力なく、しかし強い自省を込めてマチスは頭を下げた。

「……申し訳、ありませんでした」

 謝られた側のマルスが強く目を見張る。

「珍しいね、そういう風にするのは」

 正確に言えば、マチスが王族に対して比較的素直に頭を下げるのが、だ。

「あまりしおらしくされても、ちょっと調子狂うけど」

「失態は、失態なんでね」

 言って、軽く眼を伏せる。

 今までであればこの手の事は流せていたのだが、この局面ですら役立たずとあっては立つ瀬がない。対身内で何もできなければ、後はどこで動けというのか。

 しかし、この態度はよほど斟酌し難いものだったのか、意外な所から擁護の声が上がった。

「当初の目的からすれば、この結果は悪いものではない。ミシェイルの絶対的な支配に屈しないマケドニア人の存在は、敵方へ衝撃を与えるのだからな。

 殊に、マケドニア最強の竜騎士団がひれ伏すミシェイルへ、卿のような地を駆る騎士が面と向かって抵抗している事は、人々へ勇気を与えるだろう」

 だからそう落胆するな、と締めくくったオレルアン王弟の頬は心なしか緩んでいるように見えた。

 一方言われた当人のマチスは、どういった風の吹き回しなのかと驚きを禁じえない。他の三人も程度は違えど、信じ難い思いを込めてハーディンを見返していた。励ます事そのものはいいとしても、相手がまず有り得ないのである。状況が許されるのであれば、マチスの行動も込みで『(あまりの珍しさに)槍でも降るんじゃないか』と外の様子を見に行っていただろう。

「我々の味方だからというのもあるが、自国の頂点へ立つ人間の行いが過ちと知っていても、劣勢のまま歯向かうのは容易ではない。妹御の説得が切欠きっかけとはいえ、部将として立ち続けたのだから相応の適性はあろう。この城の開城も、結局は貴殿の功が最も大きい。いいかげん、自信を持つことだ」

 それでここに来た役目は果たしたとばかりに、辞去の言葉を告げてハーディンは半ば呆然とする四人を置いて出ていってしまった。

 しばらくして、渦の中心に放り込まれていたマチスが、やや胸の詰まる思いでハーディンが出て行った扉を見たものである。

「なんか、ものすごく誤解してねぇかな……」

「ハーディン公の事だから思慮の末とは思いたいですが、それでも、その……」

 ミネルバも何か言いづらそうにして、結局は口をつぐんだ。

 どちらも、有り得ない発言としか思えずにいるのである。

 カインも唸るように首を傾げている。

「励まし、と取ってもいいのだろうが、それにしても……」

「勇気と無謀っていうのは紙一重というしね」

 ハーディンの賞賛をブチ壊すマルスの発言に、三人がそれぞれに肯定と否定を混合した末の目線を向けたが、実情はそちらの方が近いだけに反論までには至らない。

 けれどね、と再び口火を切ったマルスが続けた言葉は現実に引き戻すものだった。

「マチス達に戻ってきてもらったのは、西に行ってもらうためでもあるんだ。退いていたオーダインの騎馬騎士団が向かっているから、援護してほしい」

 意識に強く呼びかける名が出て、マチスの身に若干の緊張が走る。

「あまり時間はないし、向こうも仕掛けてくるだろうから、交渉は一度持てれば良い方だと思う」

 口説き落とすのであれば、これが最後の機会ということだ。

「可能性があるかどうかは、わからない。昨日に戦を回避した意図を頼って、こうした図式に持っていくわけだからね」

「…………」

 初期の主幹がオーダインの説得工作だと聞かされた時点で、おそらくは自分にある程度の役割が回ってくるのだろう、と想像はつく。

 しかし、ミネルバの味方になってもらうのを望むわけではないので、どうするべきなのかが見えてこない。それに、かつての上役との直接戦闘に至った時、マチス隊に綻びが生じて全体に悪影響を及ぼさないとも限らない。日頃は部下に任せている面が大きいので、制御できるとは断言できないのだ。

「卿が預かった聖騎士の勲章を、将軍へ返還しようと考えているのです」

 ミネルバが言った事は、黙りこくったマチスの反応を呼ぶのに十分過ぎる内容だった。集中して続きを聞く。

「城を離れた咎として、将軍が自ら先代の陛下から賜った勲章を手放しています。しかし、父上の流れを組む王族として、私はむしろその働きを賞し、将軍を他に並ばぬマケドニアの聖騎士として迎え入れたいのです」

 おそらく、ミネルバも虫の良い話だと承知して言っているのだろう。いつの間にそういう顔ができるようになったのかという思いもあるが、ここまで来れば何らかの変化があってもおかしくない。

 実際に勲章を預かったマチスにしても、オーダインの言った通りの使い道には至っていないし、勲章を預かった形を見せたところで自分を含め隊の皆が結束や実力を強めるわけではない。勲章を返すという思いつき自体は、悪くないと思えた。

 交渉が決裂し、時間や状況の猶予がならなくなった場合は、後続につけるマリクかリンダの魔道隊と合わせて全面対決となる。

 ミネルバやマチス達、西援軍組の出立は明日と告げられて報告会は終わった。





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