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「Noise messenger[1]」 1-3:5






 ひどく慌しい撤退が行われている最中に、マチスは南門から城の外に出た。

 やけに開けた前方のその先に、膨大な解放軍の軍勢がこちらを窺っていた。

 すぐに何者かが駆けつけてくるが、それを確認しようとは思わずに疲労困憊の身で笑っていた。

 オーダインに自分の部隊の統率をお願いできれば、部隊のみんなは力不足の自分を頼りにしなくて済むなと思ったのが事の始まりだった。

 普通に考えれば絶対にありえない、了承するはずがない、そんな話である。

 だが、それだけを頼みにして足はマルスの天幕に向かっていた。

 頭の中では絶対におかしいとわかっていつつ、話を進めてごたごたがありつつも城の中に堂々と入り、オーダインと話した結果、城を空けていった。

 全般的に異質な出来事だったが、オーダインに対して敬語を使った事、話した内容、これらだけは真実だった。

 終わってみれば、ミネルバの望みはあまり叶えられなかったが、死ぬ結果にはなっていない。

 マチスの望みも半分しか叶わなかったので、心残りはある。

 ただ、誰がどう見ても完全に失敗すると思う方法――と呼ぶのもおこがましいが――でここまでやれたのだから良しとするしかない。

「ま、失敗したって思われるだろうけどな……」

 最初に駆けつけてきたアリティアの騎兵に、城から出ていくマケドニア軍を追わせないように言って退け、話をするべき人の元へ向かった。

 その際たるふたり、マルスとミネルバと顔を合わせる。

「将軍は結局撤退したのですか……。ですが、時を待ってもらえたとも言えますね。
 ともあれ、苦労をかけました」

 と、ミネルバの視線がマチスの手にあった物をとらえる。

「それはどうしたのです?」

「将軍から預けられました。代理にでもなるだろう……と」

 マチスの言を聞いて、ミネルバが小さく息を呑んだ。

「そう…………それが、将軍の意思なのですね」

「?」

「それは聖騎士の勲章です」

 マチスの手の中で、無骨な勲章が新たな重みが加わったように思えた。

 王都への戦いに向けて……。



(Noise messenger [1] end)





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