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「Reinforcement」 4-1





(4)


 事件の四日後、今度は来たるグルニア戦のために登城を続けることになったマチスは奇妙な噂話と、いい知らせを聞いた。

 噂というのは、カード賭博で主催を務めていたアカネイア人の将校が軍からいなくなったことだった。アカネイアに戻ったわけでもなく、忽然と姿を消してしまったらしい。

 いい知らせは、カシムが釈放されたことだった。

 第一層の観客が射殺されたため、これはとても助命できる問題ではないと、関わった者の多くが諦めかけていたが、幸運と言うべきか殺されたのは貴族のではなく、その客人――貴族にとって厄介な商人だった事と、シーダが奮起して貴族を説得したため、難題は予想以上の早期解決を見ることができた。

 だが、この事件は真犯人のコマンドが捕まっていない上に、闘技場での状況もおかしかった。コマンドがあっさりと逃げおおせたのは試合場からいとも簡単に抜け出せた事も起因している。つまり、入場口に逃走を阻む人間がいなかったわけで、変身能力を持つ特殊な人間が関わっている点も含めると、これは仕組まれたものだと思うのが自然な解釈だった。しかも、衆人環視の中行われているから、少しの要素が欠けただけでもカシムの助命すら困難なものになったはずだった。

 ともあれ、成り行きで巻き込まれた縁もあって、タリス人の宿舎を訪ねて釈放を祝いに行ったところ、祝杯の輪に入れてもらえた。

 その席で、シーダがいじけていた真相を聞くことができた。

 マケドニアの天空騎士が解放軍に入ったことで、解放軍の中で存在感が小さくなっていたのに加え、アリティア奪回によってマルスが多忙を極め、全く顧みられなくなっていたのが原因だったという。

「そんな理由でずっと臥せってたって?」

「いや、これが大変だったらしい。ニーナ王女まで励ましに来たのに断っちまって、アリティアのお偉方まで謝っていたから。その後で、あのチェイニーって奴がシーダ様を元気づけたんだと」

 話相手はこの前街中で話し込んだマジだった。

「それでも、前ほど明るくはならなかったけど、カシムの事でシーダ様が色々と動いて、そんなに乗り気じゃなかったお貴族さんを熱心に説得というか……多分、あれは口説いたんだろうけど、まあ納得させることに成功して、釈放してもらえるように働きかけてもらったんだと。お貴族さんはシーダ様に惚れこんじまうし、それを聞いたマルス様が褒めて、放っておいたのを謝ってもらったらしいし、いい事が結構返ってきたわけだ」

 これで真犯人のコマンドと手引きしていた興行師が捕まれば完璧だが、事はそううまくはいかない。コマンドの顔もほとんどわかっていないし、興行師は驚くほど鮮やかに所属の剣闘士ともども姿を消してしまっていた。

「……それで、ものは相談なんだが、カシムを預かってくれないか」

「おれのところで?」

 ああ、とマジは頷く。

「腕はいいから、タリスの軍隊よりも大きいところで使ってもらって、母親の薬を稼ぐのに励んでもらいたいんだ。けど、他の国の部隊だと猟師の出っていうので低く見られるし、今回の件でまた難しい事になっちまった。その点、あんたの所はホースメンでも猟師出身が多いし、他の所よりも理解はあると思う。まだ馬に乗ってどうこうってのはできないが、腕の良さは保証する」

 マチス隊に好んで入ろうという人間は少ない。ひとりでも、入隊希望者を拒む理由はない。

「おれは構わないけど……カシムはそれでいいのか? あまり稼げないと思うけど」

「贅沢は言わないだろうよ。今回のことで懲りたみたいだからな」

 カシムは闘技場に出て名前を売るほど勝ったものの、注目されてからは強い相手をぶつけられて高い挑戦料を失うのも早かったという。

「ところで、闘技場に行ってミネルバ王女から何も言われずに済んだのか?」

「王女っていうか、白騎士団の連中から文句がついたよ。逆を張ったから賭けじゃないっていうのは詭弁なんだと」

 パオラはミネルバの部下であるというだけでなく、レナと親交を持っているせいか、三人分の小言を器用に繰り広げた。そのおかげで、あの高さの声を聞くと耳元に蘇ってしまう。

「美人の指揮官が多くて羨ましいと思うんだが、そうでもないのか」

「そうでもないな。あっちはあっちで、色男の話に夢中になるから」

「なるほど」





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