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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 0-3






 少女は自分の幸運を強く噛み締めていた。

 グルニアにて拘留されること二月。幼い顔立ちが幸いしてか天馬騎士の見習いと思われ、想像していたほどの無体な扱いは受けなかったものの、行動の自由はほとんど得られずにいた。

 捕らわれた時、解放軍へ寝返ろうとしている騎士につき従って来ていただけだと弁明した。マケドニア本国に即送還されるのを避けるためだ。この「騎士」は自分の事なのだが、でっち上げはあっさりと通った。他の事に関しては怯えながら知らないと言い続け、時には泣き顔を見せればグルニアの尋問兵は引き下がった。マケドニアと違い、この年頃の少女兵に免疫がなかったのだろう。

 その代わり、天馬騎士や竜騎士に関して知っている限りの事を話す事も求められたので、本当に見習いだった頃の事を必死に思い出してボロが出ないようにした。どちらかというと、こちらの方が大変だった気がする。

 しかし、グルニアの心変わりで突然マケドニアに還されてしまうのでは、とずっと不安でならなかったのも事実だった。何も後ろめたい事のない天馬騎士を装うにはすぐに限界が来ると予測し、多少訳ありの、しかも証言能力に欠ける身分にしておけば簡単には手放さないだろうと思ったが、賭けの要素が非常に強かったのだ。

 そんな中、少女がどうにか脱出の機会を得て、主のものと言っておいた自分の愛馬を取り戻し、空に至る。その鞍上には鞘つきの細剣があり、鍔や鞘には金による精緻な装飾が施されているが、決して装飾用の剣ではない。アカネイアから持ち去られた宝剣、幻の剣とも呼ばれるメリクルレイピアだった。

 宝槍グラディウスがカミユの手にわたったという話はグルニアの中で常識のように語られていたものの、この細剣に関しては使い手を選ぶということで、グルニア城宝物庫の中で無造作に放り出されていた。それを少女が手に入れたのは、脱出の際に通った裏道からたまたまグルニアの王族筋に当たるらしい貴族がメリクルレイピアを鞘から抜けずに悪戦苦闘した挙句に投げ出したのを見かけ、拾得してきた次第である。

 邪魔者がいない空の上で少女はたったひとり、物思いにふけっていた。

 姉ふたりはもう解放軍に合流しているはずだから、メリクルを取り返しに行っていたと言って遅参は帳消しにしてもらおう。

 そんな一見能天気な思考をするこの少女は、ペガサス三姉妹の末妹エスト。一五歳にして天馬騎士の叙勲を受け、わずか一月で一騎士から五十人隊の長へ駆け上がった才の持ち主である。





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