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「Reinforcement」 2-2







 マチス隊は近いうちに郊外へと演習に出る。このごろはアリティア兵を補佐する警備や町の復興を手助けするために人を出していたが、ようやく本格的な訓練をすることができるようになった。

 ただし、ミネルバの命令を優先してマチスは同行しない。本当はついていくべきだし、希望する気持ちは強かったのだが、先の戦いでホースメン隊を中心に失われた戦力を少しでも補うためには、どうしても王都に残る必要があった。アリティア戦で騎馬部隊の最後方にいたために、今回の報奨もさほど多くない。すぐに資金を追加して用立てるには至らないだろうが、人との繋がりはいつどうなるかわからない。だったら、今はできる事の最善を採るしかなかった。

 それでも、演習に関する取り決めの会議には顔を出して、午後になってからマチスは城へと向かった。人が増えるのは昼を過ぎてからである。

 宿舎を出て、城下からなだらかな登りの坂を歩く途中で城門にさしかかった。

 マチスの場合は顔を知られているから、衛兵が簡単に確認するだけで通ることができる。従者も主人が証明すれば問題はない。

 今日もそんな調子で城門を通過しようとしたが、顔なじみの衛兵は来たのがマチスだとわかると詰め所に飛び込んで、ひとりの少年を連れてきた。

 身なりからすると、見習い魔道士と想像がつく。

 少年は物慣れない仕草で一礼して、マチスを見上げた。

「ウェンデル先生がお茶に招きたいと仰っているのですが、よろしければご同道いただけますか?」

「司祭が?」

 歳は離れているが、ウェンデルとは茶飲み友達である。たまに会っては他愛のない話をするのが通例だ。

 前なら時間さえあれば堂々と誘われていったものだったが、今は微妙な時期である。

 だが、アカネイアを発ってからここ数ヶ月はそうした機会がない。話せば事情はわかってくれるだろうが、だからといって誘ってくれているのを蹴るのはどこか違う気がした。

「じゃ、ご馳走になろうか」

「では、ご案内致します」

 少年の後について城内を西に歩いてゆくと緑の気配が強くなり、やがて木々に潜むような佇まいの石造りの建物が見えた。

 少年によると、これが解放軍にいる全ての魔道士に充てられた宿舎兼研究所なのだという。カダイン侵攻が終わるまで解放軍内の魔道士の数はさほどでもなかったが、ウェンデルの影響下にあった人間が解放軍に入ったため、こうした建物が必要になったのだった。

 導かれるままに中へ入ると、少年よりも年長の魔道士が現れて、彼に代わって案内役としてマチスの前に立った。

 廊下から臨む大きな中庭では監督役の魔道士が指示して、地面に何かを描かせている。契約用辺りの魔法陣にするのだろう。

 続きの間に従者を置いて一室に入ると、簡素な椅子と卓があり、そこでゆったりと腰を落ち着けたウェンデルがいた。季節によって多少雰囲気は変わるが、マチスが招かれる時はいつもこんな感じで、必要なもの以外はあまり置こうとしないし、部屋の装飾もさほど意識しようとしない雰囲気だった。

 ウェンデルが魔道士を下がらせて、席を勧めてくる。

「しばらく振りですね。元気そうで何よりです」

「司祭こそ、元気っつーか……全然変わらないな」

「いやいや、これでも毎日薬湯が欠かせないのですよ。まあ、そう見られているということは、わたしもまだまだ大丈夫ということですか」

 カダインの高司祭は穏やかに笑った。ほぼ無条件に受けてしかるべき敬意の言葉がなくとも、機嫌を害する気配がない。これは初対面の時からそうだった。

「それにひきかえ、若者の変化は著しいものですよ。マリクもですが、ミロア様のご息女は日に日に魔力を高めていますから。動機が復讐でなければより素晴らしいのですがね」

 カダイン侵攻の時に解放軍はガーネフに大敗を喫している。マチスが人づてに聞いた話では、リンダは光の超魔道オーラをもってして父の敵を討とうと周囲の反対を押し切っていって、魔道をガーネフに放ったが暗黒魔道マフーによって打ち消され、ガーネフは『オーラなど児戯同然、恐るるに足らぬ』と言い捨てて攻撃さえ仕掛けなかったのだという。

「……よくわからないけど、ただ修行と実戦を重ねるだけでマフーに対抗できるようになるのか?」

「そのための魔道書はオーブを元に作られるそうですから、あとは術者の力量のみですね。今はよく頑張っていますが、体を壊す前にわたし達の側から見極めねばなりません」

 ウェンデルの言葉に、マチスは目を見張った。

「そんなにきつい修行を?」

 ノルダの時にオーラで攻撃されたために、二度とこうした暴走が起こらないように見届けて欲しいと言われている。とはいえ、あまり関われていないという実態なのだが、気にしていないわけではなかった。ただ、できる事が励ます程度なものだから、遠くから見ているしかない。

