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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 1-2




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 アカネイア解放軍の主だった国々は足場となる領土を全て取り戻し、ドルーア帝国の一軸を成すグルニアを攻めようとしていた。

 アリティアの南西からカシミア大橋を越えてラーマン寺院、そこから南下すればグルニアに至るが、陸路の場合は山脈と海に挟まれた非常に狭い平地を西回りに進み、橋を押さえなければ王都にたどり着けない。それでもなお、王都は山と森に囲まれて攻めるには困難だった。

 強力な騎馬部隊を数多く擁する解放軍としては、陸路を突破するのが理想的な行軍路ではあるが、狭い道では大軍を活かせないし、グルニアは大陸随一と呼び声の高い黒騎士団を出撃させ、更に名将と呼ばれる黒騎士カミユが指揮を取るのは確実と見られている。攻める側の不利が際立つ地形であるだけに、ラーマンからの行軍は再考の余地があった。

 帝国側の力が弱まっている今でも彼らは強気の姿勢を見せ、解放軍がアリティアを奪回した二十日後にはカシミアに黒騎士団の大部隊が配置され、解放軍を迎え撃とうという意思をはっきりと見せた。この部隊の中にカミユがいないという情報はもたらされていたが、いつ出てきてもおかしくない。そうでなくても、これまで快進撃を続けている解放軍と黒騎士団が激突すれば、進むも退くも困難な戦いになるのは容易に想像できた。

 そして、グルニアへの侵攻とは別に、解放軍はガーネフの暗黒魔道に対抗するためにグルニアの途上にあるラーマン寺院を訪れる必要があり、そうした意味でもカシミアの戦いは避けられなくなった。

 相手が黒騎士団の一軍ということで、国王を討たれたアカネイアとアリティア、特にアカネイアの対抗意識が強くなり、今回のカシミア越えのみならずグルニアに勝利するまでは、アカネイアが完全に解放軍の先頭に立って進軍することが決定している。アリティアは前線に並び立つことが許されたものの基本的には補佐に当たり、その後方に予備戦力としてオレルアンが配置された。他の勢力は海路の牽制に回っている。

 初夏の気配を窺わせる五月下旬、カシミア大橋に解放軍が踏み入った。

 アカネイアの騎馬部隊が大橋を駆け、唯一の中継点である島へ到達する寸前、黒騎士団の部隊が上陸を阻止せんと行く手を塞いだ。

 すぐさま交戦態勢に入り、アカネイア軍は数の優位を利用してひたすら槍で押していく。だが、戦上手の黒騎士団がそれだけで簡単に退くことはなく、しかも橋上ではアカネイア軍の数の利を平地ほど生かせずに、回り込んだりおびき寄せるといった戦法が思うように使えない。守勢へと傾いていくのをどうにか踏みとどまるのが精一杯だった。

 こういう時に頼りがいのあるマケドニアの天空騎士は、黒騎士団のホースメンに撃ち落されかねないという理由で偵察に回されている。わずか二百にも満たない彼らの存在をアカネイア騎士は軽く見ていたが、この時ほど上空から援護できる戦力の重要性を感じたことはなかった。

 数多くの両軍兵士が橋の下に落とされる展開を幾度も重ね、解放軍はどうにか島をおさえることに成功したが、その眼前には次なる黒騎士団の部隊が迫っていた。

 ここに至るまでの戦いだけで大きく消耗したアカネイアに代わってアリティア騎士が前に出ると、気勢は一気に解放軍へと傾いた。未だ聖騎士の称号を持たぬ若い騎士ふたりの部隊が黒騎士団と同等に渡り合うどころか、明らかに押し返し、敵の本陣がある対岸まで渡りきってしまいそうな雰囲気すらあった。彼らにそのつもりがなくとも、解放軍の勢いをもたらしているのが何なのかを敵にも味方にも嫌というほど見せつける結果になった。

 アリティア騎士には攻められる限り攻めよという命令は下されていたが、あくまでも島を死守しろという主旨であって、橋を渡りきる想定ではない。アリティア勢の先頭に立っていたカインとアベルは、対岸の情報がいまひとつ不足していると感じ、相手が黒騎士団ということもあってこれ以上攻め入るのは避けた。

 だが、敵の本陣を目の前にしており、なお悪い事にこのふたりの騎士は聖騎士への審議が進んでいる最中だった。いずれは昇れるだろうが、どうせだったら早く昇ってもらいたい――どちらの部下もそんな事を思っていた。

 そんな共通の思いは、更なる敵の襲来を告げられたと同時に加速する。

 カインとアベルは攻めながらも橋を守ることを念頭に置いて戦ったが、黒騎士団ともつれるような戦いへ展開する中、カインの部下が敵を押し返して突出する格好になった。もう一度攻め入れば橋を渡りきろうという位置だ。

 対岸一番乗りを果たす意味は大きい。隊ばかりでなく個人への報奨も格段のものになる。

 そんな事が脳裏によぎったのか、何者かが発した突撃の号令によって突出していた部隊が先頭を走り、つられて少なくない後続の部隊も動いていた。

 勝手に突撃の命令を下した人間がいたことにカインは驚きと心苦いものを感じつつ、すぐに回収すべく伝令を放ちながら部下を追った。その後ろからアベルの隊がカイン達を追ってきている。順調に攻めているとはいえ、相手が相手だけに孤立した時の危険は倍加する。申し訳ないと思いながらも、友人の的確な判断に感謝した。

