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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(10) 「ENEMY IS D」
(2006年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
10
605.04
[ARITIA]




(0)


 稀に見る味方の苦戦があり、カダイン戦が終わって一息ついた頃になっても解放軍には疲労の気配が漂っていた。

 しかし、既にアリティアから解放軍に呼応する勢力が接触してきているため、次の行動を急ぐ必要があった。大損害をこうむった歩兵部隊の再編成と主力部隊の切り替えがハーディンの手で速やかに行われていたから、近いうちに解放軍騎馬部隊のほとんどがグラを発ち、アリティアに進撃することになっている。

 オレルアン王弟ハーディン、アリティアの若き勇将カインとアベル、アカネイアの聖騎士ミディア、オレルアン狼騎士団四雄たるウルフ・ロシェ・ビラク・ザガロ――主だった将の名を並べるだけでも錚々たるものである。

 軍議から帰ってきたマチスの話に、部下のシューグが首を捻った。

「それだけ居て、どうして俺らまで込みにされてんだ?」

「今度はこっちも頭数に入れてくれたんだと。いい迷惑だけどな」

 自分の部隊の存在は忘れられているくらいがマチスとしては有難いのだが、この辺りは毎回うまくいかない。今回の場合は騎馬と重騎士と歩兵が混ざる部隊の使いづらさからして先発を外れるとばかり思っていたのに、馬を与えるから歩兵に割り振った元ホースメンの兵士を復帰させ、五百の騎馬兵を揃えて来いと言ってきた。

 残りの兵は重騎士隊長に任せる形で後発に配置される。ドーガの主導でアリティア東部の砦を攻めるというから、隊が分断された影響はあまりないだろう。

 編成の切り替えと出発準備を整えるよう各部隊長に伝えて散会させると、ひとりになったマチスは甲に赤く跡のついた左手を目の前に持ち上げた。

 目にすると、じりじりとした熱を余計に感じて顔をしかめる。今日の軍議が終わってアカネイア騎士から絡まれた際、掴み掛かられるのを避けようとしたのがきっかけで力任せに叩かれてしまったのである。

 絡まれた理由はもうというかやはりと言うべきか、ニーナへの反逆心がマチスにあるのではないかと疑ってきたためだった。

 以前だったら堂々と本心を言っていそうなものだが、今ではミネルバの臣下という立場があるから何があっても否定しなくてはならない。だが、大元を省みれば、このケンカをふっかけてきたのはニーナの側である。

 ――わたくしの過ちをもう一度見破った時、反抗を許可する。

 先の戦いで慌しく援護に行くさなかに、気がふれたとしか思えない条件つきの『反逆許可』だったが、その時同行していたシューグと話して、この件に関してはまともに取り合わないことに決めた。これがきっかけで妙な風評が立つことも考えられるが、本当の事を言って弁明すれば泥沼にはまるのが目に見えている。だいたい、ニーナの過失を見破るというのがマチスの身に覚えのない事なのだ。

 幸い、今日の小競り合いは他国の騎士が気づいて騒ぎになりかけたのと相手方に確信がなかったためにすぐに引き下がっていったが、これっきりで終わってくれるとも思えない。

「……面倒なもんを寄越してくれたもんだよ」

 肩を落として左手を冷やしに行ったマチスだった。





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