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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(ex) 「諸記 カシミア〜グルニア戦」
(2007年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
ex
605.05-07
[CASHMERE-RAMAN-GRUNIA]




(0)


 ほの暗い視界の中、一本の蝋燭の灯だけを瞳に映し、アカネイア王女ニーナは悩み続けていた。

 大陸の安寧へと向かう戦いの中央に立っているというのに、敵ながら命を守ってくれた男の事がまだ頭を離れない。

 グラで心奪われていた時、カダインを攻めていた解放軍はこれまでにない苦境に立たされた。まるでその心象を罰したかのように。そして、自分が何者であるかを思い出した。

 ――わたくしはアカネイア王女として、彼らを負けさせてはならない。

 そう決意したはずだったのだ。

 王家でただひとりの生存者となってから、彼女は大陸の命運を握る表舞台に立ち続けている。それを過ぎたものと感じることもあった。

 末の王女とはいえ、王国が健在だった頃に省みられなかったわけではない。むしろ、その程度の関心で充分だった。

 三年前、アリティアがグルニアとグラの前に敗れた時、アカネイアの版図が侵されていると――それは、アリティアが元からアカネイアの剣を自称していた面も含まれての事ではあったが――感じ、それでもなお、当時の王族同様アカネイア本国が負けるはずはないと思っていた。アリティアは伝説を負うと言っても、小国であり、アカネイアとは比較にならない。だから大丈夫だろうと。

 その考えによってアカネイア王族はたったひとり、ニーナだけが残された。

 そして、今のニーナはアカネイア大陸をドルーアの支配から脱するために、これ以上ない象徴として解放軍の中心に在る。

 だが、カシミアを前にして、今ほどこの立場に逡巡を覚えたことはなかった。

 彼が敵将として現れた時のことは何度も頭の中をよぎった。アカネイアの王女として、戦うことは避けられない。果たして、理性は最後まで抑えきってくれるだろうか。

 ニーナは祈りを捧げようとしたが、瞳は蝋燭の灯だけを映して離れようとしない。

 紋章によって勝利を得るアカネイアの王女は、その代償に愛する者を失う。

 百年前の伝説はニーナが取るべき行動を明快に示している。敵であればなおのこと捨ててしまえと訴えている。

 それなのに、ニーナの心は未だ揺れていた。





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