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「ENEMY IS D」 1-3







 アリティアに駐留していた百五十騎の竜騎士達は、当初東西に長く伸びた解放軍の騎馬部隊を襲撃するはずだった。

 それを阻んだのは、東の空から現れたミネルバと白騎士団のパオラとカチュアの部隊。竜騎士団の面々にとってはたとえ王族であっても国賊である。

 竜騎士団の指揮官はミネルバの制止を無視して、敵部隊への突撃をかけた。

 竜騎士百五十に対し、ミネルバ達は竜騎士三十と天馬騎士百八十。竜騎士と天馬騎士の戦闘能力を比べれば前者が有利だった。

 しかし、この天馬騎士達はただ天馬に乗れて偵察をこなすのが主任務の騎士とは格が違う。

 一騎で数騎の天馬騎士に攻めかかる竜騎士に対し、彼女達は連携をもって立ち向かい、飛竜の上から叩き落すなどして、確実に敵の数を減らしていった。

 もっとも、連携ばかりでは限界が出るため、援軍を請う伝令を方々に放つ。前線の騎馬部隊から来る軍隊の方が早く駆けつけるだろうとミネルバは読んでいた。前線の最後尾はホースメンの多いマチスの部隊だから、見込みを間違えなければ勝つには難くない。

 カダインの時でもそうだったが、竜騎士団は特にミネルバの見知った顔が多い。心ある者がいてくれればと願えど、そのほとんどが敵として彼女の前に散っていく。

 ミネルバはぎりっと歯を軋ませる気配を見せ、眼前の敵竜騎士に言い放った。

「あくまでも貴公らはドルーアに従って命を落とすか!」

「我らは何があろうとも陛下に忠誠を誓うのみ! 王妹殿下こそ愚考から目を覚ませられませい!」

「……竜人族に身を売り渡して何が人ぞ、奴らは人間を滅ぼそうとしているのだぞ!」

 最後の方は吼えるように訴えたが、応えていた竜騎士は眦をきつく吊り上げて睨み据えてきた。

「ミシェイル様はマケドニアの未来のためにアカネイアと敵対すべしと決意された、それを過ちと断ずるならば何者であろうとマケドニアの敵だ!!」

 どこまでいっても相容れる余地がない。

 これでは、窮地に追い込んだとしてもミネルバの言葉を聞き入れるとは思えない。ならば、決着をつけなくてはならなかった。

 弓の援護を得る戦法の都合上、敵と距離を作る必要がある。ミネルバは一旦自らの騎竜を退かせて、西へ逃れる号令を出した。

 この時点で、敵勢は三十騎ほど数を減らしている。壊滅へ誘うには十分な打撃だった。

 西進のさなか後背の様子を窺い、それとなく高度を落としていく。

 やがて目的の騎馬部隊が見えてくると、先頭の集団に大きく合図を送らせてすぐさま彼らの上空をするように指示を飛ばした。

 一方、追いかける側の竜騎士達は地上に弓を構える騎士隊の存在に気づくと、即座に隊を停止させた。

「誘い込んだつもりだろうが、その手には乗らん」

 正面から突っ込んで弓矢に射落とされてはただの恥さらしだとばかりに指揮官は吐き捨てたが、地上の騎士隊が三つの旗を掲げているのに気づいた。

 一に解放軍の旗、二にミネルバの紋章の旗、三に何らかの意匠がある赤い旗――最後のはわからないとしても、これらが意味するのは、彼らがミネルバの臣下だということだ。

 指揮官は今さっきの判断を翻して突撃命令を出した。

「あやつらも我がマケドニアの反逆者ぞ! 騎馬騎士団の弓など恐るるに足らぬ、陛下に背いた罰を与えよ!」

「ならば、私が先頭に立ちます!」

 勢い込んで指揮官に願い出たのは、先ほどミネルバと激しくやりあっていた竜騎士だった。

 この中で飛びぬけて優れているわけではない。しかし、指揮官は納得したように頷いた。彼が反逆者に格別の思いを抱いているのには理由があったからだ。

「よし、存分に暴れるが良い」

 有難うございます、と竜騎士が言うや、指揮官は地上の兵を目がけて高らかに宣言した。

「ゆけ、奴らを殲滅せよ!」

 攻撃される側のマチス達は、一旦停止した竜騎士の部隊が急接近するのに、まずはホースメンの第一隊が一斉に弓を構えた。

 機動性と歩兵に対する馬力が持ち味の騎馬兵にとって、この状況はあまりにも不利だった。無傷で来られた時よりはましとはいえ、ミネルバ達が通過したのに釣られてやってくるのと、今回のような形なのとでは条件が似ているようでかなり違う。こちらがホースメンとわかっていてなお突撃をかけてきたのも、精神的優位を証明しているようなものだった。

