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「Noise messenger[1]」 1-1:2






 マケドニアは北方でドルーアと隣接しており、その国土も含めて海岸線のおおよそを険しく高い山々が上陸を阻む。

 唯一、海からの玄関口がマケドニアの最南端にある。

 解放軍がグルニアを出た報告が入ると、オーダインはミシェイルから借り受けた鉄騎士団を守りの前衛、魔道部隊をグルニアから流れてきた元黒騎士団の両脇に配置して補佐とした。竜騎士団はこの辺り一帯の視界を塞ぐ広大な林の向こう、ちょうど城の左右に展開する形で置く。

 自らの騎馬騎士団は城から南下した海に近い平原につかせ、上陸妨害に当たるようにしている。だが、これは見せかけだけだった。戦争での相次ぐ敗戦で元々強力とは言えない騎馬騎士団は更に弱体化し、王都からの軍隊に守りの核を委ねたため、自らの団なのに囮役を命じなければならなかった。

 オーダインはどちらかといえば武辺一辺倒の男だった。大将として城で構えているのは性分ではない。起用に不慣れな部隊の存在も難しいと感じていた。

 あと二、三日で解放軍が上陸しようという日、王都からの魔道部隊を率いるアイルがオーダインの元を訪れた。

「将軍、この度は受け入れていただきありがとうございました。ようやく家の汚名を雪(そそ)ぎ、陛下に顔向けできます」

 マケドニアの若い貴族の間では、ミシェイルを特に熱く信望するグループがあり、アイルはその中でも代表格に近い位置にいた。

 それだけに、血族――しかも主家から造反者が出たのを許せずにいたのだろう。

 魔道士ではあるが、その腰にある剣は使い込まれている跡が窺える。以前からの修錬で剣と魔道を両立させているというが、そんな魔道士は千人にひとりいるかどうかというくらい両立は難しい。マケドニアの魔道部隊ではアイルだけがその技量を持っていた。

 それでもこの地の守りに就く事を当初は反対されていた。彼の伯父たる魔道部隊の統率者バセック伯爵も反対していたひとりだ。裏切り者を誅殺する機会ができたからといって、アイル自身が乗り出す事ではないというのがその根拠だった。

 バセック伯爵は息子のマチスを討伐すると宣言していたから、この発言は不自然とも取れたが、伯爵家を継ぐと目されているアイルがわざわざ前線で戦う必要はない、というのはオーダインも同意権だった。だが、結局はアイルの強い思いが競り勝ち、オーダインの指揮下で戦いに臨もうとしている。

「儂が改めて言うのも何だが、その力充分に発揮して来られるが良い」

「はい、将軍の分まで戦わせていただきます」

 流麗な動作、というのだろう。様になる仕草で敬礼し、アイルは立ち去っていった。

「儂の分まで、か……」

 アイルの従兄弟マチスは騎馬騎士団に所属していた事がある。その時にマケドニアを裏切ったものだから、監督責任だの何だのとうるさく言われたが、低層出身者が多い団の質のせいかそうした問題が起こっても致命的な処罰は下らなかった。よって、マチスに対する恨みの色は薄い。

 逆に、あの凡庸とさえ見える青年が強大な力を持つミシェイルを裏切り、反ドルーアの一員として舞い戻ってきた事が驚きだった。

 ただし、ミネルバを筆頭とする反ミシェイルの勢力は小さい。

 オーダインが今憂うべきは、黒騎士カミユが率いたグルニア黒騎士団すら破った解放軍をこの軍勢で食い止められるかどうか――その一点だった。





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