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「Preparedness」 1-3






 ミネルバの居館を出て、さて厄介な相手にどう対抗したものかと思っていると、正面の視界にアカネイアの騎士が佇んでいるのを捉えた。一分の隙もない様子は、グラでニーナからの伝言を携えていた騎士を思い出させる。

 本人かどうかはともかく、関わるとロクな事にならないだろうと方向転換するや、マチスの歩調を上回る早さで騎士が追ってきた。

 足音を間近に聞くようになって仕方なく振り向いたら、騎士の手が伸びかけていた。

 慌てて体を退けようとしたが、騎士が手を引っ込めたのが先だった。

 騎士が斜に構える。

「気づいていたのなら最初から正対してくれれば良いものを、人の悪い」

 予感した通り、騎士はグラの時に会ったのと同じ人物だった。鉄壁なまでの丁寧な口調が消えていたが、警戒を解くには至らない。

「なんだって、あんたがこんな所に来てるんだよ」

「特に命令は受けていない。思うところがあってぶらついていただけだ」

「それで、たまたまおれを見かけたから追っかけてきたっていうのか?」

 遠慮のかけらもなくマチスは顔をしかめる。ミネルバの前ではあまり表情に出せなかったものだから、その反動もいくらか来ていた。

「たまたまというか、正直なところ、どうすればいいのかと悩んでいる」

 口調と表情からは、ちっとも悩んでなさそうに見える。

 それとも、そういう性格なのか。

「だからっておれじゃなくてもいいだろうが」

「言っておくが、あの伝言はまだ生きている」

「おれとしては、なかった事にしてくれていいんだけど……」

 もう一度間違いを見破ったら反逆許可云々など、意味不明な事を生かしておいてくれても困りものでしかない。

「武勇には自信がないと公言しているそうだが、間違いはないのか?」

「今度の聖騎士披露の試合にも出ないんだから、それでわかるだろ」

「出場しないのか?」

「だから、強さを競うとかそういうのは苦手なんだよ」

「……なるほど」

「それで気は済んだか?」

 マチスが肩をすくめるのに、騎士はまだだ、と即答した。

「もうひとつ用件がある。
 できれば、この戦争が終わるまで主をそっとしておいてほしい。そうしたら、結論は出るだろう」

「そっとするも何も、あの王女にちょっかいかけるつもりなんかないから」

「聞いてくれればそれで充分だ。元々、わたしの願望でしかないしな」

 ますます意味不明である。

 関わるとロクな事がないというよりも、人の事を考慮しないと言うべきか。

「だいたい、前の事と言い、どうしておれなんだよ」

「…………。知ってはいるが、答えられん。ただ、あまり具合は良くないとだけ言っておこう。見かけは問題ないがな」

 知りたい事は濁されたが、代替の答えが大きすぎてそれどころではなかった。

「そんな事、おれに言っていいのかよ」

「信じたところで、我々がもみ消す。それで、誰も信じなくなる」

 簡潔だが、それだけに嫌な返答だった。

「…………もう、行っていいか?」

「もう用事は済んだから構わん。時間を取らせたな」

 くるりと背中を向けて立ち去る騎士は、その立ち振る舞いに余裕があるように見えた。

 やっぱり、この辺の連中には関わりたくない。それがマチスの正直な気持ちだった。





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