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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 3-3 |
* 西から銀の槍を煌めかせて接近してきた黒騎士団の軍勢二千余を、アカネイア・アリティア・オレルアンの騎馬部隊総勢五千が迎え撃つ。 黒騎士団の構成はカシミアの時よりも強力になっており、普通なら二千を率いるのに聖騎士はひとりで良さそうなものだが、この軍勢には四人もいる。解放軍に例えて言えば、五百の部下を率いたハーディン、アラン、ミディア、アベルがいるようなもので、それが少数精鋭の故に結束が強まっていれば、 その証拠に、数で勝っているはずの解放軍が拮抗するだけで手一杯だった。平地の騎馬同士、しかもアリティアを含めた戦いでは今までになかった光景である。 解放軍はアカネイア勢を中心として更なる戦力を投入したが、そこへ黒騎士団の背後から戦車隊が迫っていた。 硬い装甲を持つこの兵器を撃破するために、馬で後背に回ろうとしていたマリクは援護を要請した。その場に居合わせていたのはウルフである。 援護というよりも護衛だろうとウルフは思ったが、事態が一刻を争っていたため一にも二にもなく承諾して、マリクと共に戦場を駆けた。 平原で一筋の道のように続いている林に沿って隠れながら戦車隊の背後に回り、マリクが下馬して風の魔道を放とうとした時、東で解放軍と交戦していたはずの黒騎士団がこちらに向かってきた。 風の聖剣は成功して戦車に打撃を与えられたが、格好としては丁度黒騎士団の盾になってしまい、迫り来る脅威に対しては何ら影響を与えることはできない。 ウルフは騎乗に時間のかかりそうな魔道士を問答無用で部下に引き上げさせると、すぐに林のある南へと退避した。 しかし、よりによって敵は彼らを追ってきた。噂に名高いアリティアの風魔道士を狙っていると思っていい。 これがウルフのようなホースメンでなく、せめてロシェであれば対応が変わろうものを、接近戦に対して無力な自分達では逃げるしかない。戦功を上げるのを諦めたわけではないが、相手と状況が悪すぎる。 そこへ南東の方向から味方――旗からすると、アカネイア勢と見えた――が追いついてきてくれたのはいいが、このままでは挟み撃ちにあってしまう。 ウルフはやむなく部隊を散会させ、東へと逃げる。 ところが、ここはここで敵味方が入り乱れる大乱戦になっていた。その上、あちこちから聞こえてくる伝令の伝聞みたいな絶叫から、戦車隊がこの辺りに攻撃を仕掛けているという。風の魔道で全てを破壊しきれなかったのが、まだ動いているのだ。 敵が巧みであれば、数倍の戦力を持つ味方の損害が予想の範囲よりもひどくなる典型の状況だった。しかも、敵の思惑に乗って大戦力を投入しないとこの戦いでは勝てない。 全体の流れはともかくとして、ウルフ自身はここを抜けて自分の隊を集めるのが先決だった。 急いで戦場を脱出すべく若干の部下と共に東へ馬を走らせているさなか、唐突に肩口の辺りへ衝撃が走った。 息の詰まる思いで首を巡らせると、上腕の上の方に矢が突き立っていた。 下手に抜くことはできない。幸いにも本陣まで帰る体力はあるが、帰ってしまうと今回の戦場にはもう戻れない。こんな事で退くことに口惜しさがないと言えば嘘になる。それでも、最良の手を考えるならここは退却するしかなかった。 本陣に帰るとウルフはすぐに医療部隊へ引き渡されて、適切な処置が成された。法力の杖での治療も加えられ、見かけも腕の動きも違和感のない状態が戻った。だが、完全でない場合もあるらしいから、数日は必要がない限り無理に動かさないのが無難だと伝えられた。 ということは、歩き回る程度はいいのだろうと思って治療用の天幕から出ようとしたが、そこでニーナの侍女が訪ねてきた。以前にニーナの護衛をしている時に顔見知りになっていたのである。 ウルフが退却を余儀なくされるほどの怪我をしたと聞いて様子を見にきたというのだが、これはニーナから命を受けたのだという。 そう聞いてウルフは驚くと同時に、ニーナから目をかけてもらったという嬉しさともったいなさが心の中を占めた。しかし、これしきの事はご心配に及ばないと侍女に返し、むしろこのような怪我を負ったのは未熟の証だと申し訳なさそうに付け加えた。本来なら、華々しい戦果を残してニーナから気にかけてもらいたかったのだから。 とはいえウルフにとって幸いなことに、後年にはニーナの親衛隊に加わる栄誉を賜ることになる。本人が不名誉と思う今回の負傷もその一因となっており、ニーナはグルニア戦で不遇に遭った人間を意識して遇しようとしたようだった。 グルニアにおける解放軍の緒戦に目を戻すと、結論から言えば勝利を収めはしたものの、いずれも甚大とはいかないまでも、それなりの損害を被っていた。特に酷かったのはアカネイア勢で、大部隊を操れるがために今回の戦いでは被害を広げてしまった。 不名誉の将となったミディアだったが、彼女もまたニーナによって庇われた。黒騎士団の精鋭を相手にアカネイアの大軍を率いる役目は誰かがやらなければならなかったものであり、重い役目を負ってくれたミディアには感謝してもし足りないくらいだ、と。 そうした話の一方で、奇妙な事態も生じていた。 乱戦になる前に林へ入った或るアカネイアの部隊が恐慌をきたし、同士討ちを始めてしまった騎士もいたという報告が入っている。多数の人間が敵のいない林で命を落とし、その中には部将も含まれていた。 こんな話をも含めて緒戦でこの有様では、最終的にグルニアに勝ったとしても、解放軍が壊滅しかねない。態勢と共に、戦法の立て直しも図らねばならなかった。 |