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「Preparedness」 1-2




 目通りの許可が出て応接間に通されると、固い面持ちのミネルバがいた。きたるべきものを著しく感じているのかもしれない。

 ひとまずは別働隊での経過を話し、大きな損害がなかった事を告げると、ミネルバは安堵したような表情を見せた。

「それは何よりでした。マケドニアを目前にして多くの者が失われるのは、耐え難い事ですから。……未だ厳しい情勢ではありますが、解放軍の力を借りてミシェイルを攻めるのは当初よりの約束でしたから、勝機はあるはずです」

 逆に言えば、グルニアが倒れ、帝国の力が弱まってもなおマケドニアから解放軍にくだる勢力が現れていないのだ。わずか五日の経過だから、解放軍が上陸するまで皆無と決め付けるのは早いが、マケドニアでは未だミシェイルの力がほぼ絶対的に及んでいると思っていい。

 対して、解放軍のマケドニア人は千百人程度。竜騎士の数に至っては、ミネルバに最も近く仕えていた直属の三十騎しかいない。

 これを今まで数を増やせなかったツケと見るべきか、当然の流れと汲むかは各々の自由だが、そこを突いても事実が変わるわけではない。

「では、上陸してから、反対勢力を集めていく形になると」

「もちろん、この段階から勢力を集める事を諦めたわけではありません。ですが、それが基調となるでしょう。……妹のわたくしが言うのも何ですが、ミシェイルには王の器があります。即位の方法こそ間違えましたが、マケドニアの力を強める王から仕える者の心を引き離すには、相当に強い力を得る必要があると感じています。だから、どのみち解放軍の力は借りねばならないのです。
 ところで、グルニア城下の様子は見てきましたか?」

「あくまでも私見ですが、さほど荒れてはいませんでした。解放軍が手を施した結果だとは思いますが」

 強国の基礎を作った黒騎士団を打ち倒し、強い力を持つ王族が不在のこの国を、解放軍、というよりも、アカネイアは徹底的に自国の色で染めようとするだろう。グラの時はもう少しアリティアが関わろうとしていたが、その時とよく似ている。

 ならば、マケドニアはどうなるのか。同盟軍立ち上げの段階から反ドルーアのマケドニア人がおり、何よりも王族のミネルバとマリアがいる。グルニアとグラほどにはならないだろうと見込んでいるが、アカネイアの介入は避けられない。それは戦争以前のマケドニアへ戻そうとする動きになる。

 予想していた通りの流れでマケドニアを攻めることになりそうだったが、他の方策を得ようにもミシェイルから離反する勢力あっての事だし、少なくとも緒戦の段階で解放軍に攻めの大部分を委ねざるを得ない。どうにかして回避したかったのがマチスの本音だが、そううまくはいかないものである。

 自分が属しているにもかかわらず解放軍へ不信感を持つのは、参加する各国の王族が首脳となっているせいである。初代の王が入っているならまだいい。だが、解放軍の王族はいずれも、初代の王からの血の繋がりを根拠にして期待されている存在だ。

 だから、偉大な僧侶を祖先に持ち、父親が高位の魔道と法力を修める国を代表するともされる司祭なのに、そのいずれも発現しなかったマチスは、肝心な所で解放軍を信用できずにいた。

「ところで、卿は今の立場を窮屈に思っていませんか」

「……え?」

 不意に本当の事を言い当てられ、マチスは呆然と呟き返すしかなかった。

「指摘されてしまったのですよ。以前は大きな貢献をする機会もあったのに、今ではそんな影すら見られなくなってしまって、それはおそらく私が解放軍に降って、卿に忠誠を求めてからそうなってしまったのだと」

 そんな評価は初耳である。

 言われた本人としてはミネルバがいなかったとしても、その都度取る行動にはあまり差異がないように思えた。基本路線としては、できるだけ戦いを避けようとしているのだから。

