トップ同人活動記録FE暗黒竜小説INDEX>諸記 カシミア〜グルニア戦 2-1




「諸記 カシミア〜グルニア戦」 2-1




(2)


 ラーマン寺院をゆるやかに包囲しつつも、解放軍は中へ入れずにいた。

 ガーネフに対抗する唯一の魔道スターライト・エクスプロージョンを作るため、寺院に収められている星と光のオーブを得ようとしているのだが、そのガーネフが置いた殺戮の女神に阻まれているのだ。

 女神とはいえ、その正体はマムクートである。ただ、その力が他の竜とは格段に違う事と、姿だけは神竜と呼ぶに値するほどに神々しいものだっただけに、今までのように手にかけることがためらわれている。

 これまで二体の竜を屠ったマルスは、竜殺しの剣を使う可能性について考えたが、それを口にする前に、モロドフがマムクートの中でも神竜族と呼ばれるものがいるという話を思い出し、レフカンディから同行している老マムクートのバヌトゥがナーガの女子を捜していたはずと召し出してみれば、果たしてその記憶は当たっていた。

 ナーガの生き残りはひとりしかいない上、他のマムクートに対する力が格段に強いとあっては討伐ではなく協力を仰ぐしかない。味方に引き入れる役目はバヌトゥに託されることになった。

 これで女神への対処は決定したが、問題はまだ残っている。ガーネフの支配下におかれているラーマンの兵を下手に刺激すれば、神竜族の説得どころか、オーブの獲得も難しくなる。

 ならば、ごく少数の精鋭で潜り込み、全てを秘密裏に終えるべし――これが解放軍の導き出した結論だった。

 解放軍に協力している寺院の僧侶は聖域に刃持つ者を送り出すことに難色を示したが、その聖域が魔王と呼ばれる司祭に支配されている実態を振り返って、案内役を自ら買って出た。

 解放軍から出る精鋭部隊は、勇者に相応する実力を持つ傭兵数名と、隠密の役割に長けた元盗賊ふたり、強大な魔道は持つものの今回は主に普通の魔道を使うことが求められている男女の魔道士ふたり。これにバヌトゥと彼を背負う役の兵士が加わる。

 致命傷を負った時のために治癒の杖を使える者を入れたかったが、尼僧や老司祭には荷が重く、かといって案内役の僧侶はこうした荒事の場で杖を使用したことがないため、遠隔の治癒であっても施術がまともに行える自信はないという。

 こうした事情があるため、普段の戦場とは違う緊迫感を伴う任務となったのだが、そこへマルスが潜入隊への名乗りを上げた。シーダや多くの臣下が反対し、解放軍の他代表格もいい顔をしなかったが、結局はマルスの主張が通った。大賢者ガトーの助言を受けた本人がオーブの獲得に立ち会わないのはおかしいという訴えと、剣では勇者候補の傭兵達に引けを取らない事実が反論を封じた。

 だが、アリティア王子の関心は寺院の奥にいる神竜にある。解放軍は人間の軍勢を相手にマムクートを使わない方針を打ち出しているので、この機会を逃すと神竜の姿を見るのはドルーアへ入った後になってしまう。その前に一目だけでも見ておこうと思ったが故に、潜入隊に名乗り出たのだった。

 寺院に侵入し、抜け道から中心に近い一角に出ると、傭兵達に混じって剣を振るいながら、マルスの視線は常に奥へと注がれていた。時々柱の影から矢が飛んできて目の前を通過しても、歯牙にもかけず、全く動揺していない。

 それを見た同行の傭兵達は例外なく目を剥いていた。剣の実力者といえど、マルスの身の捌き方は自分達の理念とかけ離れてすぎているのである。

 奥へ進む最中に、寺院の財を奪おうとする輩と出くわすので潜入隊はこれを斬り捨て、中級のみならず上級の魔道にも襲われながら使い手たる魔道士をも打ち倒した。

 そうして最奥にたどりつくと、荘厳な柱に囲まれた巨大な台座の上に、天井に至るほど大きく、白い輝きに覆われた竜が鎮座していた。柱の外でガーネフ側についた寺院の僧侶が何事か祈りの言葉を呟いているが、巻き添えを嫌って逃避しているようにも見える。

