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「ENEMY IS D」 1-2







 祖国奪還に燃えるアリティアの騎士を先頭に、国境を突破してハイペースで西進を続ける先発隊で、マチス達はこの段階から苦戦を強いられていた。

 遊撃の役目を与えられているとはいえ、配置は先発隊の最後尾。ホースメンの多い部隊が一番後ろにいて何の役に立つものか。

 おまけに、一万近くもの軍勢が通過した後の地面は掘り返されまくって、不安定極まりない。

 そして、長らく馬から離れていた人達には、このハイペースも辛いものがあった。一日の行軍を終えた頃には、明らかに疲労の色を見せる兵士が何人もいる。日数を重ねれば尚更だった。

 これでは敵と戦う前に使い物にならなくなるのではと危ぶみながら、アリティアに入って最初の橋を渡ろうかという時に、斥候に出ていた味方の天馬騎士が上空から声を張り上げてきた。

「南方、王都方面より敵竜騎士およそ百五十騎!」

 マチス達ばかりでなく、その前にいたアカネイアの騎士達もざわつく気配を見せた。先頭近くにいるマルスやハーディンに伺いを立てていては間に合わない。すぐに迎撃の陣形を整える。

「ホースメンを前に出さないといけないんだろうな」

「難しい戦いですが、そうしなければ話にならないでしょう」

 頑強な飛竜にまたがる竜騎士が抱える唯一の物理的な弱点が弓矢である以上、彼らに頼らないことにはどうにもならない。

 副官ボルポートの助言に従ってマチスは部隊を展開させたが、解放軍のマケドニア人の中には竜騎士には勝てないという意識が強く根付いている。

 マケドニア軍における騎馬騎士は、竜騎士や天馬騎士といった天空を駆ける騎士に比べて戦略的価値や騎士としての地位がかなり低い。それどころか、騎獣を持たない鉄騎士団、魔道部隊、歩兵部隊よりも低く見られている実態がある。他国において馬は立派な騎士の持ち物として認められているが、マケドニアでは天馬よりはるかに格下の生き物で、山の多い自国では軍隊を育てづらいことから地上で速い足が要る時に用いられるに過ぎない。

 地位だけでも天と地の開きがあるというのに、実際の強さでもそれに準じていて、行動の主導権が相手方にあるとなれば頭数が三倍あってもまだ足りない。

 悲しいが、これが現実である。

「せめてこんな開けた所じゃなければなぁ……」

 一面に広がるなだらかな平地とその向こうに見える水面を恨めしげに見やり、 自分達の前にいるアカネイアの騎士達はどうするつもりだろうと様子を窺っていると、彼らは彼らで迎撃の陣を固めていた。

 先日の件があるからマチスの心情としてアカネイアの連中に対して警戒心がある。がっちりと背を守りあうような形にならなかったのは良かったのか悪かったのか、判断のつきかねるところだった。

 斥候の天馬騎士が視認してこちらまで駆けつけたのだから、じきに敵の部隊がやってくるだろう……おそらくはこの場にいたほぼ全員がそう思っていたはずだが、じきに一刻が経過する頃になっても竜騎士一騎すらやって来ない。

「これは、足止めの策であったかもしれませんな」

「戦うつもりはないってことか?」

 ええ、とボルポートは頷く。

「隊列が伸びきっているとはいえ、この辺りの千を超える軍勢にたった百五十で攻めかかればいずれは退却を強いられるのだから、空からの警戒を意識させればそちらの方が効果は大きいと踏んだのでしょう」

「だから、斥候に見られただけで十分だと思ったわけだ」

 甘く見られたものである。

 こんな状況で戦わなくて済んだのはもちろん嬉しいが、一方では顔見せぐらいしに来いとも思う。

 念のためしばらく待機を続けて、何もなければ出立ということで話がまとまると、マチスの目は敵の現れなかった空に向いた。

「どうせ、ああいう連中といつかは戦うんだろうけどな……」

「解放軍に居る限りは避けられないでしょう。ただ、それにしては我々の手数が少なすぎるのが悩みの種ですが」

 解放軍に所属するマケドニア勢はおよそ千。打倒ミシェイルを掲げる軍勢としては相当に物足りない。もっとも、アリティア奪還の旗を立ち上げたマルスが最初に持っていた軍勢は二百程度であることを省みれば、アカネイアの後ろ盾があって千の人間がいるというのはそう悪いことでもないように見える。

 しかし、マルスと違ってミネルバは国内の諸侯や将軍をミシェイルから奪い返す必要がある。これが曲者だった。

 そして、今ひとつの懸念は兵士の質である。

 同じ同盟軍騎士でもアリティアやオレルアンと比べて、マケドニア騎馬騎士達は個々の実力で明らかに劣っている。

 その最たる原因は他ならぬマチスにある。解放軍の中で力関係がはたらく都合もあるのだが、最前線に行こうとしない傾向が兵士の腕を鍛える機会を奪っているのは確かだった。

 ついてきてくれている人をマケドニアに帰したい気持ちは未だにある。だが、そのためには強くなることが求められる。

 といっても、指揮に関しては各部隊長とボルポートの力があるからどうにかなっているわけで、分不相応な場所に行けばとんでもない事になるのはやる前から目に見えている。

 心の中で声なき呻きを発し、マチスは隣の副官を見た。

「もし、おれじゃない奴がこの隊を指揮したらどうなるかな」

「どう、とは? 僭越ながらパレスの時に代行させていただきましたが、兵をあれほど失ったことは他にありません。……そういうものです」

「パレスん時は、物凄い激戦だっただろ。むしろおれじゃなかったから、それで済んだんじゃないか?」

「……あまり言いたくありませんが、ひとりの弱者が率いる千人の猛者もさよりも、ひとりの天才が率いる千人の弱者の方が強い場合はあります。しかし、この部隊をハーディン公やカイン殿、アベル殿が率いても彼らの部下のようにはならないでしょう。こちら側にいるマケドニア人を最も理解しているのは、まぎれもない我々なのですから」

「……はあ」

 何となく論点がすり替えられた気がするが、それには触れないでおいた。

 つまり、率いる人間が強くなるしかないらしい。

 ディールでミネルバと話した時の印象がなければ、部隊長の誰かに指揮官の座を譲ると決められたものを、今ではそれさえもかなわない。

 かといって、勇猛果敢という言葉が似合う連中の真似をするというのも、何か違う気がしてならない。

 にわかに周囲でどよめく声が上がった。

 騒ぎの源を探ってみると、また天馬騎士がこちらに近づいてきていた。今度は東の方から来ているように見える。

 味方であることを確認し、降下する意思が見えたので場所を空けると、天馬騎士はマチスの前に来て請願の言葉を告げた。

「今、ミネルバ様達が竜騎士と交戦しています。どうか、ご助勢ください!」

 ということは、来なかった連中はそっちに引っ張りこまれていたわけだ。

 こうなったからには、当然駆けつけなくてはならない。騎馬部隊が隊列を伸びきったままにして移動しているのは、後方での予期せぬ事態に対応するためでもあった。

「東に引き返せばいいんだな?」

 ご案内します、と彼女が言うのに合わせてマチスは陣を解いて出立するようにと部隊全体に声をかけた。





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