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「Preparedness」 2-1




(2)


 マチスはマケドニアを攻めるときの事に関して思い悩まされても、父親や血族と戦うことについては、これまであまり考えていなかった。

 避けるというのではなく、特に父親に関しては元々遠い存在だったから強い何かを引き出さないのだろう。血脈の力を信じないのは、彼らとの繋がりが稀薄だったことも少なからず影響している。

 対して、レナは家と強いつながりを持っている。祖先由来の杖を受け継いだほどに。だから、血筋の者が死の淵にあっても助ける気が起こらないと言ったマチスを(多少の誤解を含むとはいえ)許せないのだろう。

 大抵の場合、親に子は似るらしい。しかし、その片鱗すらなく、その上会うことも少なくなれば、縁遠いと思うばかりだった。

 ならば、これから会う祖父は尚更そう感じるはずだったが、伯爵家の当主だったのをとっとと引退してよその国に移住し、貴族にも僧侶にも見えない農夫のような風貌で充実した日々を過ごしているとなれば、感傷もへったくれもない。規格外の一言で片付けたくなる。

 そんな祖父が滞在する建物の前に着くと、マチスをみつけたグルニア人らしき中年の男が駆け寄ってきた。

「すみません、ミネルバ王女様の使いの方であれば、お引取り願いたいのですが……」

「いや、おれはそういうわけじゃ……」

 と、そこまで言ってマチスは自分の恰好に気づいた。平服とはあまりにもかけ離れている部将のいでたちでは、そう思われるのは当たり前だった。心の片隅では似合わないと呟き続けていても、実際に着ていれば人の目からはそれ以外の何物でもない。

 着替えずに来たのは失敗だったかと思いつつ、マチスは男性に祖父への訪いを告げた。

 孫だと自己紹介すると、男性は驚いた顔を向けた。

「とすると、レナ様の……」

「似てないけど、兄妹なんだよ。そういう顔をする気持ちはよくわかるけどさ」

 答えながら苦笑するのも、何度となく繰り返されてきた事だった。もはや慣れの域に入っているものの、一方ではどうだかなと思わないでもない。

「こ、これは失礼しました。すぐにお知らせして参ります」

「急がなくていいよ。多分歓迎しないから」

 マチスの言いように男性は首をかしげつつも、建物の中に消えていった。

 それにしても、ミネルバからの使いと見るや追い払いにかかってきたというのは、穏やかではない。さっきミネルバと話した時の様子からは、そこまでの険悪さは感じなかったが、あれは精一杯の平静を装っていたのか、後から祖父が頑なになったのか。後者だとしたら、面倒に輪をかけて、なおかつとばっちりをくいそうだった。

 少しして男性が戻り、中に入れてくれた。ただし、案内をするその顔は難しいものになっている。

「どうしてかわからないのですが、賊を退治する時に使っている杖を持ち出しておられましたのですよ。そんな物は必要ないはずなのに……」

「別の意味でらしいけどな……」

 同じ孫でも落伍者となると、容赦なく打擲ちょうちゃくの構えを見せていいらしい。

 僧侶のくせに慈悲のかけらも期待できないなど、下手に身内でいるのも損な話である。





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