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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 3-11






 わずか千の手勢でもグルニア城ほど守りに適していれば、数年単位で篭城することもできる。解放軍が持つ驚異的な魔道で破壊行為に及べば話は別だが、それはその時として、ドルーアと同盟した王の意にできるだけ沿う、つまりは解放軍に最も手痛い打撃を与える攻めに転じるだけ――それが、カミユを始めとするグルニア軍の意志だった。

 解放軍はそんなグルニア城を包囲まで持ち込んだものの、やはり最後の一押しができなかった。そこで、解放軍とニーナの名前によってカミユに降伏を求める動きを再びとったが、返答は最初と同じだった。

 しかし、七月に入ると、カミユの側から一騎討ちを持ちかけてきた。夏のさなかに包囲網を敷くのは苦だろうと余裕を込めた文面を添えて。甚だしく腹は立つが、図星だった。

 一騎討ちとあれば、普段ならここで大将カミユを討ち取って戦を終わらせると意気軒昂になれる場面だが、グラディウスを持ったカミユなど、一騎討ちの相手として最悪だった。解放軍への指名がないのは幸いであるが、並の聖騎士程度では納得するはずがない。求められているのは、王族かそこに限りなく近い地位の人間だろう。

 その第一候補であるマルスはメディウスを倒せる神剣ファルシオンの使い手ということで絶対に出せないし、剣の使い手は騎馬に対して不利である。その上、本人が乗り気でない。

 ここは一騎討ちの誘いに乗らず、カミユを野戦に引きずり出す手法に腐心すべきということでまとまった。

 そして、その方法のひとつとして、軍勢の大半を退かせて、解放軍騎馬部隊の精鋭とグルニアの精鋭とで戦って雌雄を決するという案が持ち上がった。一騎討ちの件から、カミユが戦いを求めているのは確かだから、これなら食指を動かす可能性はあった。

 そう決めると、解放軍は大方の軍勢を港町の近くまで退かせ、選び抜いた千三百の兵力をグルニア城の前に留めた。

 精鋭として残ったのは、ハーディン、アベル、カイン、ロシェと予備戦力のミディア、ウルフ、ザガロ。騎馬であり、かつ戦闘能力を基準に選んだこの面々に、見届け役のマルス、ニーナ、ロレンスの他には医療隊と輸送隊がいるだけだった。

 名うての傭兵や天空騎士、弓歩兵を残すことも検討されたのだが、かえって戦いづらくなるために断念した。カミユの対応を考えると、魔道士が残るのも危険ということでこちらも回避の対象になった。

 そうして集まった解放軍の精鋭だったが、結束の点で黒騎士団に大きく劣るのは否めない。ここは各々の力量だけが頼みの綱だった。

 カミユは解放軍の精鋭が陣を敷く目の前、城門を背にした場所に直属千騎を並べ、宝槍グラディウスを掲げた。

 対する解放軍は陣の最奥でマルスが鞘から抜き放ったメリクルレイピアを掲げて応え、突撃の号令をかけた。

 アリティアの若き両雄が切り込み役につき、五百の騎馬が黒騎士団めがけて槍を手に突進する。その後ろから大将格のハーディンが三百五十、遊撃を務めるロシェが百五十を従えている。

 彼らは解放軍最強の騎馬部隊とはいえ、カミユの元に最後に残った騎士が揃っているだけあって、簡単には倒せない。ミディアやウルフは時折マルスを仰ぎ見たが、動く気配はない。当然の配慮として、ニーナの姿は陣の中になかった。ここで起こる事はあまりに凄惨なものになるのは目に見えている。

 アベルとカイン、ハーディンとロシェが互いを助ける形で黒騎士団の騎士を少しずつ倒していく。しかし、黒騎士団は部隊の全てがどうすれば味方の最善のために動けるかを心得ている。そして、解放軍の隙を突くのも巧みだった。

 しばらくして、両軍合わせて二百程度の兵が戦えなくなった頃、カミユが動き出した。

 最初に気づいたアベルが他の隊に呼びかけて注意を引くと、即座に隊を動かしてカミユの左へ回り込んだ。

 名乗りを上げて突撃をかけるアベルの部隊を宝槍グラディウスが襲う。

 部下がなぎ倒される中でアベルは突撃を続け、槍に重心を強めてカミユめがけて馬ごと体当たりをかけた。冴えのかけらもない、アベルらしくない攻撃だったが形を選んでいる場合ではない。

