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「Reinforcement」 3-1





(3)


 アリティア奪回戦から二十日ほど経ち、日に日に高まるグルニア進攻の気配が城内の様子さえも変えているかのように見えた。

 カシミアには既にかの黒騎士団が入り、ともすれば黒騎士カミユが直々に解放軍を迎え撃つのでは、という噂が聞こえ始めている。

 解放軍はその強さもさることながら、戦と戦の合間が短い。だからこそ、わずか一年という短期間で五カ国も帝国の支配下から奪い返せているのだが、ついてくる側は必死になって準備を整える必要があった。

 そういう事情で、登城してもマチスはまた空振りの日々を過ごす羽目になっている。部隊は演習に出ているし、規模が小さいのと部下の取りまとめがきちんとしているおかげで、マチスが準備に奔走することがなかった。同盟軍ができる頃から居ついているせいで慣れているというのもある。

 のんびりとぶらついている理由を通りかかった顔馴染みの連中にそう話すと、一様に悔しがられた。彼らが頭を痛めるネタは山ほどあるらしい。

 この間のカード賭博で知り合ったアリティア人将校は、

「そんなに暇だったら闘技場に行って俺の分まで稼いでほしいもんだ」

などとのたまった。

「稼ぐっていったって、やるなって言われてるし、おれが賭け事弱いのを知ってるだろ」

「だから、その逆に十倍張れば確実に儲けられる。……と、それは冗談として、最近は本当に稼ぎに行ってるのがいるみたいだな。腕自慢の部下に挑戦させている奴もいるらしい」

 闘技場は、元々は興行師が抱える剣闘士や猛獣が観客のための見世物を提供する場所だったが、このごろは各地から集まってきた傭兵や兵士が観客と挑戦者になり、剣闘士が駆逐されかねない勢いなのだという。

 そこで、興行師は傭兵などを一時的に雇い入れることでかろうじて体制を維持している。戦闘の水準が上がる作用もあって、ますます盛況に磨きがかかっていた。

 金や人員といった点での悩みはマチス隊も例外ではない。どうにかできるものなら動きたかった。ただ、賭け事は今や禁止事項であるし、隠れてやっても本当に『死神』になろうものなら、またまずい評判になる。やっぱりやめておくしかなさそうだった。

「そういえば、あれからまた集まって賭けたりしたのか?」

「いや、あの日からはないな。オレルアンの御仁は誰がイカサマをしたのか随分と気にかけていたが……。まあ、ストレートフラッシュ二連発はさすがにやりすぎだったろうから、当分はああいう真似はできないだろう」

 つまりは、突き止めるのは無理というわけだ。

 マチスとてもう気にしていない。なんとなく訊いてみただけだった。

 それにしても、とアリティア人将校が切り出す。

「先祖に偉いお人がいると厄介だな。これにかこつけて、清貧の生活に追い込まれないように気をつけろよ」

「ないって言い切れないのが嫌だな、それ」

「だから、気をつけろってことさ」

「それもそうだな」





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