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「ENEMY IS D」 2-5







 城中を震わせるモーゼスの断末魔はドーガのいる回廊にも響き渡った。

 これだけわかりやすい合図であれば、戦いの終結を把握するのに苦労はない。

 この攻防の際、味方がひとり倒れたのに対し、敵方の屍は二十を超えている。上出来だった。

 血塗れの姿でドーガは大音声をもって、ドルーア兵に怒鳴った。

「竜の大将は死んだぞ! 武器を捨てて投降しろ!」

 かなりの部分で本心を込めた言葉だったのだが、そんな願いに反して、ドルーア兵はより一層殺気を強めてこちらににじり寄ってくる。

「アリティアの王子は疲弊して動けぬはずだ、今こそここを破って討ちに行け!」

「何だとぉ……?」

 雇われ兵なんぞどうせ降伏するか、潰走していくと思っていたのに、面倒な手合いにぶつかったものだった。この回廊からマルスを急襲すれば確実に討てると吹き込まれたのか、よほど金を積まれたのか。

 わらわらとやってくる槍歩兵の群れを見るにつけ、ここにマリクがいればと思わずにはいられない。爽快なほどに敵兵をなぎ倒してくれるだろう。

 だが、優れた魔道を持たない以上、敵をなぎ倒せるのは自分の腕だ。

 そうして覚悟を決めると、ドーガは視界を狭める面頬を跳ね上げた。

 そして、守りに最適な狭い回廊を飛び出し、敵の雄叫びに負けぬがなり声を供にして躍りかかる。

 自分を狙う刃を恐れず、己の槍で先頭の兵士を列ごとなぎ倒し、幾重にも重なる人の波を、あたかも垂れ幕のように一枚、また一枚と取り除いていくドーガに、これこそは討ち取る甲斐のある、と進み出ようとする者はいない。この場に立ち合った者が後に述懐するところによると、その形相、気魄は、怒れる神のようだったと言う者が居たほどだった。

 後続の一片が逃げ出すと、これ幸いとばかりに他の連中も追いかける。恐怖が伝染したのか、回廊からドルーア兵がいなくなるのにさほど時間はかからなかった。

 敗戦の兵など大将が潰れればこんなものだが、だったら最初から降参しておけとドーガはぼやいてみせたが、捕虜になったドルーア兵によると、モーゼスを倒されても構わず突き進んで、回廊から玉座の間を急襲しろという指示だったのだという。

 ドーガが蹴散らしたから、この時は三百以上――多くても五百くらいと見込まれていたものの、最終的には城中に潜んでいたドルーア兵が集結して、その数は三千以上に膨れ上がるはずだった、と捕虜が供述したため、ドーガへの評価がまた上がった。

 しかし、本人は飄々としたもので、あんな狭い回廊で三千も通そうとしたところで数が生かせないのはわかりきっているのに、そんな策を真面目に採用するドルーアがおかしいのだと、あっさりと切り捨てたのだった。





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