 カミユはこれを躱し、アベルの槍を砕いた。

 槍が砕けるという、常識ではありえない事象こそ予想外のものだったが、グラディウスの一撃を直接受けなかったのは上出来だった。元より、アベルだけで相手取ろうとは思っていない。

 アベルが壊れた槍を捨ててカミユから離れようというその時、カインが追いついて挑みかかっていった。

 既に切り開いていたこともあってか、カインはアベルとは違い、部下を伴わずに自らの身ひとつで飛び込んでいく。

 振り放つカインの槍とグラディウスが交錯し、カインの槍ばかりが大きくしなる。剛槍の類に入るため、アベルの時のように一撃で砕けることはなかったが、同じ運命をたどるのは時間の問題だった。その上、カインの全身にかかる負荷は相当に大きい。ただ槍を重ねているだけなのに、腕を負傷しかねなかった。

 アベルは新たな槍を得てカインとカミユに群がろうとする黒騎士団の騎士を部下と共に撃破していく。

 そこへ、アベルは来たるべきものを見つけて、備えてあった手槍をカミユの後方めがけて投げた。当てるつもりのなかったこの槍は、カインに対する合図だった。

 カインの副官が退けと叫ぶのに隊全体が唱和し、得物を振るいながら結束する。

 長たるカインは半ば動きを委ねる形で、馬に地面を蹴らせた。

 交差していた槍と馬の反動でカインは鞍から弾き出されそうになるものの、はずみで槍を手放してしまったのが逆に幸いして、どうにか落馬は免れた。

 そこへ、武器を失ったカインをアベルの隊が囲んで守らせる。

 アリティア騎士の後退と入れ替ってカミユの前に現れたのは、ハーディンだった。

 解放軍最強の騎士として認められるオレルアン王弟の手には、くちなの地に黒のがら、赤の強調を添えた細長い布を結んだ槍が握られていた。この布はニーナが持つ己の印のひとつで、彼女の意志を強く委ねられていることを示していた。

 ハーディンの指揮する部隊は最後に抵抗する黒騎士団を凌駕し、将たるハーディンをカミユの元へ導く。

 互いの部下は長が接近するや援護のために駆けつけようとしたが、ハーディンとカミユが槍を構えると、双方の存在感に威圧されて後退を余儀なくされた。

 後方で見ていたウルフ達は、解放軍が避けてきた一騎討ちの形になった事を気づき、マルスに自分達の投入を訴えたが、今回もこれを退けた。たとえこうなったとしても止めるなと、ハーディンから事前に告げられている、と。

 臣下の絶望をよそに槍を手に突撃するハーディンは、カミユがグラディウスを一振りさせて迎え撃とうとするのに対して、自らも槍を振り上げ、馬に拍車をかけた。

 互いをめがけて騎馬同士が衝突しようかという刹那、両者の槍が激しくぶつかる。

 その瞬間に、ハーディンはグラディウスが自分の左腕を捕え、体ごと弾き飛ばそうとするのを悟りながらも、己の槍をカミユに繰り出そうとした。

 オレルアン王弟と黒騎士の間に盛大な血花が散り、手の中から槍を失ったハーディンは左半身をあけに染めながら倒れゆこうとしたが、騎馬自身が体勢を崩しながら器用に持ちこたえて馬上に留めた。

 対するカミユは、グラディウスをハーディンに命中させた姿勢を硬直したかのように続けていたかと思うと、唐突に馬から落ちて地面に体を叩きつけられた。黒の甲冑は左胸の辺りが砕けていた。

 カミユは何かを言おうとしていたようだったが、地面に落ちるニーナの貴布を目に留めて、振り絞るように一言、たった一語を発して事切れた。

 ここにグルニアの黒騎士は倒れ、勝敗は決した。

 大陸一の名将と謳われたカミユだったが、自らの美学に沿って挑んできだ解放軍によって破られた。

 それは、ひとつの時代がはっきりと終わったことを意味していた。





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