サイト入口同人活動記録FE暗黒竜




「Noise messenger[3]」3-1:2







 マケドニアにおける解放軍の戦い方は、最初こそ派手に勝ちを収めたが、それからはなかなか先に進まず東西の前線で一進一退の攻防を繰り広げている。今までの『快進撃』と呼べる展開からすれば、遅々としたものと映るほどだ。一年余りでアカネイア大陸の勢力図をひっくり返した軍勢にしては、あまりにもらしくないものである。

 これには解放軍主力の騎馬隊が満足に力を発揮できない地形だったり、海を隔てているために戦力を送り込みづらい事情、局地戦に移ってからのマケドニア国王ミシェイルの手腕が影響しているが、その最たるものは解放軍が勝ち方にこだわったためだった。

 今までの国々と違って、マケドニアは直系王族のミネルバとマリアがかなり早い段階から解放軍に参入している。単に戦闘による勝利で占領へ持っていくのではなく、ミネルバの、ひいては解放軍の正当性を国内に知らしめた上で勝ちを収めようというのだから、進行は容易ならざるものになった。マケドニアで絶対的な支配力を持つミシェイルを相手に成し遂げようというのだから、余計に難易度は高い。

 南の城を拠点に、東西の局地戦を睨みながら各地の領主に説得を試みるマケドニア王女ミネルバは、間違いなく前進はしているものの、国王ミシェイルの包囲網に日々手こずっていた。

 南部はほぼ押さえたものの、他地方からの協力者はわずか、王国軍に至っては当たり前ではあるがほとんど崩せないでいる。

 連日、様々な勢力の人間の品定めをしていたせいか、ミネルバの面差しは日を増すごとに疲労の影が濃くなっていた。王族たる者、この程度の事で顔色に出すべきではなかったが、この時のミネルバは微妙な境地に立たされていた。

 日和見が多いのも、ミシェイルの影響力が軍では特に強いのも予想できていたし、そうした心積もりはできていたのだ。だが、解放軍が国を追い詰めようというこの時になっても、真に世の潮流を理解せず、ミシェイル指揮のもとでマケドニアは戦い続けている。国を救うための考えを持ち、動ける者がマケドニアにはミネルバしか居らず、その彼女が国外に出てしまったがために、良心を持つ人間が絶えてしまったのではないか――そんな滑稽な想像すら思い起こしてしまう。

 ぼんやりと、考えているような考えられないような、そんな時を過ごしているうちに夜が明けそうになっているのに気づき、ミネルバは竜舎に行く事を思い立った。そこにはミネルバの愛騎も居るのだが、実戦で騎乗する機会がないため、最近は顔も見ていなかった。

 竜舎を訪れ、飛竜の世話をやりかけていた少年従者に場所を譲ってもらうと、久々に触れる愛騎の飛竜と一通りの交歓を楽しんだ。

 主として認めてくれる赤い瞳が持つ眼差しの柔らかさ、小さい鳴き声の中にある歓喜の感情、朝方に触れる鱗や地肌の冷たさ。馴染みのある感覚全てが愛おしい。そうであるくせに、戦場に出れば空を支配し、大なる翼と戦闘力で戦況の行方さえも握る。

 だから、竜騎士は己を騎竜と共に誇るのだ、ミネルバはそんな事をしみじみと感じていた。

 愛騎を惚れ惚れと見上げ、語りかける。

「また、共に空を飛びましょう。そう遠くないうちに」

 最後に抱擁を交わして飛竜に別れを告げる頃には、ミネルバの貌(かお)にはいくらか精気が戻っていた。

 自らも竜騎士であるならば、相手の竜騎士も似た精神を持つと考えなければならない。彼らを納得させるには『力』が必要なのだ。

 おそらくは、これまでの解放軍と同じ戦い方をどこかで要求される。それまでにミネルバはマケドニア王女として力を尽くさねばならない。

 当面の敵は、こうであるべきと求める自分自身なのかもしれなかった。





BACK                     NEXT




サイトTOP        INDEX