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「Reinforcement」 2-3 |
「ええ、滅多にやらない事ですが、というよりも、知っているはずですよ。懲罰の一種で魔道士が一時的に魔道を封じられるのとほとんど同じ事ですから」 何も悪い事をしていないのに懲罰と同じ事をされるのは、あまり気持ちのいいものではない。別に率先して封印するほどの理由もなかったから、マチスは答えあぐねていた。 「ちょっと、考えさせてほしいかな。すぐには決められない」 「それもそうですが、他の事で忙しくて考え事もあまりできないのでは?」 「まあ、確かに」 今現在の「仕事」や、部隊の事もある。それでなくてもできない事が多いのに、更に問題を増やしても片付かないだけだろう。 「だったら、儀式に使う魔法陣を見てみませんか。案外、それで決まるかもしれませんよ」 さてどうするかと思ったが、見てみてその気になれば良し、そうでなければやらないと決めるだけの話だ。それで思い切れるのならいいだろう。ウェンデルの提案に乗って、マチスは席を立つことにした。 部屋を出ると続きの間で待っていた従者と魔道士が後ろについて、ふたりは建物の中を歩き始めた。 作りかけの魔法陣を横目に、階段を上がっていく。さらに廊下を歩き、今度は階段を下りて通路をまっすぐいったところでウェンデルが扉の開いた部屋を指し示す。中を覗くと、八つ置かれた燭台に囲まれた魔法陣があった。 魔道士が説明に立つ。 「別段、封印のためだけではないのですが、ここは 「ていうと、最近?」 「ええ。電撃の精霊と契約しようとして……その」 言いづらそうにしている魔道士の後をウェンデルが引き継ぐ。 「失敗してしまったのですよ。雷の精霊と性質が似ていますが、アリティアはこの類の精霊と微妙に相性が悪いようですね。こちらも入念に準備しましたが」 「だったら、封印もかなり手間がかかる?」 「個人差ですね。そう時間はかからないと思いますが……少し、外していましょうか」 「いや、別に――」 「年寄りの足腰に対する遠慮は要りませんよ。歩ける口実のある時に歩いておかないと、体が使い物にならなくなりますから」 そう言ってウェンデルが連れていた魔道士ともども引き返してしまうと、残されたマチスは従者を廊下で待たせて魔法陣の近くに立った。 正直なところ、魔道の可能性を封印しようとしまいとマチス自身の能力には何の変化ももたらさないと思っている。ただし、封印しておけば、あるかないかの能力をアテにされる事はなくなる。 ウェンデルが封印を持ちかけた真意は定かではない。だが、万が一にでも魔道を使えるようになったとしたら、どうなるか。 今まで考えたことのない想定だけに、予想はつかない。けれど、アリティアの戦いで竜騎士とやりあっていた時点で、もし魔道を使えていたら、部隊の危機を打破しようと手を出していたかもしれない。 マチスは自分自身が武勇に秀でていないと自覚しているから、周囲の人間にかなりの方面を頼ってきた。下手に出張らなかったからこそ、ここまで生き延びることができたと思っている。 マケドニアまで解放軍が攻め込んだとして、全てが終わるまで少しでも部隊の皆が生き残るためには、今までと同じ姿勢で本当にいいのだろうか――。 いつの間にか魔法陣の側に座り込んでいたマチスの耳に、従者の狼狽する声が聞こえてきた。 その言葉から、あまり関わりたくない空気をマチスが予感したのと同時に、開け放たれたままの入り口にスカート姿の少女が現れた。 何やら分厚い本を抱え持ってはいるが、一見無邪気そうに見えるその顔と、特徴的な真紅の髪は、どう見間違いを願っても間違いようがない。 「こんにちは、珍しい所にいるのね」 「どうして、こんな所に王女が来てるんだよ……」 賭博の集まりではタリス王女、魔道士の宿舎ではマケドニア王女。会おうと思っていないにもかかわらず、こうも出くわすのは何なのか。 「さっき奥の方へ行くのを見つけてついてきたの。邪魔しないようにって司祭様から言われてたんだけど、待ってるのも飽きちゃって」 「別に、おれに用事があるわけでもないだろうに」 「まあ、それもそうね」 あっさりと言ってくれるものである。 じゃあ早いとこ戻ってくれと言おうとしたが、マリアが大事そうに持っている本が目についた。 「その本は?」 「ファイアーの魔道書よ。リンダから借りたの」 そう言って見せられたのは、確かにファイアーの魔道書だった。 