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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(12)「Preparedness」
(2007年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
12
SIDESTORY
605.06-07
[GRUNIA]




(0)


 ホースメンの離脱に合わせて馬を駆るマチスは、軽い倦みのようなものを感じていた。

 グルニアを攻める本隊が海路を行くのに対し、別働隊はラーマンから狭い西の陸路を抜け、南北に離れたふたつの橋をどちらも渡らず、必要があればすぐに呼応できるように場を整えておけ、というのが今回の目標だった。

 大部隊では行軍が困難なため別働隊こちらにこの役目が回されたのだろうが、強力な戦力を軒並み持って行っておいて、難所を攻めろとは随分な話だった。

 この陸路を守る、グルニアの領主勢をはじめとした軍勢は粘り強い。自分の土地を奪われまいと必死になっているのだから当然ではあった。

 近い将来、マケドニアの地方領主もこうして抵抗してくるのだろうと思うと、マチスとしては余計にやりづらい。唯一の幸いは、黒騎士団の戦力がほとんど来ていないことだった。

 マチス隊は別働隊唯一の騎馬部隊であり、ホースメンを多く擁しているため、敵陣の先頭に矢を射掛けては戻り、機会があればまた引き返すということを連日繰り返している。おそらく、移動距離は最も長い。

 前線を張る傭兵隊の横を通り過ぎ、ある程度のところでまた態勢を整えようとしているところに伝令がやってきた。

 別働隊司令官から下された命令は、次の攻撃で大きく攻めるから、マチス隊は二番手として先鋒と共に先頭を務めよ、というものだった。

 意味をとらえかねる言葉に、マチスは眉間を寄せる。

「何つーか、ややこしい命令だなぁ……」

「申し訳ないが、司令官から詳細を告げるなと命じられている。そう問題はないはずだから、心配する必要はない」

 マチスの困惑に対して伝令はすげなく返答し、戻っていった。

 アカネイア歩兵とタリス勢、傭兵を中心とする別働隊の司令官は、アカネイアの重騎士トムスだった。そこそこの家柄で、アカネイア歩兵から支持されており、将軍にと望む声もあるが、家柄の割にいささか若すぎるということで叶えられていない。今回別働隊に当てられたのも、出世を遅らせようとする貴族の思惑が働いているのではないかと言われている。

 この話は別段意識して仕入れたのではなく、こちらに居るうちに自然と耳に入ってしまったものだった。アカネイア兵からよほど同情されているらしい。

 再出動の準備を終えて西へ向かって整列していると、騎乗した伝令が頭巾を深く被った外套姿の人間を伴って、マチスを訪ねてきた。

「司令官からの伝達は聞いていますか?」

「まあ、一応は……よくわからない話だったけど」

「あとは、わたしから話をさせてもらえますか」

 外套の人物が伝令を見る。その声音は戦場にあって非常に高い――というより、女性そのものだった。

 まさかと思って注視してしまうマチスを、外套の人物は振り返って頭巾を引き上げた。

「お久しぶりです、ご助勢に参りました」

 結い上げているはずの髪は隠れているが、マチスにとってこの顔は忘れようがない。奇妙な縁で殺されかけ、その結果、魔道の暴走がないようにと見届け役を頼まれているリンダだった。

 とはいえ、パレスで頼まれてからは立場の違いによって、見届けるどころか顔を見るのですら席次の違う軍議の場しかないため、見届け役など名ばかりの状態になっている。気にかけないことはないのだが、力になれずにいるのだから役に立てていないのは明らかだった。

 それどころか助けられようとしているわけだが、これは戦いの流れでそうなっただけだから、マチスはあまり気にしないことにした。

 それとは別に、リンダが来たのに意外の感がある。聞いた話によれば、リンダは本隊にも加わらずウェンデルと共にラーマンに残って、スターライトの魔道を行使するための修行を進めていたはずである。

「今回は前に出てこないって聞いていたけど」

「膠着状態が続いていると聞いて、それではお力添えしなければと思って司祭様のお許しをもらったのです。そうしたら、こちらの部隊と一緒に行って先鋒を務めるよう指示されました。それと、これを被っているように、とも」

 リンダが示す頭巾は正体を隠す役割に他ならない。高位魔道の破壊力はひとつの部隊に匹敵するから、直前まで存在を隠しておいて敵を攻撃すれば相手方への動揺も狙える。

「じゃあ、おれらは魔道の後ですぐに追撃しろってことか」

「はい。よろしくお願いします」

 こちらこそ、と返してマチスは隊を前進させた。

 そのさなかに最前列へリンダと彼女専属の伝令を送って、騎馬騎士隊が彼女達の守りにつく形を取る。騎乗したまま魔道を放つのは基本になる火の魔道でも困難で、光や電撃の魔道を使うことを求められているリンダは、魔道を放つ際に下馬しなければならない。魔道を行使させるための、というよりも魔道を行使した後で無事離脱させるために騎馬騎士隊を配置したのだった。

 先ほど東へ通り過ぎた傭兵隊を再度西へ追い越して、グルニア軍との中間点を過ぎると先頭が左右に割れて、中央に残ったリンダを中心に半円を描く。

 敵勢が弓矢をもってして迎撃するところへ、リンダが電撃の魔道を放ち、その後を数百のホースメン隊が攻め立てる。

 この間に騎馬騎士隊がリンダを逃がし、ある程度離れたところで最前線に引き返す。ホースメン隊が攻撃した後で敵勢を攻めるのは彼らの役目だった。

 敵に距離を詰められてきたホースメン隊が、限界を察知して離脱する。その後を引き継いで騎馬騎士隊が現れた。

 ホースメン隊と比較して数が少なく、解放軍を代表する騎士ほどの実力を持たない彼らが攻められる時間はそう長くない。後続の傭兵隊が到着するまで稼ぐのが筋だろうが、できないものはできないと見切りをつけなければ生き残れないのだ。

 ややあって騎馬騎士隊が引き返してくるのを見て、中頃に残っていたマチスは全体に退却の指示を出すと、馬首を返した。

 オレルアンから今に至るまで一貫してマチス隊の主力騎馬はホースメンである。一時期は騎馬大隊の名を冠していたが、それは長たるマチスが騎馬騎士であったからに過ぎない。しかも、腕が立たない方だと自称してしまっている。

 いびつな実情ではあるが、どうせ捕虜から引き上げられて戦っている身である。強くなんかなくていい、手柄など上げなくていい、最終的にマケドニアに生きて帰れればいい。アリティア軍に引き入れられ、同盟軍が解放軍へと呼称を変えていく中でも、その考えは変わらなかった。

 強い力に対して無力である事は、決して悪い事ではない。秀でるものがないと自覚するからこそ、そこから見えるものがあるはずだと思っていた。

 だが、アリティアに入ってからこっち、敵の武力を見せつけられる機会が増え、それに伴って損害も増えている。特に、隊の主体であるはずの騎馬で脆さがはっきりと見えているのが、不安を煽ってしまう。

 このままでは、強いと評判のある解放軍に属していても生きて帰ることすらおぼつかない。

 ただ、これを打破するには戦力の増強しか手がないのかといえば、これはどうも首を傾げてしまう。

 せめて、ミネルバなり解放軍なり、上を信じられれば違うのかもしれないが、どうしてもそれはできなかった。彼らの路線を信奉すれば、マチスは弱者を否定する典型的な貴族そのものに成り下がってしまう。

 どうしたものだかな。

 こんな呟きが、最近とみに多くなってきていた。





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