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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(16) 「Noise messenger[3]」
(2009年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
16
SIDE STORY
605.10
[MACEDONIA]



(3-1)


 マケドニア東部のアカネイア解放同盟軍は、諸侯軍の司令を退けたものの、その三日後には王都から急遽増員された竜騎士団の猛追に遭って完全撤退にまで追い込まれていた。

 味方の伝令竜騎士によって敵の増援を報されていたため、大打撃を被る事は避けられたものの、この山がちな土地で空を往けば接近は劇的なまでに速い。敵部隊の数から抗戦が厳しいと判断して撤退戦の陣容を整えきるかそこらで、相手の攻撃が殿しんがりに向けられたのだった。

 この勇敢な仕事を成し遂げたのは、ビラクのオレルアン騎士達と今回の戦いの前に駆けつけていたカインのアリティア騎士達。解放軍のマケドニア兵が固持しようとしたのを、戦力の問題等やマケドニア戦全体の主旨を理由にして、早々に退かさせてしまったのである。彼らと同様の機動力を持てたマチスの騎馬隊ですら、いたずらに敵の目を引きつけると退けられた。

 一日半かけて次点の前線基地にオレルアン・アリティアの騎士隊が戻り、損害の計上と整理をして今後の展望を睨む段になって、本隊の指示によって前線の構成をある程度入れ替わる事になった。

 ビラクのオレルアン勢を中核にするのは変わらないものの、他の騎馬隊たるマチスとカインが本隊に戻り、代わりにミシェランとトーマスのアカネイア勢、ベックの戦車隊が入り、他のマケドニア勢は残留となる。

「此処を絶対に譲るなという事か。不足はないが、不可解ではあるな」

 目線を直接向けられる事はなかったものの、ビラクが言わんとする事は当人を含めた他の面々も理解していた。

 東の前線に家の領地から来ている兵が含まれており、敵軍の基準によるとマチスは相当に狙われやすい存在となっている、先日のような戦闘に直接影響させるような手ではないとしても、陣に残ってさえいれば何らかの手を出す時、非常にやりやすくなるはずなのだ。

 困惑気味にマチスが息を吐く。

「何というか……本当に戻っちまっていいのかね」

「わからぬな。少なくとも残る方が手は増えると思うが、そうした指示ならば従わねばならぬだろう」

 疑問を引き取ったビラクは、見た目の折り目正しさも手伝って東方面の主将然とした風格を早くもまとわせている。これまでは混成部隊の色が強かったが、今回の撤退戦で大きく株を上げたのは間違いなかった。

 軍議を終え、城に戻る準備に向かったマチスとカインは並び歩きながら撤退戦の事などを話していたが、不意にカインが声を落とした。

「城に戻れるのはある種幸いだったな。あれ、、をずっと持ち続けるのはさすがに遠慮したい」

「見られなきゃ別にいいんだけどね、おれは」

「それを押し通すのが心臓に悪いと言っているんだ。信用してくれるのは有り難いが、秘するのはあまり柄じゃない」

 マチスに宛てられた父親からの書簡は、カインが保管している。

 数日前、この書簡を持つルザを捕らえて再会のお膳立てをしてくれたアリティア人の尋問兵から、書簡の内容は明らかにした方がいいと勧められ、マチスは思案した。確かに敵方から来たものを隠していては怪しい事この上ない。しかし、非常に誤解を受けやすい文面であったため、扱いは難しくなった。

 考慮の結果、必ず中身を把握する事になるマルスとミネルバ以外は極力省略する方針にして、当時の前線に向かってきていたカイン隊に竜騎士の伝令を飛ばして本人か副官を呼んでもらい、最終的には先行した副官からカインに書簡が渡り、ご丁寧にも中は見ないという宣言まで貰い、竜騎士を使った事を誤魔化す口実を捻り出して今に至る。

 普通に読み取れば態度を決めろという意味と取れるあの書簡だが、『画布に描くものは決まったか?』という問いかけはもう少し踏み込んだ意味だった。

 結論から言えば、その対象はまだ見えていない。そんな状態のまま、父親を向こうに回して戦うのは、葛藤というか時間・時機への未練がある。

 せめてこの戦争でなければ、まだ突破口はありそうだというのに。

 マチスの抱える苦い思いはこれだけではない。東の戦線に残る父親の領地ティーザの人々に関して、この前線に残ったところで施せる手が存在しない。解放軍の側に居る理由がどちらかというと受動的であるために、尚更言葉を尽くして手を引いてもらう取っ掛かりが掴めずにいる。今回の異動で直接戦う事はなくなったが、自分の知らない所で決着がつく可能性が出てきたという事でもある。

 もしかしたら、この大戦おおいくさで自分にできる事はないのかもしれない――そんな風にマチスは考え始めていた。





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