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「Noise messenger[2]」 2-1:3






 城から離れること二日、敗戦の将となったオーダインの姿は王都に至る街道の途中にほど近い南部の或る地方領主の元にあった。王都から来るミシェイルの通達を待つ身である。本来は野天の元で軍勢を留める予定だったが、この地の領主に滞留を求められてこうした形になっている。

 経過が経過であるし、責任を取るためにオーダインだけは王都に赴くつもりだったのだが、直属の部下たる騎馬騎士団員を始め多数の人間から思い留まるよう強く説得されてこの場に残っている。騎馬騎士団はおろか、マケドニアには彼以外の聖騎士が存在しないため、ミシェイルの勘気ひとつで命運が変わってしまうなどという結末だけは避けたいようだった。

 とはいえ、ろくに城で守らず、あまりにもあっさりと捨てているのは事実だった。しかもその理由は奇妙な警鐘に基づくという誰もが納得し難いもの。どう考えても、ろくな申し開きにはなりそうもない。

 せめてバセック伯爵とあれほど話すような間柄でなければ、オーダインの行動は違ったものになっていたはずだった。誰が使者として現れようとも、徹底抗戦の構えを取ろうとしていただろう。が、その場合、オーダインは今頃同盟軍の手で討ち果たされていた可能性が高い。

 この「過去の想定」をオーダインは誇張ではなく、実際そうなっていただろうと感じている。マケドニアの聖騎士として死を厭うつもりはないし、戦を放棄しようという柔弱な心など持ち合わせてはいない。

 だが、相手が強すぎたという感覚はどうしても否めない。こうしてグラもグルニアも陥ちていったのだろう、と。最前線を見た者だけがわかる感覚だった。

 城に籠もっていた時のミネルバとのやりとりでは流れてしまったが、このままではアカネイア解放同盟軍という名のアカネイアの意思の元に、マケドニアが沈んでしまう危惧はまだ残っている。

 仮に同盟軍の勝利でこの戦争が終わったとしても、数年のうちに完全な隷属になりかねない。ミネルバだけでは乗り切れまい、という認識でもある。

 しかし目前に迫る危機は、五年十年といった中期的な見通しを望む事を拒もうとしている。

 城の撤退から二日、オーダインに接触してきた各地地方領主の使いは、この地に落ち着く前から数えると相当な数に達した。

 自分で敗戦を招いておいて抱くには客観的すぎるのだろうが、地方領主が不安定な思いの元にあるのがはっきりと実感できる。しかも、これは予想以上に離反の気配が強いように見えた。

 あのまま戦い続けていても、ミネルバあるいは同盟軍が攻撃の意思を示せば城は長く保(も)たなかった。

 もちろん負け方次第では、味方への貢献を大きく残す事もできなくはない。今回の場合はあまり良くない形となっただろう。

 武人として戦って死ぬ覚悟はあるものの、同盟軍を前にしたマケドニアが勝利できるかと問われれば、何となく見える結末は無くもない。ドルーアの直接的な救援は当てにできず(これは一説によれば、ラーマンの竜の女神を奪われたガーネフが行方をくらましたからだと言われている)、優れた人材の人数において後れを取るマケドニアは、後はミシェイルの手腕にすがるしかない。王は意志の強さだけで言えば、おそらく誰よりも強いだろう。その力を信じるしかなかった。

 一方で、オーダインはバセック伯爵が何かを隠しているように思えてならなかった。あの伯爵には似合わない、矛盾した言動の先に居るのは最初にミシェイルに反旗を翻したマチスである。

 オーダインの命運を一時的に変えるきっかけになったマチスは、二年前の初対面の印象では凡庸な青年だった。以前から変わり者という評判もあるにはあったが、あくまでも王族への不遜だけだと思っていた。

 しかしつい先日まみえたのは、その見かけのまま、まともでない論理で動く存在だった。

 変貌の一言で片付けてしまえば、それまでではある。だが、あのバセック伯爵の息子という目で見ると、もう異質にしかならない。

 実は子思いであった事を伯爵は隠れて吐露し、息子が最前線に行かされた時には隠棲にまで至ろうとしたくせに、その息子が国に反旗を翻した途端、伯爵は以前までの活力を取り戻して討伐宣言をした。普通に見れば怒りの力によるものなのだろうし、周囲もそう解釈した。オーダインも例外ではない。

 だが、先日のマチスの存在感は、伯爵の行動の一貫性があるようでない違和感をそのまま映し出して、オーダインにもたらしている。

 もし間に合えば、という一縷の望みをかけてオーダインは伯爵に宛てた手紙を別の伝令に託している。伯爵が言葉の額面通りに動こうとしているとはどうしても思えず、真意を問うためだった。

 実際問題としては、竜騎士を使えるミシェイルからの通達が来る方が早くなるだろうが、マチスと会った時に感じた事が伯爵に伝われば最低限の目的は達する。現実的な事を考えると、これで良しとするしかない。

 ただ、今もミシェイルを仰ぐからには、マチスと交わした約束は守れそうになかった。口先だけになってしまったのは悔やまれるところだが、できる事には限度があるし、オーダインはマケドニアの騎士たる事を生涯貫いてきた人間だった。あの場は膠着の回避も兼ねていたし、城を渡した事で義理は果たせただろう。

 もし当初の望み通り野戦の地で死ねたら、自分の生きた証である聖騎士の勲章を本当の代わりにする事を伝えてせめてもの礼にしよう――オーダインはそう心に決めたのだった。





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