しかし、マリアが持つと似合わないというか、別の書物にさえ見えてくる。 「なんでまた、魔道書なんか……」 「どんな事が書いてあるのか知りたくて、借りてきたの。本当は教えてもらいたかったんだけど、忙しくてダメなんですって」 それはそうだろうとマチスは心の中で頷く。リンダは修行の最中だし、他の連中もそう暇ではないはずだ。 「だいたい、魔道書の中身なんか読んだってわかるもんじゃないしなぁ」 「そうなの?」 「魔道士になれなかったおれが言うのも何だけど、一人前の奴でもわかってる人間はあんまりいないと思う」 魔道書には媒体として必要な事柄が書かれているが、その中身を完全に理解しているのは版元を書く高位の司祭くらいで行使する魔道士本人はそこまでの理解力を必要としない。ただし、契約とそれに見合った魔道書さえあれば、砂漠の地での氷の魔法や、厳寒の地での炎の魔道が威力を損なわずに発動できる。厳密には契約時の精霊の個体差によって変わってくるらしいが、魔力が同じ場合はほとんど変わらないから影響はほとんどないと言っていい。 そんな事を噛み砕いて説明すると、マリアはひとしきり感心した後で嬉しそうに拍手した。 「マチスさんがこんなに知っていると思わなかったわ。修行をやめちゃったって聞いていたから」 「魔道の仕組みは嫌いじゃないからなぁ。決定的に向いてなかっただけで。でも、これ以上喋れることはないな。知ってるのはそれくらいまでだから」 「そうなの? 残念ね」 「どう考えても、おれが物を教えるってのは柄じゃないから。それに、今から王女が魔道の修行をする、わけでもないだろうし……?」 言いながら嫌な予感がして、最後の方はまじまじとマリアを見つめていた。 わずかに視線がかちあったものの、マリアが強く首を振った。 「そういうことじゃないの。ただ、本当に書いてあることに興味があっただけ。だから、心配しないで」 「ま、そりゃそうだよな……」 解放軍にいる強力な魔道の使い手がただでさえ若いのに、更に若年のマリアが司祭に昇るための修練を始めようものなら、大陸中の司祭の立つ瀬がない。 「で、マチスさんはどうしてここにいるの?」 「司祭と茶飲み話をしてたら、魔道の可能性を封印した方がいいんじゃないかって話になって。どっちでもいいような気もするんだけど、考えてる最中に王女が来たから」 「使えないのに封印しちゃうの?」 「ない可能性が強いものをアテにしても仕方ないだろうし」 「それもそうだけど……でも、誰かには相談した方がいいんじゃないかしら。そうやって考えているってことは、絶対に封じなきゃいけないと思っていないってことだし」 「確かに、そうだなぁ……」 何だか、さっきから納得してばかりいる感もあるが、マリアの言うことは間違っていない。事が自分だけに収まらないのなら、周囲の意見を聞いた方が良さそうだった。 そうと決まれば不必要に長居することもない。あとはウェンデルに会って帰るだけだった。 マリアがぴょんと立ち上がる。 「帰るのなら、わたしも行くわ」 「魔道書、返さなくていいのか?」 「しばらく持っていていいって言われたから、帰ってからちゃんと見てみるの」 「それならそれでいいけど……」 そこまで口にしたはいいが、先を続けるのはためらわれた。 この状況は、そういう雰囲気が漂っている。漂いすぎているくらいだ。 押し黙っていると、マリアがくるりと見上げてきた。 「どうしたの?」 「やっぱり、おれが送っていかないとだめか」 「んー。うん、たまには送ってほしいわ。それに、今のお城は恐いから」 「恐い?」 「そう、何か居づらくて。シーダ王女が具合悪くしちゃってるくらいだし」 これは初耳だった。 それに、あの賭博をやったのは一昨日だから、それから二日でどうにかなってしまうとは急な話だ。 「それ、今日になってからか?」 「ううん、もっと前よ。十日くらい前からだったと思うけど」 明らかに日数が合わない。 更に言えば、わずか数日とはいえ、マチスはまともに社交の場にいたわけだから、そういう事は耳に入るはずである。 「そんな前からずっと寝込んでるのか?」 「そういうわけじゃないけど、外には出なくなっちゃったみたい。お茶会にも出てこないし」 にわかには信じられなかった。賭けをやっている時のシーダは生き生きとしていたし、とても病人には見えなかったのだ。 ということは、シーダは仮病を使って普段は部屋に そういう意味では、病んでいるという言い方は正しくその通りだった。 |