サイト入口同人活動記録FE暗黒竜




「Noise messenger[1]」 1-2:4






 最初の交戦が一通り終わったところで、解放軍は本陣と人員の入れ替えをして城を臨もうかという位置に前線を張った。先の戦いでは敵の後退によって出番がなかったマチス達もこの中にいる。

 マケドニアの地を再び踏み、解放軍マケドニア勢では複雑な思いを抱きながらも感極まる者が多くいた。

 できるだけ犠牲を避けたこれまでの行動が報われた瞬間でもあったが、肝心なのはこれからである。対マケドニア王国軍の戦いを生き延びて、欲を言えば全てが終わった時に少しでも彼らにとって前向きでいられる状況になるのが理想だ。もっとも、自力で叶わない面が多いので天運に任せるのが実情ではある。

 解放軍兵士の間では、上陸戦とその一連の戦いに関する話題が上がっている。

 意外にもオレルアン騎士から、ミネルバ達を賞賛する声が聞こえた。

 天馬騎士を多数が占め、なおかつ数は倍する竜騎士隊を相手に互角の戦いを演じて最終的にはその敵部隊を味方につけてしまった事や、元黒騎士団を前に難渋していた場面の機運を変えて相手を退かせる事に成功した一件が効いているようだった。

 敵に回せば恐ろしいが、味方になれば非常に心強い――遅まきながらも、それを地で行く評判ぶりである。これくらいでオレルアン人が抱く復讐心が消える事はないだろうが、軽減に一役買っているのは確かだった。

 これからの攻撃方針について伝達があり、主な部隊の長が集められている段で、マチスはミネルバに呼び止められた。

 形ばかりながら挨拶を済ませ、損害と異状のない部隊の状況を報告する。

 後はミネルバから経過なり全体の状況に対する感想を聞いて終わりだと思っていたのだが、ここでマチスにとって懐かしい名前を聞くことになった。

 先の元黒騎士団を補佐する魔道部隊を従兄弟のアイルが率いていたのだという。

「こんな最前線に……?」

「捕虜に訊いたところ、周囲の反対を押し切って志願したのだそうです。
 戦場で合間見えましたが、わたくしよりも卿を出すようにと息巻いていました」

 レナと並んだら実の兄以上に兄妹らしく見える、容姿の整った従兄弟ではあるが、決して譲らない点で争えば実際の魔道以上に熱くなる。国、というよりもミシェイルへの忠誠心篤いアイルの事だから、息巻くなどというものではなく罵っていてもおかしくない。

 心の準備などいつでもできているし、永久に割り切れない部分はいつまでたっても存在するが、問題はどういう形に持っていくかだ。

 おおまかな選択肢は三つある。

 以前試しに言ったように好戦的な従兄弟の性格に乗って一騎討ちを仕掛けるか、部隊をもって戦うか、その場に居合わせないか。

 第一の案はまず負ける可能性が高い。マチスが実際の戦闘に苦手意識を持っているのに対して、アイルは魔道士のくせに剣にも長じている。

 第二の案は今のマチス隊の構成では、カインの部隊に大きく頼る事になる。元黒騎士団の部隊を切り抜けなくてはならないのでその前提は当然だが、マチスが槍を振るわないまま決着がつく予測が立つ。

 第三の案は完全に他人任せにするようだが、できないと判断した事に関して無理をしないという姿勢は今までにもしてきている。

 身内に限った話ではないが、戦わずに済むならそれに越した事はない、というのがマチスの考えだ。しかし、避けようとするには条件が整っていない。

 ここはどうしても選ぶしかなさそうだった。

 もっとも、総大将たるマルスが先に決断してしまえばそれに従うしかない。よほど逆行したくなる策を持ってこなければの話だが。

 かくて前線の部将が揃い、再び地上戦が行われた時の行動が各部隊に通達された。

 オレルアン勢を主力にし、マルスやマチスとカイン、傭兵隊が遊撃に回るのは先の戦いと同じ基本路線である。

 だが、ここで敵の魔道部隊を率いているのがマチスの従兄弟だと知らされ、一同の視線がマチスに集まった。

 味方のリンダがたった二発のオーラで数百の部隊を戦闘不能にしてしまうのは行き過ぎにしても、魔道はやはり脅威の対象である。できるだけ楽にご退場願いたいのが人情だろう。

 マチスの口から思わずぼやきが出る。

「ど〜にかしろって目だな……」

「誘い出すのは難しいのか?」

 と、これはザガロ。ハーディンが後方に下がっているため、オレルアン勢を代表して論議に関わる発言をするようになっている。

「今はどうなってるかわからないけど、前と変わらないなら出てくるとは思う。でも、そこから先がおれだけじゃどうにもならない。カインの部隊についてきてもらったら、グルニアの連中が出てくるだろうし」

 彼我の力の差によって快進撃を繰り広げてきた解放軍の戦いはアリティア以前までの話で、こうした正面衝突になれば双方の被害がそれなりに出るのが普通である。

 マチス隊の場合、現況で補充が難しいのも躊躇する要因ではあるが、長たるマチスが特に彼らの代わりがないと思っていた。

 それなら、とマルスが地図を指でなぞる。

「主力が騎馬隊と戦っている間に、遊撃が脇を抜けるように仕掛けて妨害する騎馬隊を食い止めるから、その隙にマチスが魔道隊の方に行って主戦場から引き離す――という手ならどうだろう。こちらの数が多いから、二百なら見過ごされる可能性はかなりある。引き剥がしてくれれば、後の対処は任せるよ」

「任せるって……やっぱり直接戦えって事なんじゃ」

「主戦場に介入させなければ役割は果たせるよ。手勢にカインの隊から少し加えてもいいし、空から補佐をつけられるようにする」

 これがマケドニアの地でなく、相手が見ず知らずの人間であればここまで手の込んだ事をせずに二百の精鋭で魔道隊を蹴散らせばいいだけの話だ。

 だが、この行動ひとつでマケドニアに対するメッセージが加わる。国内全体には及ばなくても、少なくとも有力諸侯の一であるマチスの父親やその周辺には意味を持ってくる。

 いよいよをもってアイルと対峙し、何らかの行動を取らねばならないようだった。





BACK                     NEXT




サイトTOP        INDEX