「残念ながら、相手は強大です。それをわずかな期間の修練で倒す力を持つようにすれば無理は生じます。ですが、不思議と不可能だとは思わないのですよ」

「……まあ、司祭がそう言うんなら、そうなんだろうな」

 完全にそう思えたわけではないが、こちらは所詮なりそこないである。それに、代替案など出てこない。

「まあ、そう難しい顔をすることもないですよ。辛いことやあやまちを知っているからこそ、強い力を得て正しく行使できるでしょう。……というか、そういう説教をしましたから」

「…………」

 以前、マリクがウェンデルの講釈と説教がともかく長くて困るという愚痴をこぼしていたのをマチスは思い出した。それをリンダもくらったというわけだ。

 今回ばかりは説教される側に同情したくなるが、そういう風に言えば二次被害を受けるのは確実である。余計な事は言わないのが得策だった。

 マチスの沈黙を不審がってか、ウェンデルが顔を上げる。

「どうかしましたか」

「いや、その……どこも大変なんだなと思って」明らかに茶を濁す発言である。

 それからは、これからのグルニア戦であったり、マチスがうっかり賭けで勝ってしまったせいで賭け事を自粛させられたりといった、この時期に幾人にもした話題で半時ほどが過ぎた。

「このごろは、どうも殺伐としてしまいますね。仕方のない事ではありますが」

「そりゃ、戦いなんかないに越したことはないけど……どこかおかしいってのは確かにあるよ」

 マチス自身、ミネルバの命令に従って真面目に下された命令をこなしていることに違和感を持っているが、これは狙いを持って自分から選んだことだから置いておくとしても、最近はどこを見ても好戦的な気配がする。

 これまではオレルアン・アカネイア・アリティアがそれぞれの国を取り戻すためにお互い協力してきた、という節があった。だが、これからは本格的に侵攻国を攻撃しようというのである。これまでにおける解放軍の強さが強さなだけに、どれだけ苛烈な戦いになるのか想像がつかない。

 何せ、あのシーダが隠れてカード賭博に手を出すくらいだから、中枢部では何かが起こっているのだろう。

 それはおそらく止められる類のものではないし、そもそも止めようとも思わない。あまりにも立場が遠すぎた。

 そんな事を思い返していると、ウェンデルが熱い湯気の立った茶器を差し出してきた。淹れ直してくれたらしい。

「この戦いで、もしかしたら、あなたに魔道を行使する力が身につくことがあるかもしれないと思っていましたが、こうなってみるとそうならなかったのは正しかったようですね」

「おれが、魔道をまずい事に使いそうだからか?」

「それもないとは言いませんが、今はともかく状況が悪すぎるのです」

 当然ながらウェンデルにはウェンデルなりに知っていることもある。マチスの知らない範囲で目に悪いものを見ているのだろう。

 マチスはふと思いついて、口にする。

「まさか、何かの拍子におれが魔道を使えるようになるってのは……」

「契約を成功させていないならその心配はないでしょう。ただ、完全にないとも言い切れないのですよ。まず、あなたの精霊関知の力からして、わたし達の知識が及ばない範囲にあるものですから」

「あれはもう、まぐれって事で済ませていいんじゃないかなぁ……。司祭だってそこに立ち会ってたわけじゃないし」

「わたしの弟子をはじめとして確かな証人が何人もいるのだから、それはできません。戦争が終わったらもう一度カダインに来てほしいくらいなのですよ。

 それはそれとして、いっその事封印してしまいますか?」

 いきなり予想もつかない話を振られて、マチスは面食らった。

「封印って、何を?」

「魔道の可能性です。おそらく、魔道士の修行の中である程度は開いていた要素が人とは違う干渉をして、精霊関知の力になったと考えられますから、また違うことが起こらないとも限らない。それならば、開いているところに仮の蓋をして、魔道に縁のない人と全く変わらない状態にしてしまうのもひとつの手ではないかと思うのです」

「『ひとつの手』って、おれはいっその事ずっとそれでも――」

 構わないと言いそうになったマチスに、ずい、とウェンデルが身を乗り出す。

「魔道は全ての人に開かれうるべきもの。使えるようになってから取捨選択するのならともかくとして、使えない原因のわからないまま、魔道の修行をなかった事にするなどカダインの高司祭として、それは絶対に承服しません」

 わかりましたか、と念を押されるのに、マチスは頷くしかなかった。マリクの愚痴仲間にはなりたくない。

「で、封印ってのはやっぱり儀式を?」





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