サイト入口同人活動記録FE暗黒竜




「Noise messenger[3]」3-1:3







 東地方の前線を確保したと王城で報告を受けたミシェイルは、増員した竜騎士達に追撃はさせず、予定通り王城へ帰還させた。あとは後発させた鉄騎士団が守りを固めて、東の領主連合が持ち直すのを待つ形となる。

「ちと、侮りすぎたかもしれぬな……」

 作戦室の奥でミシェイルがひとりごちたのは、攻撃に転じた領主連合がたやすく瓦解した戦闘についてだった。

 世間一般の常識外と言える距離から、不運としか言いようがない形で矢が司令の侯爵の顔に命中した、と報告にはある。あまり真実とは思いたくないが、敵味方問わず大勢の目撃者がいるというのだから疑うのは筋違いなのだろう。

 敗因は挑発に乗った司令の軽率だという意見が大半を占め、国が生き残るかどうかの決戦のさなかだというのに、とミシェイルの臣下達も容赦なく斬り捨てる評価を下している。

 ただ、この挑発をしてきた相手というのが、反逆によって廃嫡の扱いとなった元バセック伯爵家の跡取りであるマチスだった。

 国内で解放軍と戦うようになってから、この名前が大事な戦況で絡んできたのはこれで二度目となる。オーダインを主将とした最初の戦いで、使者の名目にて単身で城に乗り込み、直後にオーダインら残存兵力が全て撤退している。

 この時は撤退の形、あるいは最後まで戦わなかったオーダインの態度が問題視されたが、今後の対策へ全力を傾けるのが急務だったため、検証は後手に回っていた。

 そんな中で再び出てきたのがマチスの名前は、ミシェイルの心中しんちゅうに余計な小石を投じられた感覚を生んだ。

 建国に大きく貢献した僧侶の家系たる名門貴族の出でありながら、どこにもその片鱗が見られず、それを逆恨みでもしているのか、自らを含めた王侯貴族の存在を否定的に見るその程度の人間。叛旗を翻したところで何もできはしないと、当時は高をくくった。

 ミネルバの裏切りもあり、アカネイアを奪取された辺りからは噂すら聞かなくなっていたから、知らぬうちに死んだのだろうと、本土決戦が始まる前まではそんな認識でいたのだ。

 しかし、蓋を開けてみればこの有様である。おまけに、ミシェイルへの嫌悪で同盟軍についているのだとうそぶく。歴史の価値を解せぬ人間が、感情を優先して阻害するという構図も腹立たしくなる一因だった。

 困惑の種は、これとは別にもうひとつある。撤退したオーダインがミシェイルに宛てて送ってきた書簡だった。

 敗戦の弁と謝罪が主内容ではあるが、最後に書き添えてあったのが、


 故あって国を護る聖騎士の証を手放したこの老体がゆるされるのであれば、今後は陛下の駒としてお役に立ち、果てる事を望んでおります。


というものだった。

 聖騎士の証とは、即ち叙勲の際に与えられた勲章の事である。オーダインの場合は先王の時代に叙勲を受けており、追認の時にミシェイルが新たな勲章を与えなかったため、時代がかった意匠の勲章が唯一そう呼べるものとなった。

 マケドニア軍属の多くの例に漏れず、ミシェイルも騎馬騎士に対して重きを置き難いと意識しているが、オーダインは竜騎士と対等に渡り合える力と技術を持っていたため認めざるを得なかった。ただ、平原の戦だったとはいえ、能力を深く考慮せず、大将として城に籠もらせてしまったのだから、重用していなかった事実は如実に表れていた。

 そして、この文面である。敗戦の将となって生き延びている現状では、次は命を捨てると明言するのはいい。しかし、聖騎士の証を捨てた理由が判然としなかった。

 限りなく勘に近い領域が、落城に関わったとおぼしきマチスが何らかの形で絡んでいると訴え、それがまたミシェイルの胸中をざわつかせた。彼方もまた騎馬騎士なのである。

 父親のバセック伯爵は鉄皮面でマチスの討伐姿勢を貫いているが、いつだったか、あれほど似ていなければいっそ粛清もしやすかろうと水を向けたところ、表情には全く変化を出さないまま、ミシェイルにこう返している。

「不肖ではありますが、あれは紛れもなく血の繋がった私共の息子だと断言できます。そうでなければここまで強くは申しません」

 聞いた時も思った事だったが、あの伯爵にしてはむきになっていると感じた発言だった。

 優秀でない、ましてや自分に似ない血族にそこまで固執する理由がミシェイルにはわからない。彼にとっては自ら手を下した父王がそれにあたる。

 今は窮地に追い込まれてはいるが、それでも、アカネイアの盾となろうとした父王の判断が正しいとは思えなかった。同盟軍に屈服する選択肢は今もなお存在しない。

 ごく一部でミネルバに呼応しようとする動きはあるが、王宮内に関してはそのことごとくを封じきっている。国内勢力を逆転させて勝とうなど、ミネルバの目論見は甘いとしか言いようがない。奪われた南部も取り返すまでだった。

 今のマケドニアにおいて強力な戦力は竜騎士団しかおらず、手を間違えれば破滅しかねない危うさはかなり強い。それでも、普段の戦と異なり後方確証のない同盟軍の兵力を局地戦で削り、何かと最前線に乗り出すマルスとミネルバを誘い出せば光明は見えるとミシェイルは判断している。その最上の機会を彼は常に模索していた。

 次の手として、ミシェイルは東に攻勢の準備を整えさせ、西の前線にはオーダインを向かわせる指示を下した。

 老聖騎士の決意の形とはいかなるものか、その興味も込めて。





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