 だが、そんな事を堂々とミネルバに言い放ったという人物も、思い切った事をしたというか、もう少しこじれない言い方にして欲しかった気がする。

「思えば、ディールで会った時の卿は私に対して遠慮がなかったですし、マリアに対しては今も同じように接していると聞いています」

 マリアに関しては本人の希望でそうなったに過ぎない、そう反論しようとしたが責任を全てマリアに押し付けるような気がして、結局はやめた。

 このことで頭を下げるのは嫌だったが、形だけでも丸く収めるしかないと謝罪の言葉を口にしようとした時、ミネルバがマチスを止めた。

「いいのです。マリアがそう望んだのでしょう? 
 卿と話した事を語る時のあの子は、周囲の人々に笑顔を振りまく時とは違って本当に楽しそうな顔をしていました。その頃から、マリアは気づいていたのでしょうね……」

 ため息をつくように話すミネルバには、疲労の色が出ていた。考える事が多すぎる上に、こんな問題に振り回される苦がそうさせているのだろう。

 もう本題は済んでいるし、今の話の内容もそう重要ではなさそうだったから、マチスはこの会見を終わらせようと試みた。

「ミネルバ様、今日のところはもう……」

「いいえ、最後まで話をさせてください。せっかくマルス王子からいただいた助言を無駄にできません」

「助言って……じゃあ、この事を言い出したのはアリティア王子だと」

 ええ、とミネルバが首肯するのに、マチスは妙な虚脱感に陥っていた。できることなら肩を落としてしまいたい。かなり前の過剰評価を引きずるにも程があるというものだ。

 要らない入れ知恵をしやがってと胸中で呟きながら、ミネルバに言い聞かせる。

「申し訳ありませんが、アリティアの人達の言う事は――わたしに関してですが、五割引いて受け取ってください」

「しかし、私とて卿の力が欲しいのです。解放軍のマケドニア勢はミシェイルに対してあまりにも少なく、力量の差もついています。少しでもこの差を埋めて、真の再興を諦めないためならば、多少の事には目をつぶります。どうか、本当の意味で力を貸してください」

「本当の意味って言われても……」

 オレルアンやワーレンの時が異常だったのであって、それ以降の目立った戦功をろくに上げないのが本来の姿だとマチスは思っている。

 それに、もうひとつ引っかかるのが目をつぶるという言い回しである。認めるわけではない、ということだ。

 そこまで思い至り、ちょうどいい言い訳を思いついたところで、マチスは再度口を開いた。

「とりあえず、わたしが以前のように振る舞ったら七百余りの隊を率いることはできなくなります。わが隊の中には、ミネルバ様を直接見上げるから留まり続ける者も多数居りますので」

「……そうですね、卿の率いる人々の事も考えねばなりませんでした」

 納得するミネルバの様子を見て、これでようやく終わりそうだとマチスは安堵しそうになったが、マケドニア王女の新たな科白によって覆されることになった。

「今夜にでも先々代のバセック伯――卿の祖父殿に会いに行くのですが、卿も来てもらえませんか?」

 今の今まで考えずにいた存在を思い出させられ、マチスは絶望的な気分に襲われていた。

「あの、どうしてミネルバ様が……?」

「シスター・レナを訪ねてこの王都に来ていると聞いて、マケドニア奪還のために協力していただこうと先日訪ねさせてもらったのです。今は政治的な関わりは持ちたくないと断られてしまったのですが、どうしても諦めきれなくて、今夜にでもと」

 どうしてこうも次から次へと問題が浮上するのかと呪わしく思いながらも、マチスは時間がないなりに考えを巡らせた。

 正直に言えば祖父とは会わずに済ませたい。しかし、父親を敵に回すのだから、それに関する考えを聞きたいところではある。ただし、ミネルバと一緒に行けばあまり発言はできない。ここは一対一で会っておくべきだった。

「まずは、陽のあるうちにわたしが訪ねて、祖父と話をしてみます。他にも思うところがあるかもしれないですから」

「わかりました。無理にとは言いませんが、できれば私達に心を傾けていただけるよう努力してみてください」

 難題を苦もなく言われ、どういう顔をすればいいのかわからなくなったマチスだったが、やるだけはやってみますというような事を言って、なんとかミネルバに辞去の挨拶をすることができた。





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