サイト入口同人活動記録FE暗黒竜




「Noise messenger[1]」 1-3:3






「……この戦、結末は明らかにして諸君らの勝利となるだろうが、侵略に対して易々と空け、恭順するのは不本意である。
 ……以上です」

 軍議の場でオーダインからの書簡を使者が読み終わると、ミネルバが立ち上がった。

「正義の戦いを侵略などと……!
 マルス王子、私に将軍を説得する機会をいただけませんか。解放軍にそのような意図がない事を伝えたいのです!」

 熱意のこもった瞳はアリティア王子でさえ圧倒されそうになったが、どうにか堪えることに成功した。

「気持ちはわかりますが、貴女では危ない。危険が大きすぎる。
 ……改めて見渡せば、この軍勢は確かにマケドニア以外の戦力が大半を占めています。「侵略」と取られるのも無理はない」

「しかし、ミネルバ王女の配下は二千弱。これだけで城を獲ろうというのは、あまり現実的な話と言えないのでは」

 とザガロが言うのに、一同の多くが重く唸るようにして俯き加減になる。

「けれど、門前払いで終わる今のままではどうしようもない。ひとまず様子を見よう」

 マルスがそう締めると、各人どうしたものかという風情で持ち場へ戻っていく。

 最後の方になってやれやれと立ち上がり、マチスも戻り始めた。

 オーダインと戦いたくないのは、今ひとりでも多くのマケドニア人の味方が欲しいミネルバだけではない。マチス隊の部下達もそうだった。

 他の団で馴染めずに流れてきた者、元々の身分があまり高くない者、そうした連中をオーダインは受け入れてきた。

 それ以前から所属していた人間にとってはまた格別の思いがあるらしく、下級騎士が扱うような質の良くない槍を振るって数多くの戦功を上げ、実力で聖騎士に昇ったオーダイン個人に対して一種畏敬の目で見ている節があった。

 その話を聞いた時、ミネルバがしているのとは逆に、オーダインが彼らに寝返りを求めたらマチスの部下はかなり減るのではないかとすら思い、実際に訊いてみたのだが、さすがにそれは否定された。

 けれど惜しい、という。

 マチスにとってはごく短い間しか面識を持たなかった人だったが、オレルアンで捕虜として生き残った彼らが自刃しなかったのはオーダインの教育の成果だと聞いて合い通じる部分があると感じたのは覚えている。

 敵じゃなければいつかきちんとした形で会ってみたかったと思うが、今はそれどころではない。

 ミネルバが多くのマケドニア人に支持されてそうした軍勢を率いるのは、相当甘く点をつけてもミシェイル包囲網ができ上がる頃だろう。それまでオーダインが待つはずもないし、その頃には今ほどの必要性がなくなる。

 歩きながら頭をガリガリとかいていると、後ろからカインが追いついてきた。

「あんたでもこの事は放っとけないんだな」

「おれが、っていうよか、部隊のみんなのためだよ。でも、お手上げだよ。元の上司って言っても、おれらは末端もいいとこだったから」

「俺はてっきり、マルス様があんたを指名すると思ってたんだけどな」

「……何に」

「将軍の説得さ。面識もないではないし、無理矢理だけどオレルアンに着いたばかりのアリティアについた先見の明がある事にして……という具合で」

 アリティアの一部の連中は人の事を面白がっているんじゃないかと感じるのはこういう時である。

「けど、あの王子は言わなかっただろ」

「だからその理由を伺ってきた」

「…………それで?」

「説得する柄じゃないだろう、と仰せだった。思いついた俺もドーガ辺りに毒されていたんだろう。
 これで安心して、と言うのは何だけど、あんたが出る事はなさそうだな」

「まあ、そういう事だあな」

 半ば言い聞かせるようにして、頷いてみせた。

 城を緩く包囲する陣中にあって、部下の私語からやるかたない思いがマチスの耳に届くこともある。

 そんな思いを寄せられる人物を説得できるとは思っていない。ミネルバの為になる言葉を出そうとしたところで、自分が疑問を感じてしまうのが落ちだ。

 正直な思いとして、このままミネルバの配下として居続ければ心と体がいつか破綻を起こす危惧がある。

 先日戦った従兄弟のアイルは右目が剣の傷で失われ、高熱を発している。

 未だ迷いを持ってかけ違いの中にいるのに、勝ったのはマチスだった。

 忠誠心らしきものすら持てないままの騎士稼業。

「みんなが生き残るまでの辛抱なんだけどなぁ……」

 呟きが消える時、マチスの中である事が閃いた。

 実現できるかどうかは怪しい。だが、成功すれば長いこと悩まされていた事に一応の終止符が打てる。

 マチスはアリティア王子の天幕を訪れた。

 中へ通されると、そこにはマルスだけではなくミネルバの姿もある。

 出直そうとして、マルスに止められた。

「帰られると僕が困る。……というよりも、いい所で来てくれたよ。実は、無断でマチスを説得役にするところだったから」

 空いた口が塞がらなかった。

 文句を言ってやりたいのだが、あまりにも多すぎて何から言えばいいのかわからない。

「マルス王子、やはりこれは無謀としか……」

 ミネルバが擁護してくれるのが珍しく有り難く感じる瞬間だったが、アリティアの王子は聞いていなかった。

「ミネルバ王女の正攻法が今は難しいから、『奇』の要素を持つマチスに託してみようと思う。
 根拠はどこにもない。説得ですらないのかもしれない。だから、僕は軍議の場では指名しなかった。でも、こうして来たということは、何かを思いついている。違うかな」

 聞いているうちにようやく閉じることができた口をマチスは開く。

「話が早いのは有り難いけど、先回りされてるようで何だか癪だな」

「そんな事はないよ。僕のなんかは予感に過ぎない」

 それを見ていたミネルバは堪りかねるような表情をしたものの、最後には首を振った。

「私には及ばない事がある事実、学べるいい機会だと思う事にします。ですが、必ず生きて帰ってきてください」

 どちらの言葉にも約束はしかねたが、それでも今は頷くしかなかった。





BACK                     NEXT




サイトTOP        INDEX