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「Preparedness」 0-2






 リンダが手助けに入って何度か出撃した成果が表れ、解放軍別働隊の最前線は南を向き、山脈の出口を抜けていた。

 広い平地に出られたため、それ以前に比べれば軍勢を並べる苦労はほとんどない。これでようやく、グルニアの西を攻めて本隊の援護ができそうだった。その本隊は北東にあるグルニア最大の港を再度占拠して、拠点にしているという。

 ここでリンダがラーマンに戻ることになり、マチスの所にも姿を見せた。

「短い間でしたが、お世話になりました」

「思いっきり助けられたけどな。でも、帰るって言って、よく引き止められなかったね」

「いえ、本当は残って欲しいと言われてしまったんです。でも、まだ魔道を制しているとは言えないので、司祭様から早いうちに戻るようにと言われているのを話したら納得してくださいました」

 リンダの言葉に複雑なものを感じて、マチスは思わずそれを繰り返した。

「制してない、ねぇ……」

 この行路を開く際に、リンダは全ての機会で電撃の魔道を行使した。押し通した、とも言える。

 使い手を選ぶ光の魔道に比べれば若干格は下がるが、電撃の魔道とて上級に分類されている。それを惜しげもなく使っておいて魔道を使いこなせていないと言われても、これほど説得力のない話もない。

「で、まだ修行を続けるのか?」

「そうですね、星のオーブの力を借りて限界へ近づく修行をしていたので、その続きになると思います」

「……それ、もしかしてラーマンにあったってやつ?」

 問いかけながらも、マチスの頭の中ではある宝珠が思い浮かんでいた。かなり前にラーマンで触れ、魔道の才がない事を突きつけてくれた決め手のひとつ。霊験あらたかな、と触れ込みのあった宝珠である。星空を封じ込めたような珠だったという記憶と、星のオーブという名前は雰囲気が合致していた。

 マチスの口調に感じるものがあったのか、リンダは様子を伺ってきた。

「何か、いけない事でもありましたか?」

「いけないってわけじゃないけど、どうなんだろうと思ってな」

 そうして、少年時代にラーマンを訪れた時の事に話が及んだ。

 マチスが魔道の修行をしていた時に、実家がラーマン寺院へ高額な布施をして宝珠に触れさせたのにもかかわらず、魔道の才は現れなかったのだと話すと、これを聴いていたリンダは、少し考える様子を見せた後に、口を開いた。

「多分、それは星のオーブで間違いありません。でも、星のオーブが何の効果ももたらさないというと……そんな事はないと思います」

「というと?」

「わたしは誰もいない所でオーラの魔道を使って、制御を覚えていますけど、オーブの力が魔道書の消耗を避けてくれていますし、オーブを巡っている十二のサインはあまねく者への祝福を意味しているはずですから」

 流して聞いていると星のオーブというのは嫌な兵器なんじゃないかと思わせるが、それを除いてもなお雲行きは怪しい。

 星のオーブが全ての者に対して祝福するはずなのに、現に祝福されなかった実績が何を意味するか。あまり考えたくない事ではある。

「なんか、こっそりとショックな事を宣言された気がするんだけど……」

 マチスが弱気にもらすと、リンダは半ばむきになって言い返してきた。

「そんなことありません、全ての人に宮は当てはまるんですから。広い星の配置が数十年に一度の重なりで起こる例外はないこともないですけど、星のオーブが宮を示している以上、何の力ももたらさないことは考えられません」

「じゃあ、おれの時は偽物を触らされたのかねぇ」

 そう思いたい気持ちが半分は込められてのこの科白だったが、リンダは真剣に頷いたものだった。

「そうですよ。そうでなければ、おかしいですもの。
 ……あの、失礼なのは承知していますけど、特別な日のお生まれとか、そういう事はありませんよね?」

 一応伯爵家という偉そうな家の出なので、その手の事は幼い時に調べられている。マチスが生まれた年の五月の初めは、何ら特異性のない日だった。

「ま、そ〜いうのが関わってりゃ、まだそっちの可能性もあるかもしれないけど、何もないんだからやっぱり偽物だったんだよ」

「そうですね。あのオーブは本当に深遠な力を持っていますもの。ガトー様にお渡しするまでの間とはいえ、使わせてもらうのが申し訳ないくらいですから」

 そこまでへりくだらなくてもいいだろうにとマチスは思ったが、一度うつむいた顔がなかなか上がらないところを見ると、どうやら深い所で悩んでいるようだった。

「もし力及ばずに、スターライトの使い手に選ばれなくても、それは仕方がないと思っているんです。復讐のために魔道の高みへ昇ろうとするのは間違っていると……星のオーブを見ていると、そう感じるのです」

 言い終えたリンダは、険しささえ感じさせる面持ちになっていた。ついさっきまでとは様子が全く違う。正当な目的を持つのと引き換えに、壮絶な道を歩んでいるせいなのか。

 と、長く話し込んでしまったのに気づいたリンダが慌てて別れを告げて離れるのを見届けながら、マチスは実際に顔を合わせるよりも更に遠い距離感を実感していた。あれだけ深く考えているのであれば、見届ける必要などなさそうに思える。

 それを見ていた周りの部下達は、いかんともしがたいとばかりに首を傾げたり、顔を見合わせたりしていた。

「どうもあれだな、話題に色気がない」

「枯れているって言ってもいいくらいだろ」

「女性と話す機会だけはやたら恵まれているんだがな」

 マチスが解放軍の代表格にあたる女性と接する機会は多く、主君筋のミネルバとマリア、何だかんだと縁のあるシーダ、見届け役を頼まれているリンダ、立場上ペガサス三姉妹とも顔を合わせることもある。残念ながら妹のレナは対象外だが、それでも見回せば豪華な花達である。

 それなのに、マチスの側からそれを喜ぶ態度を見せることはない。

 役得であるはずなのにと問いかけたところ、相手が自分と会うのをそういう意味で喜んでないのだから、こっちも喜べないだけだと返されている。

 第一に、マチスの家系は彼を除いて容姿に恵まれた者ばかりで、レナと従兄弟を並べた方がよほど本当の兄妹に見えるほどであり、第二に、女は男の顔で価値を決めるのがわかっている。以上の点をもって、そういう望みを持つのはやめているのだという。

 それはまたつまらないというか、もったいない人生の送り方だろうにと宗旨替えを勧めてみたが、年の割に妙な方面で悟ってしまっている節のあるマチスはその気を見せない。どうせ、そんな思惑が知れた瞬間に手の平を返されるんだから、最初からやらない方が平和的だというのだった。

 部下のひとりが、ぽつりと呟く。

「それはそれで、不幸だよな……」





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