 本来の目的とは異なる理由で対岸に到達し、伝令が敵の接近を告げるのと、木立をかきわけて迫る黒い騎馬の群れが視界に入るのが同時というさなか、カインは部隊の立て直しを図るべく自ら前に出た。当然ながら敵の目を引くことになったが、深入りに気づいた味方もカインに気づいて部隊に戻ってきた。

 完全な陣形を組むまでの時間はなかったが、カインはこうした不完全の形からでも柔軟に対処できた。部将たる自分へと殺到する敵の群れを前にしても、その場にいる者ができる事を即座に判断して指示を出す。

 そして、本当の最前線へ出て号令をかけると共に馬を走らせ、並み居る敵を槍で倒していった。その様は突くなどといった悠長なものではなく、左右へなぎ倒すと言うのが正しい。

 ただでさえ部将は目立ち、これだけ派手な動きをする。その上、この局地戦は黒騎士団の方が数は上回っていた。槍を振るうカインに向けられる敵の圧力は、並の部将であれば百数えるうちに押し潰してしまうほどだ。部将が自ら切り込む事自体が無謀な戦い方と言えるが、カインは考えなしに飛び込んだわけではない。

 粉塵と血煙をかきわけてカインがグルニアの聖騎士と正対した頃、後方についていたアベルの部隊が敵陣を脇からかき乱していた。指揮が届かなくなって弱体化した所から壊滅させながら、一方では敵の新たな隙を見出して襲いかかる。

 この余波が中軸に影響し、今にもカインと槍を交えようかというところにあった黒騎士団の聖騎士は退却していった。戦闘の時間はわずかなものだったが、そうさせるだけの損害をうまく与えられたようだ。

 アリティア騎士はこれを追討せず、戦場をわずかに離れてカインが散っていた自隊の収集と確認を始めたところで、今度は西から敵部隊の接近を伝令が報せてきた。

 先程は退けられたが、カインの部隊を中心として損害の生じた今は同じ事をもう一度やる力が残っていない。急いで本隊まで退却しようと慌しく準備する中、アリティアの大部隊を率いていた聖騎士アランが合流してきた。

 事の経緯を詳細に説明する時間はなく、アランの指示によってカインは後方へ回され、アベルがその場に残った。オレルアン勢からロシェとザガロの部隊も駆けつけ、橋を背にした形でアリティアとオレルアンが並び立った。

 黒騎士団への手応えはある。オレルアンもアリティアに引けを取らない事を知っているから、あとはいかなる状況でも油断しないよう心がけるだけだった。

 西から来るグルニア軍は一度に迫る数こそ多くないものの、やはり黒騎士団の部隊で構成されている。のみならず、彼らは銀の槍を手にしていた。他国では栄誉の末に聖騎士が与えられる槍である。部将は騎士であるというから、それ相応の理由があるのだろう、前線の解放軍騎士はそう判断した。

 ロシェがこの先触れの相手を名乗り出て、槍を交える。こちらもオレルアンで次の聖騎士と最も呼び声高い騎士であるから、敵が銀の槍を携えていても引くことはない。その代わり、力で押す型の部隊同士がぶつかっているため、いちいちの反動が激しかった。

 その間隙を突いてザガロが援護に入り、アリティア騎士は様子を窺いながら時機を計る――が、西から来るグルニア勢は隊列を長く取っており、その最後尾に聖騎士がいると伝令から報された。では、東の本陣を始めとする敵はどうなのかというと、未だに動きはないという。

 距離がかなり離れているからさほど不気味さはないが、アリティアが西に集中すべく背を向けた隙を突いてくる可能性はある。

 ここは、時間が多少かかっても橋を背にする形を維持して戦うべきなのかもしれない。アランがそうした判断を告げようとした時、後方から一気に駆け上がってくる騎馬の小集団があった。

 アランはその中に主君であるマルスの姿を認めて道を開ける。だが、身辺を固める騎士はアリティアとアカネイアが半々だった。よく見ると、その中には魔道士も混ざっている。

 アカネイアの騎士が声を上げて、グルニアからアカネイアの宝剣メリクルレイピアを取り戻し、王女ニーナの命によって解放軍を率いるアリティア王子マルスに託されたと告げた。

 マルスが金の細工に彩られた宝剣を抜き放つと、周囲の解放軍騎士は一気に沸き立った。

 グルニアにあったはずのメリクルレイピアが、何故この時期に戻ってきたのかという疑問がアランには生じていたが、この機を逃す手はない。黙ってマルスを仰いだ。

 マルスは従えてきたマリクとリンダをそれぞれ東と西に振り分け、ほどなく後方から追いついてきたアカネイア勢を加え、全ての勢力をふたつに分けてこれも東西に向ける指示を下した。

 西ではそれまでは西で交戦しているロシェ達を援護すべくリンダがボアから譲られた電撃魔道トロンを放つと、アカネイアの部将とロシェが追い討ちをかけた。アベルの出番はというと、最後に残った聖騎士の部隊を叩く時だけだ。先の突出に対する配慮を込めたつもりだったが、実際は更に高まった解放軍の士気と強力な魔道で足りてしまっただけのことだった。

 東に目を転じると、アカネイア騎士を率いるミディアとアランが各々の大部隊と指揮能力をもってして黒騎士団に対抗し、マリクとザガロは援護に徹した。マルスはというと、メリクルレイピアを手にするだけで戦闘には加わっていない。敵将との対決も自分で出ていくことはしなかった。





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