「恐れるな、翼の付け根や腹、目を狙え!」

 ホースメン部隊長が己の音声(おんじょう)だけが頼りとばかりに、喉を枯らす。どうにか踏みとどまるか恐怖に転ずるか、危うい気配の証明でもあった。

 先頭の集団が弓の届く範囲に入るところで、

「撃て!」

 部隊長の、祈りのようでもある命令が轟き、数百の矢が一度に放たれる。

 矢継ぎ早、という言葉の通り、弓を持つ者は目に止まらぬ勢いでひたすら矢を放っていく。自分の気力さえも矢に乗せているのではないかというくらい、彼らの形相もまた必死だった。

 敵の竜騎士が侮ったほど、ホースメン達の腕は捨てたものでもなかった。矢の嵐を潜り抜けることができた騎竜はわずか二割、普通の迎撃であれば上出来の部類にさえ入った。

 だが、ホースメンは直接的に受ける攻撃に対して無力である。上空から振るわれる竜騎士の槍にあっけなく斬られ、跳ね飛ばされ、刺し倒される。

 騎馬騎士はそんな彼らを守ろうとするが、上からの攻撃に著しい不利を強いられるのはこちらも同じだった。

 殊に、この騎馬部隊を率いるマチスは十騎を超える竜騎士に包囲されていて、突撃隊で鳴らしているシューグ達がどうにか防ぐが、元からある実力の差はいかんともしがたい。傷つけられはするが、敵に痛手を与えられないのである。そして、味方の損害が増えていくのを目の前に見ながら、どうすることもできない。

 上空を睨んで歯噛みするマチスに、副官ボルポートが馬を寄せてきた。

「じきに、ミネルバ様達が来ます。それまで堪えれば……」

「だからって、このまま耐えろってのか」

「他に仕様がないのです。我々が飛び出せば、狙われるのはあなたです」

 腕の立つシューグ達ですら防戦一方だというのに、それがマチスに代わってしまったら、二合目にはもう歯が立たなくなっているだろう。一撃目でさえも危うい。

「だからって……」

「ここにいたか、絵描き、、、

 あまりそう呼ばれる機会はないが、おそらくは自分の事だろうとマチスは察していた。名前の由来に画家を持つ人間はそうそういない。

 声の主が誰かと振り仰ぐと、竜騎士が左の逆手で槍を構えていた。どうにか空の上にあるものの、人も竜も体のあちこちに矢が突き立っている。左手で槍を持っているのは右腕に矢が刺さっているためだと思われた。

 顔は兜に隠れているし、声だけでは誰だかわからない。

 それに、そもそも竜騎士に知り合いなんかいただろうかと訝っていると、矢だらけの竜騎士はひたとマチスを見据えてきた。

「反逆者の貴様だけは許さん!」

 言い放ち、不自由な姿勢からマチスをめがけて、左腕一本で槍を投擲してきた。

 しかし、体中に刺さった矢によって勢いと狙いが狂ったのか、遥か手前で軌道が逸れ、斜め前で彼を守っていた騎馬騎士の頭が砕かれる。

 一瞬、何が起こったのかとすら思ったが、結果として部下が自分の身代わりになったのだと理解すると、マチスは反射的に槍を構えた。これはもう、敵う敵わないだのと言っている場合ではない。

「おれを許さないと言うならここまで降りて――」

 マチスの口上が終わる前に、竜騎士の背後から、あるいは別のところから、味方の竜騎士や天馬騎士、つまりはミネルバ達が上空に残っていた敵竜騎士に急襲をかけてきた。

 天馬騎士が多いとはいえ、戦いに熟練する彼女達はみるみるうちに騎馬部隊の脅威を取り除き、敵の数が残りわずかになると、向こうもさすがに降伏となって、戦闘は終息した。

 勝ちを収めはしたが、まだまだ休めない。戦果と人員の確認、怪我人の治療、手の空いた者で戦死者の埋葬を行う必要があった。

 部下にこれらの仕事を任せている間に、マチスはふと気になってさっきやりあった手負いの竜騎士を探したが、ミネルバに呼ばれてその件は諦めることになった。

 今後の進路と戦線に復帰できない兵士の処置を取り決めてミネルバと別れ、マチスは自分の部隊の出発準備が整うと最前線を追い始めた。こうして後方の戦闘に関わることがあっても、必要性のない限りその場に残らず残りの処置を飛行部隊に任せ、最前線への合流を心がけることが今回の作戦における騎馬部隊の方針だったからだ。

 この戦いで出たマチス隊の死者は四二人。

 決して強いとはいえない部隊の、ひとつの結果である。





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