 潜入隊の先頭にいたマルスは、柱越しの白い竜へと視線を戻した。

 過去に相手取った火竜や魔竜とは違い、「力」に深遠な気配を強く感じさせる。……これで、バヌトゥが捜しているという話がなければ、竜殺しの剣を持って立ち向かっていたかもしれない。人間よりも強大な生命力を持つ竜を倒すことで、より強い「力」を得るために。

 それとも、神竜の「力」に、今触れてみるべきだろうか。

 無意識に踏み出したその一歩に合わせて、白い竜がわずかに首を動かす。

 マルスが視線の交錯を察した時には、既に白い光が眼前に迫っていた。

 反射的に身を翻して辛くも躱したが、髪と戦装束の端がわずかに焦げている。

 今になってようやくあの竜に攻撃されたのだとわかって、マルスは戦慄を覚えた。充分に距離を取っていたつもりだったし、あのわずかな動作で攻撃されては近づくことすらままならない。絶対に倒せない存在でもないのだろうが、この手勢で相手にするのは難しい。さすがに「神」の名を冠するだけのことはある。

 そこへバヌトゥを背負った兵士が追いつき、老マムクートを下ろした。

 竜に変幻して相対するのかとバヌトゥに問いかけたが、否と返してきた。マムクートにはマムクートにしかできないなだめ方を知っているという。

 そうは言っても、あれでは接近することすら困難だとマルスが首を振ったが、バヌトゥは構わずに歩き始めた。

 先程マルスが踏み入れた地点に入ると、白い竜はまた首を巡らせた。だが、バヌトゥが静かに爪を打ち鳴らすだけで、竜は開いていた口を閉じた。

 あの光が口から放たれていた息吹ブレスだったことへマルスが意外の感を持つのをよそに、バヌトゥは白い竜に話しかけた。

 様子を伺ううちに、ガーネフに催眠術をかけられているとわかったところで、バヌトゥは人語から外れた言葉を用いて目覚めの術を試みる。

 すると、白い輝きを持った竜は消え、その後には不恰好に大きい頭巾を被った小さいローブ姿が現れた。子供のように見える。

 その小さい姿は辺りを見回していたが、バヌトゥに目を留めるとひっしとしがみついた。この光景を、マルスを始めとする潜入隊の面々はいずれも呆然と見守った。神竜の正体に衝撃を受けていたというのが彼らの正直な感想である。女子――女の子というから、相当に幼いだろうとは思われていたが、どう見ても五歳くらいの幼女である。それを先程の竜と合致させるのはかなりの精神的努力が必要だった。

 バヌトゥに手を引かれてやってきたマムクートの女の子はチキと紹介された。バヌトゥが少し難しい顔でチキに耳打ちすると、あどけない顔を一転させ、マルスを見上げてひたすら謝ってきた。涙ぐんでさえいる。

 この時、マルスはチキの表情に対して不覚にも動揺し、周りに助けを求めてしまったのだが、これには一同の笑いしか返ってこなかった。剣の求道者でも小さい女の子には弱いらしい、というわけだ。

 そういう問題じゃないと半ばむきになって反論したところで、シーダや他の王族には内緒にしておくと意味のわからない方向で援護され、マルスは無駄になりそうな努力を諦めることにした。こんな姿を容認する形になったのは不本意でしかないのだが。

 なお、主にオーブを捜すためマルス達と別れていた元盗賊と傭兵達はその顛末を聞いて、こっちはこっちで必死にやっていたのに、そんな面白い事をやっていたのはずるいじゃないかと笑いながら抗議した。当初の目的である星と光のオーブは、片方をラーマンの手の者に奪われていたが、マルス達がついでのように倒していった連中のひとりが持っていたため事なきを得ている。





BACK                     NEXT




サイトTOP        INDEX