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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 3-1




(3)


 アカネイア歴六○五年六月初旬。

 カシミアを中心に解放軍の軍勢を乗せた船団が出航した。道中で海賊などに出くわしたが、ペラティのように組織立ったものではなかったために彼らの敵ではなく、上陸戦もまた予想されたほどに苦労するものではなかった。ただし、一度は奪った港がグルニア軍の破壊行動によって修復に手間取る状態になり、それならばと天空騎士の先導に従って南へ逃れた。

 これと同時に講和の使者を送り続けていたところ、数度目に至ってとうとうカミユがニーナ個人に充てた書簡を届けさせてきた。しかし、幾多の哀願にもかかわらずカミユが出した答えは、ニーナに寄る姿勢を見せつつも、グルニアの騎士として祖国を裏切ることはできないというものだった。

 これは完全なる決別の表れとも見えたが、カミユとて戦う前に降るのは本意ではなかろうと見る者もいた。最後まで望みをかけたいニーナも後者の人間に賛同している。

 解放軍はグルニアの東の果てを選んで態勢の立て直しに努め、黒騎士団との本格的な衝突に備えた。

 カシミアで序盤の手柄を奪われたアカネイアは、本隊に二万の兵力を入れて聖騎士ミディアを将に据えた。グルニアの戦力が一万程度まで落ち込み、解放軍には他勢力もいることを考えると、この数は充分すぎるとも言える。

 だが、カシミアで味わったように戦は数で決まるものではない。相手はこれまでになく懸命になるはずだから油断はするなと、ミディアはアカネイアの指揮官達に言い含めた。そして、アリティアに手柄を奪われまいとするのではなく、彼らは上手く使え、とも。

 ミディア自身はカシミアでスターロンを討つ部隊を率いていたものの、アリティアの魔道士マリクが大きな働きをした事は否めない。あの時、東西にそれぞれの勢力が割り振られたのは功績の均等化をはかった結果なのだろうが、それでも細かいところでは武勇の印象に差が出ていると感じていた。女性の指揮官であるから、実際の槍働きで及ばない部分があるのは仕方がない。だが、アカネイアには、人の多さの割に英雄たる素質の主が不足しているように思えてならなかった。

 この本隊をジョルジュが指揮する話もあった。だが、ジョルジュは宝弓パルティアの使用を許されたスナイパーでもあるため、その天分を生かすことが重要視された。そんな彼の認識では、この大きな戦で本隊の指揮を成し遂げれば、小娘と侮る愚か者が減るのだから良い機会ではないかということだった。

 別段、侮られようとそうでなかろうとミディアは構わない。アカネイアには他にも聖騎士がいる中で、ミディアの家が供することのできた戦力が大きかっただけで、その結果として今の立場に落ち着いているだけだ。同性ということでニーナに近づける点もあるが、家がどれだけこの戦いに力を注いでいるかが決め手になって、アカネイア筆頭聖騎士の座についたというのが正しい。

 そもそも、戦となれば二万の戦力を割る必要が出てくる。ミディアの家の影響下にある戦力は当てにできるが、それ以外はどうなるかわからなかった。

 そうした事情を抱えるアカネイアを左右から固めるのは、アリティアとオレルアンである。

 アリティアはアベルが新たな聖騎士の内定を受けたものの、披露はグルニア攻めが一段落してからということで、今回もアランが統率をとっている。マルスは総大将であるため、ジェイガンや直属の騎士と共に本陣に留まっていた。

 オレルアンはここでようやく前線の役目を与えられたが、ハーディンが先頭に出ているため、粛々とした様子で出撃に備えている。それでも、ニーナへの強い敬愛を公然と口にするウルフなどは、今回は本陣にニーナがいるため、「親征」の機会で華々しい役を全うするべく、部下を強く鼓舞していた。

 空を舞うマケドニア天空騎士は竜騎士を率いるミネルバと、天馬騎士を統率するペガサス三姉妹のパオラ、カチュア、エストが偵察、攪乱に飛び回るのはもちろん、必要とあれば攻撃にも転じるつもりでいた。三百にも満たない彼女達がそれだけの自負を持つ根拠はペガサス三姉妹にある。マケドニアを前にした最後の戦いで、彼女達は自分達の有用性を存分に発揮する心積もりだった。

 そして、地上の本隊だけでなく、グルニア戦に際するあらゆる場所に、ロジャーをはじめとする解放軍のグルニア出身者が散っている。その数、千二百弱。各地の中小規模の領主を揺さぶりにかけたり、地理の案内に立つ役を請け負っていた。

 彼らの中に王族はなく、大きな力を持つ貴族もいない。これを機にのし上がろうとするには、解放軍の存在は大きすぎた。アカネイアが支配に長けているのは今に始まったことではなく、利用しようとしても利用され返されるのが落ちだ。解放軍の中には、グルニアの未来を案じてくれる人間もいることはいたが、その彼らとて表向きには派手に動けない。解放軍が勝利を収めた時、グルニアは敗戦国になる。その後に待ち受ける辛苦の運命は避けられないだろう。

 その結果、しばらく、あるいは終生彼らを恨み続ける者はどうしても出てくる。それでも完全なる滅びを望まぬ存在として、解放軍のグルニア人は動こうとしていた。





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