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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 3-2






 勝ち馬そのものの祖国を抜け出した事についてグルニア人から問われると、元アカネイアの将校は決まって苦笑を見せ、追い詰められたのだと言い捨てた。

 将校は古い家柄の出だったが、没落のさなかにあった。数代前に些細な事がきっかけで主従逆転の憂き目に遭っている。

 いつかその関係を元通りにするのが将校の家の悲願だったが、アカネイア奪還の戦でその相手が格段の手柄を上げ、部将まで昇ってしまった。こうなると、もう手は届かない。少なくとも自力でひきずり落とすのは困難だった。

 とはいえ、戦の場ではどうなるかわからない。事と次第によっては手段を選ばぬことも必要になるだろうと腹を据えて、解放軍に志願した。

 メニディ、グラ、アリティアと経過したところで、将校は不穏な気配の人間と接触した。投降を経て解放軍に組み込まれたグラ人だったのだが、彼らはカミユと繋がり、グルニア軍に情報を流しているのだという。

 将校はこのグラ人達を解放軍に突き出すこともできたが、協力する道を選んだ。グラ人が解放軍に与える打撃は微々たるものだろうが、これはもしかしたら活路を見出せるかもしれないと思ったのだ。もしくは、ここまで落ちてもどうにもならないのであれば、家族も諦めがつくだろう――捨て石になるから、いざという時の処断を用意しておいてほしいと家には伝えてある。

 アリティアで過ごす間にグラ人の信用を得て、彼らに接触したグルニア人に紹介状を書いてもらうと、将校は解放軍を抜け出してグルニアへ向かった。

 丁度カシミアに黒騎士団の部隊が配置されていたこともあり、うまいことカミユに繋がることになった。

 自覚する限りの事情を話し、解放軍に関する情報を求められるままに伝えると、カミユは将校の身柄を数日間保留した後に、グルニア軍に属する事を条件にして行動の自由を与えた。

 その時の事を振り返ると、カミユは将校の存在価値をさほど認めていなかったように思える。グルニアに敗戦の色が濃く出ていたせいもあるだろうし、こうして裏切る者を快く思わなかったのだろう。居ても居なくても良いが故の待遇と言えた。

 元将校となった男は、騎士ではなく賊を装ってグルニアに居ついた。装うだけだから、実際にそうした行いをするわけではない。解放軍が到着するのを待ち、かの部将を陥れる機会をひたすら窺おうとしていた。

 しかし、グルニア軍は元将校の他に、奇妙な人間を抱えていた。

 同じように賊を装いながらも、こちらは物騒な業物の剣を持っていた。悪魔の剣と呼ばれるそれを持つ男は、マケドニア貴族の依頼で来たのだという。

 何でも、グルニアの南部に引退したマケドニアの元伯爵が住んでおり、そろそろグルニアも危なくなってきたから、諸方からこの元伯爵を連れ戻そうとしているのだが、頑として動かない。それどころか、解放軍に味方しようという節すらある。なので、強引な方法を取ろうと、この男が派遣されたのだった。

 話の筋を聞く限りでは、大人数で連行してしまえば済みそうなものなのに、男はたったひとりで、しかも悪魔の剣を持っている。

 その伯爵家というのは隠居の人間に対して苛烈な手を取るのだなと、敢えて誤答を口にしたところ、男は得意げに、勘が悪いなと意地の悪い笑みを見せた。どこの家とは言えないが、かの伯爵家とは全く違う所から依頼されたという。大方、政敵の筋であろう。

 元将校とて褒められた動機ではないが、こうした境遇に入ればどっちもどっちかと、そんな感想を持ってこの男に同行した。途中まで同道して、適当なところで別れようと思ったのである。

 グルニア城の西から東西にかかる橋をふたつ渡り、南部の平原に出てしばらくして、数十人の村人とおぼしき集団と出くわした。解放軍がグルニアに上陸したため、戦火を逃れようとしているものと見られた。

 時間の猶予がないと悟った元将校は、ここで男に別れを告げようとした。だが、せっかくの縁だから仕事を終わらせたら手伝ってやると言い捨てて、男は大胆にも剣を振るって集団に襲い掛かった。

 男が標的と共に村人を皆殺しにしようとするのを悟って、元将校は顔を背けたが、予想よりも早く悲鳴は止み、妙な静寂が場を支配した。

 振り返ってみると、村人の先頭に立つがっしりとした体格の老人と件の剣を構えた男が対峙していた。

 あの剣なら、非武装の老人など簡単に倒せそうなものだろうにと思った矢先、男が斬りかかるのに対して、老人は素早く杖を繰り出して巧みに攻撃を弾いていた。

 有り得ない光景に目を奪われていたが、男の腕が不自然な動きをしたかと思うと、自分の胸を剣で刺し貫いた。柄には男の右手がしっかりと握られている。

 悪魔の剣は強力な力を有する代わりに、欲する血の対象は見境がない。使い手でさえも選択肢に含まれているのだ。

 老人や村人達の驚愕とも悲痛とも取れる面持ちに見守られながら、男は断末魔の叫びさえ上げずに、その命を終えた。

 こうした報いもあることを再確認して、元将校はせめてこの気の毒な刺客を葬ってやろうとしたが、恐れをなす村人達を老人が集めて、罪人を弔う歌を歌わせながら、手際よく埋葬してしまった。

 あの剣はどうするのだろうと注視していると、男と共に埋めることはせず、少し離した場所に何かの細工をした後で埋めて、さらに幅広の木切れに何事かを書きつけて突き刺した。

 最後に老人の主導で村人達が祈りを捧げ、彼らは立ち去っていった。

 元将校はそこでようやく隠れていた木陰から抜け出して、男が埋められた場所に足を運んだ。

 まずは男の冥福を祈り、次いで木切れの前に行く。

 掘り出してみると、剣はすぐに見つかった。土にまみれ、魔除けらしき作法の痕跡があって剣をいましめている。

 これを使えば男と同じ末路になる可能性は高い。それに、悪魔の剣などといういかにもな代物が元将校の転落を素直に物語りすぎていた。

 だが、元将校は縛めを解いて、腰に下げた。悪へ落ちるなら、徹底的にやろうと思ったのだ。

 戦場を求めて東に向かうと、果たして黒騎士団と解放軍が交戦しようとしているところだった。

 元将校はアカネイアの旗をみつけ、更にあの部将を捜した。

 これもすぐに見つかったが、本隊についているうちは手を出せない。仕方なく近くの林に隠れながら状況を見定めてゆくことにした。





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