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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 1-3






 マリクとミディア率いる大部隊が敵将スターロンの部隊を壊滅させ、解放軍はカシミアを制した。

 ラーマン寺院はガーネフの影響下にあり、侵入者を全て焼き尽くすという殺戮の女神が寺院そのものを支配している、と脱出してきた寺院の僧侶から聞かされ、解放軍の首脳は対処法を検討し始めた。

 それと共に、今回の戦果をあらためている。

 いつも通りに大半の者は働きに応じて報奨を受けているが、カインは部隊の暴走に関して厳罰を求め、実際に部隊の縮小を命じられた。だが、島まで退いた後に、潜んでいた黒騎士団の聖騎士の攻撃を率先して食い止めた事を考慮すべきだと、その時共に島に居たハーディンが擁護して、部隊縮小の命は免れた。

 暴走の現場に居合わせたアベルはというと、僚友の危機を救い、戦場を正しく導いたということで、聖騎士の称号を得ることになった。

 だが、この結論にアベルは反発した。自分も同罪であるはずだし、今回の顛末で聖騎士の昇格が決まるのはおかしいと訴えたが、結果的に解放軍は勝ちを収め、これまでの懸案だったアリティアの新聖騎士誕生もこれでやっと落ち着くのだからと説得され、諸々の事を鑑みて引き下がった。

 だからといって納得しているわけではない。アベルの私感としては、聖騎士に昇るのはカインであるべきだった。アリティアの、ひいては主君マルスへの熱意はアリティア騎士の誰よりも強い。それだけが重要ではないが、どこか一歩引いて見る節のある自分よりよほど聖騎士の資質があるはずだった。

 この結果を受けて、アリティア騎士、ことに今回の問題に関わったアベルとカインの部隊では不穏な気配が漂っている。アベルの部下がカインやその部下をなじる発言が出ているとあって、アベルは厳しく律したが、当のカインがこういう事は仕方ないと割り切ってしまっている。

 ならば、カインの部隊を分断させた張本人はというと、これがみつからないのだという。戦死ではなく、顔も名前もわかっているのに、行方が知れない。もしや敵の元に走ったのかと思ったが、そもそもアリティア東部のなにがしたる郷士は存在しないという話が持ち上がってきた。東部出身者を集めて情報を統合すると、その土地には似た年頃の似た郷士がいるが、アリティア奪還の戦いで足を折って家に帰っているのだという。となると、そこへまんまと潜り込んだと考えるのが適切だった。それにしては東部の訛りが完璧だったという証言がついてくるのが気になるが、敵の手の者が潜り込んでいたのは確かである。

 ある程度の数は選べるとはいえ、全ての兵士がカインの選抜によるものではない。突き詰めていけば彼の手落ちではなく、運が悪かっただけだ。

 たかが運、されど運。運に見放された者は戦勝をも掴めなくなる。

 そういう意味で今回の結果は正しいと言えるが、昇格を告げられたアベルとしてはやはり納得がいかない。同じ結果になるなら、槍の試合で決めてくれた方がよほど良かった。カインに槍で後れを取るつもりはないし、まず負い目を感じることにはならないだろう。

 しかし、そんな感情を推し量るでもなく、出くわす人々の多くは聖騎士の昇格を祝ってくる。形だけでも礼を言わなければいけないとわかりつつも、百を超える辺りで気持ちに限界が近づいてきた。

 そこで出会ったのが、短い赤毛の天馬騎士だった。聞けば、この一五歳程度と見られる少女が、解放軍にメリクルレイピアをもたらしたのだという。

 見かけによらず剛毅なものだと賛辞を呈すると、これまで恒例になっている聖騎士昇格のお祝いで返された。だがそれだけではなく、人の容姿をやたらと褒めてくる。

 マケドニアでは馬に騎乗する騎士の印象があまり良くないらしく、彼女は聖騎士というものをあまりいいものだと思っていなかったが、アベルを見てその考えを改めることを決めたという。

 無茶苦茶な思考だが、いつの間にかアベルの面持ちはほころんでいた。面白い娘だと、そんな風に思ったのである。





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